20.死線 *
「ガロアさん! 早く逃げましょう!」
焦るフィリップが振り返り、一度追い抜いたガロアを急かす。
だがその声にもガロアの歩行ペースは変わらない。破損により過負荷に耐えかねた、折れかけの柱が立てる異音が鳴り響く中、ガロアの涼しい顔には焦りなど欠片も浮かんでいない。
「焦るな。柱を四本折っただけだ。完全に倒壊するまではまだ間がある」
「しかし!」
一番倉庫は凡そ三階建てほどの高さのレンガ積みの建物だ。フィリップにはその壁が自分たちの方に倒れてこないか気が気ではなかった。
だがガロアの計算では壁は建物の内側へ崩れる。つまり現在位置でもさほど危険はない。仮に計算違いがあったとしても、ガロアなら余裕で逃げられる。既にマージンは十分にあった。
「お前にはわからんだろうが、建物の倒し方ってのは計算できるもんなんだ。倒れるまでの時間もな。多少のズレは生じるがな」
「なら今すぐ倒れるってことも」
「チッ」
必要のない危険を騒ぎ立てるフィリップに苛立ち、軽く睨みつけるガロア。
その威圧に我に返ったフィリップの声が尻すぼみになる。
「まぁいい、どうせ結果は同じだ。死体は明日確認するとしよう」
そう言っている間にも倉庫の壁がたわむように崩れ始め、同時に天井が落ちたであろう大音響、地響き、そして土煙が周囲を満たし始める。
「ひいい」
腰の引けたフィリップであるが、ガロアが動かないのを見てかろうじて逃げるのを思いとどまる。ガロアとしてはフィリップが逃げようが留まろうがどうでも良いのだが。
「念のため見張りを置いておけ、明日の朝一で……」
そこまで言って突然口を閉ざすガロア。
それに疑問を抱いたフィリップだが、ガロアがベルをその場に投げ捨てておもむろに背中の大剣を引き抜くのを呆然と見守る。
「え」
「……」
「は? ひえっ」
無言のまま地面に叩きつけられるように振るわれた大剣に反応すらできず、間抜けな声を漏らすフィリップ。幸いそれはフィリップを狙ったものではなく、彼から離れた地面をえぐる。
「ちっ」
飛び散った砂礫を浴びて驚いているフィリップの目に、その大剣を躱した人影が自分の方へ向かってくるのが見えた。
「へぶ」
その人影の膝蹴りを腹に受けたフィリップが悶絶して前に倒れこむ。
その倒れかけのフィリップの体を更に下から潜る様に、土煙に紛れた人影が黒ずくめに襲い掛かる。
黒ずくめが抱えるマリーはベルに対する人質だ。その人影――黒髪のエルフに対する人質にはなりえない。黒ずくめのその常識的な考えが、マリーの扱いについて判断を一瞬迷わせる。
投げ捨てて立ち向かうという判断を下した時には既に遅かった。
ローズは黒ずくめが突き出された短剣を躱して、横をすり抜けざまその延髄に握った両手を振り下ろる。予想をはるかに超えた速度と威力のその一撃に、黒ずくめは一瞬でその意識を刈り取られる。
「ぐぅ……」
ローズはその場に留まることなく半回転して一歩後ろに下がり、背後から隙を狙っていたガロアから距離をとる。そして素早く両腰から自分の獲物を引き抜く。
「チッ」
その人影の膝蹴りを腹に受けたフィリップが悶絶して倒れこむ。
濛々と立ち上る土煙の中、大剣を構えなおしたガロアと、両の手に小剣と短剣を持ったローズが対峙する。
地面に横たわるフィリップとベル、黒ずくめはもはや両者の意識にはない。
「……どうやって脱出した?」
「さあな」
ガロアは油断なく周囲の気配を探る。だが、もう一人の敵、クロエがいるような気配はない。
「クロエはどうした。見捨てたか」
「それもどうだろうな」
ローズは右手で順手に小剣を構え、左手には大ぶりな短剣を逆手に持ち、軽くひざを曲げて構えをとる。
「む……」
それを見たガロアがピクリと表情を動かし、大剣を構えなおす。
ガロアがそれまで眼中になかったローズの実力を認識した瞬間だった。
一方のローズもガロアをどう攻めるか思案する。
(お互い少人数同士、場合によってはサシの勝負となる可能性が高いにもかかわらず、武器は大剣)
大剣は普通に考えれば対人戦闘向けの武器とは言えない。集団戦ならまだしも、一対一ではあまりにも隙が大きくなりすぎる。
にもかかわらず大剣を選択するというのは、二つ可能性が考えられる。
(大剣は囮で腰の小剣が本命。もしくは……)
前触れもなくローズがダッシュして距離を詰める。だが、それに合わせるように一瞬の遅滞もなく大剣が唸り声をあげて振り下ろされる。
それをサイドステップで躱してさらに懐に飛び込もうとするローズ。だが一瞬の直感に従い、逆にバックステップで距離をとる。
一瞬遅れてローズがそれまでいた空間を大剣が逆袈裟に切り裂く。前に飛び込んでいたならローズは真っ二つになっていただろう。おおよそ大剣の反応速度ではありえなかった。
「避けたか」
「どうやら後者だったか」
「何がだ?」
「こっちのことだ」
ローズが想定した大剣使いのもう一つの可能性。
(大剣でもサシでやりあえる自信があるってことか)
いかに身体強化を極めようと、巨大な慣性に逆らって振り下ろした大剣を瞬時に切り上げるのは非常に困難だ。
だが、先ほどのガロアはそれを成した。
大剣が地面に突き刺さる直前、あえて刃を傾け、地面に対して刃筋を通さず、かつ適度に力を抜いて大剣が地面にはじかれるようにする。その反発を一部利用して即座に切り上げ動作に移る。
理屈は単純だが実行するのには難が多い。大剣か腕か、どちらかを壊しかねないのだ。あまりにも強引すぎる刀法だが、初見なら一種の奇襲となる。決まればその一撃で勝負は終わるのだから、問題ないともいえる。
(残念ながら壊れてる様子はないな)
ローズの見るところ、ガロアの腕も大剣も支障をきたしている様子はない。どうやらまっとうに戦い続けるしかないようだった。
大剣が相手となれば隙をついて懐に飛び込みたいところだ。だが、迂闊に動けば、先ほどのようにどんな隠し玉があるか分かったものではない。
様子見して攻め口を探ろうにも、リーチ差がありすぎてとっかかりが難しい。
(どうしたものかな。相手方の増援を考えると、もたもたしてられないけど)
強引に攻めるかと、覚悟を決めてローズが構えなおすと、不意にガロアが口を開く。
「その構え、動き、見覚えがあるぞ。……赤髪の二刀使い。そうかあいつが、いや、お前がロイズか」
「ここでそれを信じるのか? というか、お互い名前も知らないのに良く分かったな」
「仕事柄、やっかいそうな冒険者はチェックしていてな」
「ふぅん、ある意味あんたのお眼鏡にかなってたってことか? 光栄だな。だが、その割には名前も知らなかったようだが」
「顔と戦い方だけ知ってればいい。名前を知るときは相手を斬るときだ」
「ずいぶん殺伐とした仕事だな」
話しつつも、お互いにじりじりと間合いを詰める。
「お喋りはもういい」
ローズがガロアの大剣の間合いに入る直前。
「いくぞ」
ガロアが大股に一歩踏み出し、大剣を左から右へ薙ぎ払うように振るう。
「……」
わずかに下がりその大振りをぎりぎりで躱すローズ。大剣が目の前を通過し、ガロアの体が流れる。
明らかな誘い。
逡巡は刹那。
(乗ってやるよ!)
