第30話 やはり血は受け継がれていた
僕こと
しかも颯希当人の部屋のベッド上という、まるでこれ以上
いや……正確に言えば抱けていない。胸元で
彼女が自分に対し、その蒼き瞳と同じ色をした海の様に、深い愛情を向けているのは良く理解した。
しかしだからと言って、この状態を僕が都合良く解釈し、利用するのは如何なものか?
───そもそもである。
つい数時間前、
それはもう完全に、相手の弱みに漬け込んだやり口だと思う。
───判っている……判っているのだ。
だがしかァァァしィィィィッ!!
この状況をただ放っておくのも違う意味で、
ゴクリッ……。
果たして今日何回目の息を飲むってヤツだろう。今飲み込んだのは、息ではなく
「──い、颯……希」
理性と欲情のせめぎ合い、もぅ……流石に限界値を超えてしまった。まともな思考? 最早そんなもの、何処へ吹き飛んだ。
僕に
「疾……斗?」
涙で赤ら顔な颯希の視線を、僕の視線と重なる位置まで身勝手にも移動させた。
普段割と強気な颯希
欲情に狩られた側の
自分の顔をゆっくりとゆっくりと、颯希の顔へ近付けてゆく。此処で何と颯希は、
その蒼き瞳を静かに閉じる。ルージュでなく恐らく血流で、
互いの吐く息がダイレクトで交換される位置まで近づく。僕は息を止める、颯希も……かも知れない。後は互いを重ねゆくだけであった。
コンコンッ!!
「──ッ!?」
「ハッ!?」
慌ててベッドから飛び起きる颯希。僕も同様に跳ね起きると、わざとらしくスマホへ視線を落とした。
「大丈夫? 入るわよ?」
「あ、あ……は、はいっ!」
ガチャと部屋の扉が開く。白い花柄のトレイに茶菓子を盛った
「──ごめんなさい、ひょっとして私、
「ま、ママ? な、な、何のこと? そ、そんな訳ない…じゃない……」
真っ赤な顔を出来得る限り合わせない様にして応える颯希。普段ハキハキ喋る彼女からは想像出来ぬ
───お、御母様。何てバッド……じゃねぇッ! 日本代表すらびっくりのナイスセービングだよッ! ──うぅっ(?)
「風祭君のお土産がちょっと多過ぎて……
「と、と、と、とんでもございませーーんっ!」
───
お陰様で大切な娘様の
「そうだ風祭君、貴方こんな時間に来ちゃったから、ひょっとして御夕飯はまだかしら?」
「え……ええっ! いえ、そんなお構いなくっ!」
懐中時計をチラリと見ながらさらなる気を
「うふふ……良いの良いの。肉じゃが作り過ぎちゃって。良かったら食べてくれると大助かりなのよ」
「は、はぁ……じゃあ、お言葉に甘えて」
颯希の『お弁当作り過ぎちゃった』は御母様譲りなのだろうか? 最早恋人どころか婚約者として嫁の実家へ上がりこんだかの様な歓待ぶりだ。
「あ、でもでもそしたら帰りが随分遅くなっちゃうわね──もぅいっそ泊まって下さいな。御部屋もお布団も余ってるしぃ……」
───はっ、はぁぁッ!?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
さっきナイスセービングしたかと思えば、舌の根も乾かぬ内に、次は
恐るべし爵藍家。やはり
善は急げとばかりに慌ただしく動く御母様。取り合えず夕飯を取りにゆくため、
「──ご、ごめんなさい。ママ言い出したら聴かないから」
───いやそれ
心の中で盛大なる突っ込みを入れる僕である。先程迄の胸が張り裂けんばかりのやり取りは取り合えず過ぎ去った。
「はい、どうぞどうぞ召し上がれぇ~」
「お、おおぅ……で、では頂きます」
やはり
颯希の机じゃ足りないだろうと
風のお姫様の部屋だった場所が、瞬時に豪勢な旅館と化した。
───んっ? 旅館? そういや僕、今夜此処にお泊りするんだっけ? 何か
「
「え……あ、は、はい」
え、え? 今この御母様、僕の事を
そして娘の次は御母様から大切な話があるというのか? まるで
───いや……無論
しかし改まった態度で娘の颯希すら超える重い話をこれからするのだ。
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