最終話

その先……すると、そこには一人の男が立っていた。フードを下ろすと牙を向き、右手には紫色の光を浮かせている。ナイトゼアの配下の一人だろう。

男はこちらに気づくと、すぐに襲いかかってきた。

「居たぞぉぉお!!!! 悪魔めぇぇえ!!!!」

怒り狂ったように叫びながら、俺たちに近づいてくる。

俺は咄嵯に反応する。

「リーザ! まいを頼む」

「了解した」

「うん、気をつけてね」

二人はすぐに戦闘態勢に入る。

俺はすぐに剣を抜き、構えていつでも戦えるようにする。

相手は吸血鬼か……厄介だけど勝てるかな?

洋二はこの男を分析していた。

すると、敵は素早い動きで接近してくる。

「死ねぇー!!」

「させるかよ」

俺はすぐに敵の攻撃を弾き返す。

相手の攻撃は鋭く、一撃でも喰らえば致命傷になりかねない。

俺は敵の攻撃を弾いたり避けたりして反撃の機会を待つ。

吸血鬼は鋭い爪で切り裂こうとしてきた。それをギリギリのところで避ける。

俺は隙を見つけ、思いっきり斬りつける。

だが、避けられてしまう。

速い! だけど速さならこっちも負けないぞ。

今度は相手が先に攻撃を仕掛けてきた。

早いけど対応できないほどではない。

俺の斬撃が敵の腹部を切り刻む。

だが手応えがない。

血が出ていない。

これはどういうことだ? 俺は疑問を抱きながら、さらに追撃する。

すると、奴の体が霧のように消えていく。

しまった! 幻覚か!? 俺の目の前から吸血鬼の姿が消える。

後ろを振り向いた瞬間、背中に痛みを感じる。

どうやら背後からの攻撃を受けたらしい。

まずいと思った時にはすでに遅く、俺は地面に倒れる。

意識はあるが体に力が入らない。

そんな時、吸血鬼は余裕の笑みを見せる。

どうしよう……このままだと殺される。

俺は必死に思考を巡らせる。

どうすればいいんだ。

その時だった。リーザが吸血鬼にめがけて発泡する。

だが、弾丸は命中しなかった。

 吸血鬼は素早く回避し、リーザに向かっていく。

危ないっ!! 俺は急いで起き上がり、リーザを助けに向かう。

だが、間に合わない。

俺はリーザと吸血鬼の間に割り込み、攻撃を受け止める。

だが、威力が強く俺は吹き飛ばされる。

俺は地面に転がり、衝撃によって全身に激痛が走る。

そのせいで俺は動けなくなってしまった。

俺は自分の不甲斐なさに嫌気が差す。

どうにかしないと……。

すると、リーザが叫ぶ。

「来いよ!!悪魔が!!」

俺はリーザの方を見る。

リーザは銃を構えて、敵に発砲していた。

銃弾は全て外れ、吸血鬼の攻撃を避けている。

リーザは吸血鬼が撃った攻撃を横に転がることで回避した。

凄いな……あいつは戦う気満々だな。

よし、俺も行くしかないな。

俺は立ち上がり、リーザの隣に立つ。

吸血鬼は舌打ちをする。

俺はリーザが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。

俺は全力で走り、吸血鬼に近づく。

すると、吸血鬼は右手を横に振るうと、爪が伸びて俺を襲う。

予想以上にリーチが長いな。

俺はバックステップをして距離を取る。

吸血鬼はすぐに俺に接近してくる。

俺は剣を振って牽制するが、軽く避けられてしまう。

やっぱり強いな。

吸血鬼は俺の腹に蹴りを入れる。

俺はガードしたが、ダメージを抑える事は出来ず、吹き飛ぶ。

くそ、結構効いたぞ!吸血鬼は俺の方に駆け寄り、左手で殴りつけようとする。