ローズが瞬間的な加速で間合いを詰めると、ガロアは意外にも大剣から左手を放し、右腰の小剣に手を伸ばす。
「!?」
主兵装である大剣のコントロールを一時的に放棄することになる予想外の動き。
しかし、それと引き換えにした軌道の制限される抜き打ちは、比較的対処が容易である。しかもローズ側は両手の二刀で対処できるのに対し、ガロアは右手を大剣から放せない。
(となれば……)
相手の小剣の抜き打ちにこちらも小剣を合わせて対処し、懐に飛び込んで短剣でとどめを刺せば良い。ガロアの大剣は間に合わない。
それで勝てるはずだった。
無論、そんなに簡単なはずがない。これは誘いなのだから。
だが、いくらなんでも振り抜いた大剣を右手一本で瞬時に引き戻せるはずがない。ガロアの身体強化をもってしても不可能だ。
ならば、ガロアがとる次の行動は自ずと知れる。
(迂闊だったか)
主兵装を捨てる。
無意識のうちに可能性から排除していた選択肢。
ローズがそれに気づいた時には、ガロアとの間合いは取り返しがつかないほど縮まっていた。
「ぬ……」
その巨大な大剣を振るときすら無言だったガロアが、ここで歯を食いしばって気合いの息を漏らす。
左手による小剣の抜き打ち。
その斬撃をローズは自身の小剣の刀身上を滑らせるようにいなす。
が、ほぼ同時に大剣を捨てたガロアの右手が、別の生き物であるかのように左腰に滑り込み、間髪入れずに小剣を抜き放つ。
「おおおおっ!!」
「!!」
左右の斬撃の時間差は刹那。どちらかのタイミングが一瞬でもずれれば、自分自身の腕を斬り飛ばしかねない高速の連撃だ。
回避するには遅い。流すには体勢が悪い。無論受け止めるのも無理だろう。
ゆえにローズは敢えてその場で飛ぶ。
そして、ガロアの二刀目がローズの太腿に届く寸前、その剣と自身の腿の間に短剣を滑り込ませる。
ギン!
自ら飛んだ勢いと、ガロアの斬撃を短剣越しに受け止めた衝撃とが合わさって、ローズはその場で真横に一回転する。
「!? はあっ!」
その予想外の動きに目を見開きつつも、ガロアは追撃として再度、今度は挟み込むように連撃を放つが、一瞬早く着地したローズが後ろに飛んでそれを躱す。
ガロアの二刀が音を立てて空を切り、その間にローズは間合いを取る。再び両者の動きが止まる。
「……どんな躱し方だ。ふざけた野郎だ」
「今のは死んだかと思ったな」
おそらく初めにガロアが大剣を主兵装と見せかけたのは、引っかかってくれれば儲けもの程度の軽いトリックだったのだろう。
並の相手なら大剣でそのまま倒し、厳しいならすぐに捨てる。そして真の主兵装は両腰の小剣二刀流。
(思いっきり引っかかった)
ローズはひそかに自身の軽率さに落ち込む。無論、動揺を悟られぬよう表情には出さないが。
どうやら新しい体の調子が良すぎて、調子に乗っていたようだ。
(いかんな、気を引き締めよう)
ローズは気持ちを切り替えるべく、意識的に深く息を吸って吐き出す。
そして、ガロアの剣に目を向ける。
「それにしても、なんだその剣は。片刃の曲刀にしては刀身がやけに分厚い。そんなものをよく片手で振れるな」
ガロアが左右に構えるものは小剣としてはやや長めで、左右の二刀に長さの違いはない。しかも、切れ味を重視するからこその曲刀のはずが、まるで切れ味など無視するかのように異常に分厚い刀身となっていた。同じ長さの普通の小剣の二倍近く重量があるようにローズには思われた。一刀を両手で振っていてもおかしくないものだ。
通常二刀使いは片方の一刀を防御的に使うため、短剣か、短めの小剣を選択することが多い。なぜならば、左右両方で攻撃しようにも、どうしても一方の軌道がもう一方の邪魔をするからだ。
そうなれば攻撃も読まれやすく、二刀を使う意味が薄れてしまう。片方を補助的、あるいは防御的に用いるのが比較的合理的な戦法といえる。
ローズも二刀使いだからこそ、そのあたりは理解していた。
