第29話 決して逃げられない恋
初めて
ヘルメットからはみ出た黒髪を風に流しながら、清らかな笑顔で走る彼女。その姿に自分のWeb小説のヒロイン『フィルニア・ウィニゲスタ』の影を重ねたものだ。
たった今、その颯希からフィルニア愛をまざまざと見せつけられ、僕のあの感じ方は間違いじゃなかった感じた。
───だって颯希自身が
「ご、ごめん………なさい。私がこの事実を伝えれば、
此処でようやく
何しろ
だから部屋着とは到底思えない颯希の
一方………僕の心に潜むフィルニア姫。颯希と同じ
もっと言うなら怒りに満ちた時にだけ、あの蒼き瞳が
あくまで風を運ぶ者としての僕の
だけども今夜の颯希。
加えてフィルニアを思わせる水色のルージュを引いていた。
その姿………コスプレというには
彼女はこれまでの間、『自分があの
『
本来なら、そんな図々しくなれる子では無い筈だ。だからこれまでずっと、その想いをひた隠しにしていたのであろう。
だがストマジという形の好意をどうにか僕に受け取って欲しい。だったら正直にさらけ出そうと思い至ったのが今の彼女という訳だ。
此処まで開き直ったのだ。後は
「………こ、此処……座って」
そんな
加えて自分のベッドへ座って見せる。左隣を空け僕を誘う。だいぶ顔が赤みを帯びているのが判る。
そして僕自身、鏡なぞ見なくても同じ顔色をしていること位、
───何故だ? その誘いに逆らう気がまるで起きない………。
ゆっくりと慎重に………。言われるがまま左隣へ座ってしまった。すると颯希が甘えた感じで首を此方へ
そのシャツですら、首元から3つのボタンが外れており、あられもないその姿を存分に
今日は本当にとんでもない日だ。夕方頃、
同じ日の夜………。次は転入時に美少女だと話題をさらった爵藍颯希の身体を
「ね、ねぇ………。こ、これから私……。も、もっと
───ま、待ってくれ!
近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!
───近過ぎんだよッ!!
勿論、墓地に伏せてるトラップカードみたく、
「あ、あのね………。君は覚えてないかもだけど、わ、私……小学生になる前、一度だけ出逢っているんだよ」
───ハァ!? 何だろう。僕が思い描いていた
美少女が上着を脱ぎ捨て、
↓
貴方も座れと僕を
↓
↓
………………………(自主規制)そんなごく自然な流れを期待せずにはいられなかった。思わず真顔へ変わってしまう僕である。
───嗚呼ッ!! 期待してたさァァッ!! 悪いかァッ!!(?) 神よ………果たして僕の心は、
しかし颯希の言葉に
「わ、私……信号を良く見ずに道路へ飛び出してしまったの………」
「………え?」
僕の期待値ではなかったものの、未だぎこちない口調を変えない颯希である。心の奥底へ、ひた隠しにしていた何かを、さらけ出そうしている事に違いはない様だ。
「そこへ………若い男性の乗る自転車が止まり切れずに飛び込んで来たの。も、勿論、私が悪いタイミング………だった」
───何故だろう、颯希の蒼き瞳が完全に
「で、でも私は何とも無かった。………か、代わりに私を突き飛ばした、同じ位の男の子が傷だらけで倒……れて………」
───思い出したっ! その一部始終をっ!
「………そ、それは、間違いなく
「うわぁぁぁぁっ!!」
僕、
もっともその彼女の行動に於いて、穢れた男子の描く妄想の続きでないこと位、経験ゼロの僕にだって流石に判る。
颯希は、ただひたすら僕の胸の内で
それでも二度と直接会う機会などないだろう………。そう諦めつつ、元居た街へ颯希は帰って来たのだ。
すると自分の隣の席へ座っていた同い年の学生が、自分が追い求めていたあの人だと、友達として僕と付き合う間に、やがてその正体に気づいたのだ。
これは逃げることを決して赦されない恋───。ベッドの上で颯希を受け止めながら、僕は思い知った。
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