俺は咄嵯に反応して、ギリギリで避ける。

あぶねぇ……。

だが、俺が避けた方向にはリーザがいた。

リーザは銃口を吸血鬼に向けると、そのまま引き金を引く。

放たれた弾丸を吸血鬼は素早い動きで避ける。

そして、また爪を伸ばして攻撃してくる。

俺とリーザはそれを何とかかわしていく。

これじゃあ、キリがない。

そう思った時、吸血鬼の動きが止まる。

なんだ?急に止まったぞ? リーザもそのことに疑問を抱く。

すると、吸血鬼は膝をつき、苦しそうな表情を浮かべる。

これは一体何が起きてるんだ!? リーザも混乱してた。

すると、洋二は携帯のライトを照らし、吸血鬼を照らす。

すると、光が当たった場所から湯気が出て藻掻いている。

流石に可哀想だから洋二を止めた。

「ちょっと待て!それだと死ぬかもしれない!」

「えっ?あっ、悪い」

俺は吸血鬼にナイトゼア居場所を問い詰めた。

「ゼアは何処にいる? 教えないと殺すよ?」

「…………」

吸血鬼は何も喋らない。

「仕方ないね……じゃあ死んでくれるかな?」

俺は刀を構える。

吸血鬼は怯えながらも必死に抵抗する。

「ま、待ってくれ!話す!話します!だから殺さないでくれ!!」

「最初から素直に言えば良かったんだよ。それで、ゼアの場所はどこだ?早く言え」

「わ、わかりました!言います! 妖魔界西部の森の城です! そどうか命だけは……」

吸血鬼は泣きながら言った。

正直、こんな弱々しい姿を見るとこっちが悪いことをしているような気分になる。

こういう命乞いは複雑な気持ちにさせられる。

でも、俺は心を鬼にして吸血鬼に命令する。

「よし、わかった。お前はもう行け。今度俺たちの前に現れたら必ず殺しに行く。いいな? それと、もし他の奴にもゼアの居場所を教えたらすぐにわかるようにしておけ。少しでも怪しい行動を取った瞬間に首を撥ねる。いいな?」

「はい!! かしこまりました!!」

吸血鬼は必死に走って逃げた。

とりあえず、これでいいだろう。

吸血鬼がいなくなると、リーザが話しかけてきた。

「あいつが言ってたことは本当なのかな?」

確かにリーザの言う通り、吸血鬼が嘘をつく可能性はある。

俺は吸血鬼が去った方向を見て考える。

洋二は考える暇もなく先に進んでしまった。

すると、リーザが口を開く。

「多分、この先にある城は本当に妖魔界西部に存在してると思うよ。だって、あの吸血鬼が言った情報は全部本当の事だし、それにあの吸血鬼は嘘付いてる顔してなかったし」

「それ誰でも言うぞ」

反論によりリーザは黙ってしまった。

「じゃ、西へ向かおう。そこで、城に潜入する。そして、ゼアを倒す。よし、行くか」

俺は洋二を追いかけて走った。ここから西部の森まで約3キロくらいある。ここは交通費でタクシーを使ってもいいが、俺達は節約のために徒歩で移動する。



少し歩いていると鎧を着た女性が壁にもたれて携帯をいじる。ナイトゼアの配下に間違いないと思い、その女性を話しかける。

「ミオケルだよな? ゼアの場所を知ってるか?」

「……」

女性は無視して携帯を見続ける。どうやら俺達に興味がないらしい。

「おい、聞こえてんだろ? 答えてくれ」

「うるさいなぁ……なんなの?」

「俺達がゼアの居場所を教えて欲しいんだけど知ってるか?」

「知らない。というより、私に聞いても無駄だと思うけどね。私はただの雑用係で、主様の命令しか聞かないからね。ほら、とっとと消えてくれないかな? 仕事の邪魔なんですけど」

