幕間・屋根裏部屋

 屋根裏部屋のマリーの私室。

 屋根裏ながらもかなり広めのその部屋は、この一月でクランメンバーがこぞって寄付した私物や家具でそれなりに充実したものとなっていた。

 マリーの私室としては客室を改造する案もあったのだが、マリー自身の是が非でも屋根裏が良いという主張により、倉庫として利用されていた屋根裏を大改装して彼女にあてがわれたものだ。

 昨日のうちにクランメンバーの協力で寝室(と言うことになっている、カーテンで区切られたスペース)にベッドを追加し、フラムとの二人部屋として小改装していた。主人であるクロエやローズ達が求婚騒動で混乱している隙を突いて、マリー的憧れであった屋根裏二人部屋を既成事実化したものだ。なかなかに自分の欲望に忠実な少女である。

 フラムの寝支度を整えながら、マリーは機嫌よく夕方の騒動を振り返る。


「今日はすごかったですね、まさか二組(?)もカップルが誕生する場に居合わせるなんて!」

「フラム、ちょっと不満」


 マリーの成すがままに着替えさせられながら、フラムがぽやーとした表情で答える。


「え? どうしてですか?」

「婚約前、やっぱりもっと、山あり谷あり、段階踏まないと。勿体ない」

「なるほど、なるほど! ですけど、庶民の婚姻って恋愛婚でも意外とあっさりしてますからね。あれでも結構盛り上がったほうですよ?」

「そなの?」

「ええ。それに、クロエ様とローズ様って十年来のお付き合いですからね! 両片思いですけど。……でもまぁ、そろそろゴールインしてもいい頃だと思います。

 ローズ様とノイアさんとのお付き合いなんて、ノイアさんが生まれる前からの十数年ですし!」


 いささか語弊がある言い方である。これではローズ=ロイズが、ノイアが生まれる前から彼女を狙っていたかのように聞こえかねない。

 ちなみにクロエ、ローズの両片思いはエリザベートからの情報である。


「むう、出遅れてた」

「その辺りはエリザベートさんが詳しいので、今度お聞きすると良いですよ。いまはお出かけしてますけど」

「エリザベート」


 その名を聞いて、フラムが鼻を引きつかせる。


「……ちょっと苦手?」

「あれ? お会いしたことあるんですか?」

「ない。けど、予感」

「ふぅん?」


 不思議そうに首を傾げるマリーであったが、気を取り直してフラムの髪を整え始める。


「それに、別の匂いも感じる……?」


 そのフラムの独白は、背中に回ったマリーには届かなかった。

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