第21話 重過ぎる贈り物

「………家に着いたら此方から送るよ、か………。りょうかい、待ってるね……送信……と」


 私は疾斗はやとへOKの返信をしてから、ベッドに転がる。


「誘っちゃったよ、私の方から………。良い………よね? まだどちら逢沢弘美も友達なんだし………」


 スマホを胸にいだいて両目を閉じる。目蓋まぶたの裏に浮かぶのは仲睦なかむつまじき逢沢あいざわさんと疾斗との絵柄。


 ───何だがすっごく悪いことをしている気がしてならない………。


「………それに、仮に@HAYATO1013が誕生日で正解だったとして………これは余りに?」


 友人におくるプレゼントにしちゃ色々な意味合いで押し付けが過ぎる。逆の立場なら『ゴメンナサイ』を告げるかも知れない。


「………なに今さら卑屈ひくつになってんのよ爵藍颯希しゃくらんいぶき。後は向こう疾斗が決める………ただそれだけのことじゃない」


 ───でも……もし、断れたら………私しばらく立ち直れないか……も。


 トクンットクンットクンッ……。


 やっぱりロクなことを考えない私。胸が締め付けられる………苦しい………。


 ───NETLの通知!? ただでさえ胸が痛いのに、より鼓動こどうが激しさを増す。


 まるで怖いものでも覗くかのような気分でスマホへ視線を送る。


『@HAYATO1013 OK家着いた。通話の方が良い?』


 ───………通話? 無理無理っ。今、まともな声を出せる気がしない。


 頭をフルフル振ってから、なんて返そうか自然な答えを考える。


『@颯希 あ、今、自分の部屋じゃないから通話はちょっと………それほど慌てる話でもないし』


 自分の部屋じゃないという嘘つき。大した嘘じゃないのに罪の上塗りをした気がした。まだ洗ってない黒髪が異様にべた付くのをウザったいと感じる。


『@HAYATO1013 了解。で、来週の土曜に何をするんだい?』


「何をする………か。なんて切り出そうかな………」


 天井の壁紙模様を見ながらちょっとだけ考えてみる。『空いてる?』という問いかけには、それなりの返答が必要だろう。


『@颯希 ………颯希からデートのお誘い………って言ったらどうする?』


 未だ呼ばわりされた言葉で相手をあおるというのは我ながら小賢こざかしい。姫の誘いを受けられないの? そんなあふれた内容。


 既読表示は即時で付いた。だけども返事がなかなか来ない。多分大した理由もないだろうし、時間だってそれ程経っていないと思う。でも異様に長く感じてならない。


『@HAYATO1013 光栄の極みでございます。で、何方どちらへ行かれるでしょう?』


「………プッ、まあた変なキャラ出て来たよ。これを打ち直すのに時間がかかったのね」


 でもお陰でだいぶ気がまぎれた。これで自分のペースで話を切り出せると気が緩んだ。


「そうね、だいぶ西の方よ。それだけは教えてあげるわ、私のカミ………いや駄目。これは余計よ、危ない危ない………」


 思わず従者カミルと話をしている気分を、そのまま文字起こしするとこだった。未だに自分が『@ADV1290R』の正体であることを明かせずにいる。


 自分が逢沢さんに勝てそうな部分アピールは、せいぜいこれだけなのだから、いっそ伝えてしまえば良い気もするんだけど、何故か切り出せずにいる。


 逢沢さんの幼馴染おさなじみから続く想いと比べたら、何だか軽いし現実味に欠けるからなのかも知れない。


 だって『私、ずっと疾風はやて先生のファンでした!』なんて、いかようにもなる気がしない?


『@颯希 それから移動はバイクじゃなくて電車になるからそのつもりでね』


 そう、今回愛車DU◇E125は留守番である。どうにかならないこともないけど、私の苦手意識からくる選択なのだ。


 ◇


「颯希姫とデート、かなり西方………DU◇Eタンデムではない?」


 ───読めない………。あの爵藍颯希の思考が。DU◇Eバイクで気軽に40分走る彼女が、『だいぶ西の方』と勿体を付ける………。


「まさか夢の国自主規制!?」


 ───いやいやいやいや疾斗よ、あの颯希姫が可笑しな耳を付けてはしゃぐタマか? 全く以って想像つかんぞ。


『………女性は向こう岸の存在だよ』


 確かにあのでそんな有難い明言を言っておられた。だけど違う、そもそも夢の国自主規制ならかなり西方とは言いがたい。


 態々わざわざ電車という颯希に取って面倒そうな乗り物を選択チョイスする程だぞ? 都内? あるいは思い切ってそのまた先へ向かう腹づもりか?


 まあ何にせよフィルニア姫颯希皇女殿下逢引きデートであるぅッ! グレイトですよッ! 此奴はァッ!


『@HAYATO1013 判りましたYour我がHighness皇女殿下‼』


 あの少々頑固がんこな処が見え隠れする颯希が『は教えてあげるわ……』と言ったのだ。


 デートというからには、此方もそれ相応そうおうの準備をしたいので、目的地位教えて欲しいのは山々だが、恐らくこれ以上の情報を引き出せそうにない。


 ───第一形式ばってデートなんて甘ったるい経験値ゼロの僕が、まともな準備が出来るとは到底思えやしない。


 ………デートか。彼氏のいる我が妹中学生舞桜まおにでも、ドレスコードファッションセンスについてたずねてみるか? 


 いやいや待て待て『、どっちと行くのっ! 先ず話はそれからだぁ!』と凄まれると相場が決まっておろうではないか。スマホネットでそれとなく調べてみよう。

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