俺達に全く興味を持たない様子で携帯をひたすら触り続けている。

このままでは時間の無駄だ。

「なら、いい。そこどいて」

「はいはーい。やっと行った」

俺達は諦めその場を後にした。すると、俺の肩を叩き、四つ折りした紙を受け取られた。

ミオケルは手を払う身振りをし俺は気になったけど洋二達を追いかける。

すると、後ろから声をかけられた。

「じゃあね」

振り返るとそこにいたはずのミオケルはいなかった。

「あれ? いない?」

洋二に追いつくため急いで走る。

洋二に話しかける。

「大丈夫だったのか?」

「ん? ああ、特に問題はなかったよ。それよりも急ごう」

「そうだな」

しばらく歩いていたが、一向に森に着く気配はない。

「なぁ、まだ着かねぇの?」

洋二は地図を確認して答える。

「まだですよ。置いていきますよ?」

そんなやりとりをしながら歩く。俺はミオケルに受け取った紙を開き内容を確認する。そこには、手書きで城の目的地までの道順が書かれていた。

「なるほど、西南部の場所を目指すのか」

紙をポケットにしまって洋二から離れて西南部の方に向う。

しかし、いくら進めど森に辿り着くことはない。

俺はため息をして、近くにあった岩に腰をかける。

「長いな。でも皆を犠牲したくないから一人で頑張らないと……」

俺は目を閉じて眠りにつく。



 しばらくして、起きると肩を揺らされ顔を上げるとミオケルが差し入れにパンをくれた。

「はい。これあげる」

「あ、ありがとうございます……」

「それより、君たちは何しに来たの? まさか、吸血鬼を倒しにきたわけじゃないよね?」

「はい。まぁ、そんなところですね」

「なら案内する。ちょうどゼアに腹が立ってきた頃だからついでにぶっ殺す」

そういってミオケルは歩き出した。俺は慌てて追いかける。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!! 今なんて言った?」

「え? 吸血鬼を殺しに行くんでしょ? 私が手伝ってあげようと思って。あいつ嫌いなんだよね。生意気だし、私の事をいつも馬鹿にして来るし。とにかくムカついた。もうあいつの顔見たくもない」