ゆえに、ローズから見てガロアの二刀は、一種異様なものに見えたのだ。
それゆえの疑問。
だがガロアはそれには答えず、むしろ逆にローズに問う。
「お前の短剣もなんだ? 普通なら足ごとぶった切れてるところだぞ?」
「これか。地竜の牙製だ、そうそうは折れんよ。つい最近アースドラゴンの宝箱から拾った物だ」
竜の牙といえば加工不能、不滅の代名詞だ。ゆえに、その加工品となればダンジョンのアイテムドロップが、ほとんど唯一の入手手段となる。短剣とはいえその価値はかなりのものだ。
(アストラルリフレッシュポーションほどじゃないがな)
若干トラウマ気味となっている例の顛末を思い出してしまい、内心愚痴る。
(しかし、失敗した)
正直なところ、さきほどのガロアの攻撃はかなりのダメージをローズに与えていた。短剣越しに斬撃を受けた太腿がジンジンと痛んでいた。
左手に持った短剣で右からの斬撃を受けたのだ。体勢的に腕の力では衝撃をほとんど殺せず、飛んで浮くことによってその衝撃を逃がしたのだが、それも完全ではなかった。
骨に異常が出るほどではないが、打撲の程度としてはそこそこ重い。今はまだ良いが、長引くと影響が出てくるだろう。
「ふん、なるほど。まぁいい。二刀使い同士、楽しもうじゃねぇか」
獰猛な笑みを浮かべながらガロアが飛び込みざまに突きを繰りだす。ローズが躱そうにもその方向にはもう一本の小剣が控えている。
「くっ」
やむなく後ろに下がるローズ。だが空けた間合いはすぐさまガロアによって侵食される。
(やりにくい!)
それほど広い場所ではない。まっすぐ下がればすぐに塀や倉庫のがれきに突き当たってしまう。それを避けるために円を描くように下がるが、それも蛇のごとく巧みに繰り出される二刀により、思うに任せない。
それよりも右足の打撲が思ったよりも効いていた。しばしの攻防の結果、自身の動きの鈍さを自覚するローズ。
(まずいな。腹をくくってやりあうしかないか?)
「ぬ?」
ローズの動きが変わったことに気づいたガロアが、すぐさま攻め手を変える。
追撃を前提として、大きな体移動を前提とした振りから、剣を合わせる前提の鋭い振りへ。
(ちっ)
期待した隙を突き損ねたローズが、ガロアの斬撃を小さくはじく。
わずかに不満気な顔のローズに対し、ガロアはにやりと笑みを浮かべる。
幸いにもローズの意図を誤解したガロアは、ローズの戦法の変更が足の不調であることには気づいていないようだった。
そのことに内心ほっとしつつ、ローズは左手の短剣を素早く逆手から順手に持ち直し、逆襲に転じる。
「はあああっ!!」
「ぬおお!」
斬り、払い、突き、双方ともに全力の身体強化を用いて、左右の剣を自在に繰り出す。
一瞬も同じ場所にはとどまらず、互いの制御下の空間を侵食しあい、かと思えば足さばきに紛れて、足元の砂を蹴り上げ目つぶしを狙い、相手はそれを読んでいたかのようにあっさり躱す。
並の戦士ならば数分と持たずに防御が瓦解するであろう二刀による高速の攻防。
二人の剣はまさに互角だった。
(この体になって実現した、この動きでも届かないとは!)
今のローズの戦闘力はかつてのロイズとは比べ物にならない。
単純に体の動作の正確性が向上したこともさることながら、身体強化が段違いに強化されているのが大きい。それを支えるのはエルフとしての魔力量、そしてその体の魔力伝導効率だ。
それがなければ、つまりかつてのロイズであれば、ガロア相手には一分と持たなかっただろう。
(ある意味身体強化でごり押ししてるようなものか、自信無くすな……)
剣技で相当なレベルに達している現在のローズですら、一歩遅れを取るのを認めざるを得ないほどの使い手が目の前のガロアだった。
剣士としては邪道とも言える二刀流。
しかしながら、まるで二人を相手にしているがごとき左右の連携。思い付きで成しえたものでは到底ありえない、長い修練によって体得した技だった。
(まるで双頭の蛇……か!)
一方、ガロアも自分と互角に打ち合うローズに驚愕していた。
左右からの連撃。交差した腕を開きながら手首を返しての払い打ち。空中で強引に剣の軌道を切り替えての上段打ち、それを躱したところに合わせた突き。
通常の剣術では有り得ない、異形の連携。
しかし、そのすべてが躱され、受け流される。
あまつさえ、その合間を縫うように反撃を繰り出してくるのだ。その剣閃は速く、鋭く、危険極まりない。
(まさかクロエではなく、おまけの方がこれほどやるとは……)
ガロアの剣に師はなく、その剣技は全て自身が生み出したものだった。
むやみに重く、振り回し難い肉厚の曲刀も、伊達や酔狂で選んだものではない。得意の身体強化で振り回したその二刀は、多少切れ味が鈍ろうと強引に肉を切り、骨を断つ。それは幾多の実戦と試行錯誤の末に行きついたものだ。
並の戦士なら剣ごと叩ききってきたその剛剣を、小柄なエルフの少女が躱し、流し、あるいは受ける。
そう、よりによって受けだ。
ガロアの剣をローズがまともに受ければ、剣が折れずともローズの細腕などくじきかねない。巧みに剣を合わせるポイントとタイミングをずらし、コントロールしたうえでの受けだった。
(ふざけやがって!)
ガロアも自分の剣技にはそれなりに自信がある。その自分を相手に、ほんの僅かなミスで即座に瓦解しかねない巧みな防御を見せる相手に、いらだちと焦りが募る。
もっとも当のローズにとって、それは余裕などではなかったのだが。
自身の小剣、業物ではあってもガロアの大質量の剣を受けつづけるには、いささか心もとないそれを、この戦闘中だけでも持たせるための工夫だ。そして受け流し切れないガロアの剣を、無理やり止めるための技だ。やりたくてやっているわけではないのだ。
(厳しい……、が見えたな)
剣を打ち合うこと数十合。
傍から見れば永遠に続くかのように見えた剣戟。
しかし当の本人たちには、勝敗はいつしか自明のものとなりつつあった。
「……!」
ガロアは自分が徐々に守勢に陥いりつつあることを自覚し、歯噛みする。しかし手と足を止めるわけにはいかない。この相手にそんな隙はなかった。
基礎となる身体能力と、それに上乗せされる身体強化魔法の合算はほぼ互角。
普通に考えれば、基礎身体能力が圧倒的なガロアが有利なはずだった。常識的には身体強化魔法への依存度が高い方の魔力が先に尽きるからだ。
しかし、圧倒的な魔力量とその使用効率がそれを逆転しつつあった。
決着は唐突だった。
ほんの少し、勢いの鈍ったガロアの一刀を躱し、追撃の二刀目をローズの小剣が絡めとるように撃ち落とす。
それに引っ張られるように体ががわずかに流れたガロアの喉元に、それまでより半歩だけ深く踏み込んだローズが短剣を突きこむ。
ほんの小指の先ほど、肉に食い込んだ竜牙製の切先が、滑るようにガロアの首に傷を広げ、刻み込む。
そのわずかな傷、断ち切られた頸動脈から勢いよく血が噴き出す。
「……」
「……」
瞬時に間合いを取りなおしたローズが、ガロアの反撃を警戒し構えをとる。
わずかでも気を抜いていれば、相打ち狙いの一撃が放たれていただろう。出血にかまわず構えを解こうとしない、ガロアの放つ静かな殺気がそれを物語っていた。
ゆえにローズはいささかも油断せず、その可能性を断つ。
その間にもガロアの半身が噴き出した血で朱に染まっていく。
数秒の対峙。
ローズの隙の無さに、ガロアはすべてを諦め、構えを解く。
「フッ、……ここが俺の、果てか」
失血によりガロアの意識が闇に落ちる。
脱力した体が地面に倒れ伏す音は聞こえなかった。
――――――――――
一部改訂しました。
・ローズが黒ずくめを倒す描写を追加。
・その他小修整
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます