第26話 試された勇気
「ハァ……ハァ………」
「ご、ごめんなさい。急に
次いで自分自身すら芝生の上に寝転んでしまった。
でも呼び出したのは彼女じゃない、僕が此方から出向くと言い出したのだから何も謝ることなどない。
「だ、大丈夫だ………。最近は結構体力ついたんだ。………ま、まあ弘美の足元にも及ばないだろうけど」
どうにかこうにか息を整えようとする。気を利かせた弘美がタオルと冷水のペットボトルを差し出してくれた。
「わ、悪い。正直助かる………」
何よりも美味しく有難い飲み物である。身体を起こしてブランコの柵を背もたれにする僕。
その隣へ弘美もゆっくりと座る。上下ダボッとした感じのスエット姿。部屋着のまま出て来たのであろう。
何の飾りっけもないが、これで充分弘美は可愛い。
「………で、でも
両手をパンッと合わせ、未だ謝ることを止めない弘美。
───そうだ………正直
「良いんだ、先ずは弘美の話を聞くよ。………疲れてるん……だった……よな?」
僕の質問に伏目がちで
「い、一生懸命練習してるの。サボったのは今日が初めて。………県予選の時はもう勝ちたくないなんて言ったけれど、今は負かした皆の代表として恥ずかしくない試合をしたいって思ってる」
やっぱり目こそ合わせないが、その言葉に
学校の代表……父親に良い処を見せたい……そして、これは
責任感も達成力も人一倍強い弘美の事だ。だからこそ無理をし過ぎて、落ちる時は大いに落ち込む。
「………判ってる。僕は弘美じゃないから本当に全てを判ってると言うのは無責任だと思うけど………」
───そう、風祭疾斗と逢沢弘美は
此処で弘美が首を横に振って笑顔を向けて来た。これには僕も面と向かって応じる。
「ううんっ………今、
「感謝とか
───泣きたい位………。いや、もう既に目が
僕は残りの水を全て飲み干すと少し勇気を出して、だいぶ格好つけた台詞を吐いた。
「ご、ゴメンッ。いつもいつも肝心な時に甘えてばかりで………。全国大会は私なんて相手にもならない強い人が沢山いるに決まってる………」
「………」
「だ、だから全力で頑張って来たけど………プレッシャーに潰されそうになってきちゃった………」
泣きながら
僕はそんな大きな舞台に立ったことなどない。Web小説家になるのですら、皆に見られる勇気が出なくて何年もかかった位だ。
アドバイス? そんな事出来る訳ない。何を言っても上っ面で終わるに相場が決まっている。
今の僕に出来る事、それは弘美の抱えた重みをなるたけ聴いてあげる。ただそれだけだ。
弘美が自分の身体を支えるために突っ張っている芝生の上の手が震えている。何も出来ないと思った僕だが、それを見て思わず間が差した。
「………は、疾斗?」
「………っ!」
その震えている手に自分の手を重ねて指同士を絡めてゆく。さらにギュッと握り締めた。
驚く弘美、僕は手を繋いだだけだというのに、真っ赤になった顔を弘美の方へ向けられない。
───小学生かよ………
自分の中途半端なリード、これに弘美が身体の向きを僕の方へ変え、さらにもう片方の手も載せて来た。
もう恥ずかしさで一杯なのに、僕も思わずそんな弘美の顔を、息を飲んで再び見つめた。
───弘美が笑っていた。泣き笑い顔の視線が絡まる。
「………嬉しい、何だかもぅこの手から疾斗の優しい想いが注ぎ込んでる気がする」
「は、恥ずかしい事を言うな………て、手を繋いだ位でそんな
手を繋いだだけで文字面通りに
やっぱり小学生の恋愛模様だぞ、これは………。仕方がない、だったら
俺も身体毎、弘美の方を向いてから、さらに空いた手も上に重ねてみた。手を繋ぐ位、初めての行為じゃない。
それなのに、それなのに………。自分の全神経が両手に集中している
「ね、ねぇ………疾斗。こうしてるとまるでガス欠だった私の勇気が湧き出してきた………そんな気がするの」
「わ、判らんっ! て、手を繋いでるだけじゃないかっ!」
緩んだ笑顔を向ける弘美に
───だってそうだろ? そんなの非科学的だし、俺には君に分け与えられる程の勇気の
此処で弘美がゴクリッと息を飲み、重ねた両手をさらに強く握り返した。
「ね、ねぇ………わ、私。
「そ、そういうのって、どういうのだよっ!」
「そ、そんなの自分で考えなさいっ!」
顔を真っ赤に染め抜いてるのに、もうお構いなしに寄せて来る弘美。少し口角が
その顔、その唇………。最早何をしても
───い、一体何をどうすれば正解なんだっ!?
A.そりゃあもうAだけに
B.いや、もういっそ事、
C.いやいや、漢だろ? 行けっ!
だ、駄目です………母さん事件です。いや、
もぅ、
どうしようもなかったんです………本当です。
………しかし、これ以上先へは進めなかった。未だ
「ご、ゴメンッ! こ、これが今の僕に出来る精一杯の勇気なんだッ!」
弘美を抱き締めたままの姿勢で懺悔する僕。一体に何に何を謝っているのか? もぅ、何だか良く判らない。
「………ううんっ、あ・り・が・と・う・疾斗。貴方の気持ち、もう充分に伝わったから………うんっ、大丈夫」
僕の胸の内で首を横に振りながら喜んでくれた弘美であった。
───バイクの免許を取った話? そんなの言いっぱぐれたに決まってんだろうがァァァァッ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます