第4部 風の精霊使いの真実

第27話 まさかの親公認!?

 ───結局………弘美ひろみには、バイクの免許を取ったこと。言えず終いになってしまった。


 以前『免許取るかも知れなから自転車で練習してる』と、それなりの話はにおわせたのだ。『取りに行くかも………』が『取った!』に変わるのは、結構な変化かも知れない。


 し、しかしまあ、もぅ取っちまったもんは仕方がない。いずれ正直に語る場を設けるとしよう。


 ───さて………では次に打ち明けるべき相手颯希の方だ。鉄は熱いうちに打て!


 告げる順番が変わってしまうが、さしたる問題ではない………………筈だ。


 早速スマホを取り出しNELNを開く。@颯希いぶきへメッセージを送るのだ。


「えと………『颯希、無事中型自動二輪免許を取得しました』……送信!」


 何故だろう、この胸の高鳴りは。この間、一緒に白いバイクストマジ拝見はいけんしに行った帰り。


 颯希からの明らかなる好意を知り得た、その記憶が鮮明によみがえる。


 ───あの絡みから続き………が始まるのかも知れない。


 良く考えてみるとむしろそうなるのが必然じゃないのか? 免許取得という最初のは外した。そう僕自ら宣言するのだ。


 あとは颯希の好意ストマジを受け取るのか否か? そう思うと途端に緊張の度合いが増してきた。NELNから目を逸らせやしない。


「既読! ………さて、どう出る?」


 ゴクリッ


 思わずを飲み込んでしまう。す、水分が欲しい………。異様にのどのどいて仕方がない。


『@颯希 おめでとう! 何事もなく無事に終えた?』


『@HAYATO1013 無論だ。颯希のお告げ通り、練習自転車は絶大なる効果だったよ。それにヘルメットも自前を用意して本当に良かった』


 先ずはごくありふれたやり取りから開始スタートする。此処までは仲の良いただの友達に過ぎない。


『@颯希 そっかあ、良かったあ。………じゃ、じゃあ、もうバイクに乗れるんだね』


『@HAYATO1013 何を当たり前のことを。フフッ………今の僕はもう立派な風使いライダー中型400cc迄なら何だってあやつれるぞ』


 ───何故だ? つい格好つけて厨二ちゅうに病患者の様なポーズを取りつつ逐一ちくいち、メッセージを打ち込んでしまうのを止められない。


 颯希のお陰で運動神経補正値ゼロのこんな僕ですら免許が取れた。そんな想いを自分でも知らないうちにアピールしてしまっているのか………恥ずかしい。


『@颯希 フフッ……何だか格好つけてる疾斗はやとが見える気がするよ』


 ギクッ!?


 さ、流石はこの僕が見込んだ風の使い手フィルニア姫。下界の民のやる事なぞお見通しとでも?


『@颯希 ………で、?』


 ───やはり、そう来るよな。これには主語も述語も必要ない。『ストマジを受け取りますか?』という切り出しに間違いない。


 NELN越しの颯希、一体どんな表情でこれを告げているのだろう………。


『@HAYATO1013 そのことなんだが、やっぱり颯希のを知りたい。そうでなければ受け取れない』


 せっかくの好意だ。意地を張らず甘んじて受け入れれば良いだけの事………と、そこだけは、割り切れなかった。


 あえて言おう、何度でも。


 未だ僕は爵藍颯希しゃくらんいぶきの彼氏ではない。それにも関わらず『爵藍ランちゃんの彼氏であるなら仕方ない』では話のスジが通らないではないか。


 此処で突如、通話の通知音が鳴り響く。


「…………ごめん……なさい。そ、そぅ………だよね。当然だよね………うんっ、判ったよ。…………ただ」


 消え入りそうな颯希の声が聞こえてくる。聴いてて正直痛々しいと感じる。それでもこればかりは譲れない。


「ただ?」


「………ただ、出来れば会って直接話をしたいの。しょ、正直に全部打ち明けます。で、でも疾斗の顔を見ながら伝えたい」


 ───っ!? 弘美に続いて『逢いたい』が今日二人目っ!?


「い、いやしかしだなあ颯希さ………ん? 窓の外をご覧よ。今日はもう真っ暗だよ。こんな時間に……その、君の様にが表に出るのは………良くないと思うんだが」


 そうなのだ。

 弘美と別れバイバイした時、既に日は暮れていた。それに何も今日でなくても………。


「だ、大丈夫。私の方は一歩も外へ出ないから」


「はっ? そ、それってどういう………」


 僕の思考が錯乱さくらんをきたす。家の外へ出ないで会って話とは………それってつまり?


「だ、だからぁ………大丈夫なんだってば。は、疾斗の存在、に教えて在るから問題ない………の」


 ───ッ!?


 ハァッ!? しゃ、爵藍しゃくらん家………公認の仲だって言うのかッ!?

 僕の脳裏に稲妻が落ちる、驚き叫べと世界が告げるぅ!?


 ───颯希さん、颯希さん、颯希さぁぁぁぁんっ!? いや爵藍家!? 家ぐるみで猪突猛進ちょとつもうしんの家系なのかァァッ!?


 そ、そんな気をこうとする子猫みたい声、出してもやり過ぎだかんなぁぁ!?


 まさかと思うが例のおじさんだけでなく、御両親すら『私の彼氏』などと先走っっちゃァァいないだろうなぁッ!?


「………ちょ、ちょっと大丈夫なの疾斗? 随分息が荒々しい気がするんだけど、何処か体調でも悪い?」


 ───体調異常ステータスじゃねえっ!! これは精神状態異常メンタルの問題ぅぅっ!!


「い、一応聞くが話したい事って、まさか御家族も一緒に立ち会う訳じゃないよな?」


「はっ? アハハ! ま、まっさかあ! ちゃ~んと私の部屋へ案内してで話するに決まってるじゃない」


 ───颯希姫の部屋で二人っきりィィィッ!? それはそれで危険な香りバルファムしかしないのだがっ!?


「………わ、判った。す、少し準備してから伺わせて貰おう。また家を出る直前に連絡するよ」


 退路は完全に封じられた。あと進軍あるのみ、いざっ、爵藍家へ!


 この後、夜のお出掛け理由を伝えた母と舞桜まおから、散々弄り倒されたのは語るまでも………ない。

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