「そ、そうなんだ……」

俺は苦笑いしながらついていく。

「元々あいつ大人しい性格で被害妄想が激しいんだよ。それを必死に隠すために明るく振る舞っていただけなのに……はぁ、本当にバカみたい」

どうやら、ナイト・ゼアの事は大体知っているようだ。

「食べ終わったら早く行くよ。ゼアを殺す前に他の吸血鬼に襲われて死なれたら困るし」

「あっ、はい。わかりました」

俺達は森に向かって歩く。

「あのぉ、その門番係だけど仕事は大変なのですか?」

「激務。立ち仕事と暇なのが嫌い。正直、辞めたい」

「で、ですが、お給料いいんですよね?」

「金なんてゼアの食費と私達の生活費に消えるからあまり意味ない。バイトで稼がないと生活ギリギリなくらい」

「へぇ〜……」

話を聞く限りナイト・ゼアは相当酷い上司らしい。

しばらく歩いているうちに森の入り口に着いた。

この先にゼアの城があるはずだ。

俺は地図を見て確認していると、ミオケルは何かに気づいたらしく、指をさす。

その方向を見ると、大きな熊がいた。

俺達が近づくと熊の方もこちらに近づいてくる。

そして、熊との距離が10mぐらいになると、突然ミオケルが熊に向かって強烈な蹴りを繰り出す。

しかし、その攻撃は空振りに終わった。

熊は少し後ろに下がり、低い姿勢になり両手を構えて爪で攻撃をしてくる。

ミオケルはバックステップで距離を取り、俺は剣を抜きながら走り出す。

熊の攻撃は素早く、鋭い。

だが、ミオケルの片手剣で熊の脳天を切り裂き、首筋から血飛沫が上がる。

俺は倒れ込む熊を横切り、走る。

すると、ミオケルが追い越して熊の心臓を突き刺した。

そのままミオケルは熊を引きずり、肉を解体する。焚き火を炊いて煙で、干し肉を作る。保存食にしようしてた。

しばらくして、ミオケルが作業を終え、再び森の奥へと進む。

すると、遠くに城の入口らしきものが見えてきた。俺は地図を確認してみるが、やはりここで間違いなさそうだ。

「じゃあ、私は見守るから。あとは頑張って」

「えっ!?」

いきなり言われたことに驚く。

「ど、どうしてですか?」

「だって、対奇怪隊ならこんなの楽勝だろ? それに、ここ最近になって急激に増えたしな。こいつらはただの雑魚だ」

「そうかもしれませんが、僕には仲間がいるんです。だから、無茶なことはできませんよ!」

俺は必死に願うが。ミオケルは拒否された。

「……無理無理。私の力では君を運ぶことは出来ないし、私一人だと城に入れば殺される可能性もあるからな。悪いけど、他を当たれ」

「そんな……」

「まぁ、頑張ってこいよ。応援だけはしてやるから」

そう言ってミオケルは森の中に入っていった。

俺は仕方なく一人で城に向かうことにした。

入り口は頑丈に閉じられていて、押しても引いてもビクともしない。仕方ないので、俺は近くにいた石を投げてみた。

すると、ドアは開き中へ入れた。

そして、中に入るとそこは広い空間になっていた。天井が高く、まるで体育館のように感じる。床は赤い絨毯が敷かれている。奥には大きな階段があり、二階へと続いている。そして、左右の壁にはそれぞれ2つずつ扉があった。その内の一つの扉だけが開いている。恐らくあそこが出口だろう。すると奥の方から話し声が聞こえてきた。

耳を澄ますとそれはゼアの声だった。「お前! なんで俺の言うことが聞けんのじゃ!!』

ゼアはかなり怒っている様子だ。そして、もう一人の声は聞き覚えのないものだった。一体誰と話しているのだろう?

「申し訳ございません。ゼア様、全ては私の責任です」

初めて聞いた女性の声だ。とても透き通った綺麗な声だ。

「お前は一体何回ミスをすれば気が済むんじゃ!? もういい加減にしろ!!」

ゼアはさらに怒りを露にする。しかし、女性は冷静な口調で話す。

「いえ、今回のことは私にも非があります。ですからどうかお許しください」

「もういい!!出ていけ!!!」

ゼアは大声で怒鳴り散らす。女性は頭を下げて謝罪する。

「大変申し訳ありませんでした」

すると、女性は立ち上がり部屋から出たようだ。俺も出ようとしたが、ゼアの言葉に足を止める。

「まったく……なんで俺の召使いはこうも使えんのじゃ!!」

その言葉を聞いた瞬間、俺の体は勝手に動き出していた。

玉座に座ってるゼアの影が人の形になる。間違いない。こいつがナイト・ゼアだ。俺はゼアに向かい飛びかかる。刀を抜いて斬りつける。しかし、俺の一撃はあっさりと防がれた。しかも、片手で簡単に受け止めていた。

「なんじゃ貴様は?」

「元対奇怪隊、大尉!! 北条爓と申す!!」

俺が自己紹介をするとゼアの目が変わった気がした。俺の目を真っ直ぐ見て口を開く。

「ほう? お前が最近噂になっている奴か? そうか、よくぞここまでたどり着いたな? よし、気に入った! 我の部下にしてやろう!」

「断る!!」

俺は即答した。当然だ。誰がこんな自分勝手な奴の下につくか。俺は刀を鞘に収めてゼアを睨む。それを見たゼアも俺を睨んでくる。お互いに一歩も引かず睨み合う。そして、ゼアの方が先に口を開いた。

「ならば仕方あるまい……死ね」

すると、影が伸びてきて俺に襲いかかってくる。それを間一髪で避ける。避けたあとすぐに走り出し距離を離す。そして、ゼアの影の動きを観察する。

(速いけど避けられないほどじゃない)

すると、ゼアが俺に向かって叫ぶ。

「おい、小僧!! なぜ戦わん? まさか、怖くて動けないのか?」

「いや、ただ戦っても無駄だと思っただけだ」

俺は嘘を言う。本当は戦うのが怖いだけなんだけど。すると、ゼアは鼻で笑いだした。

「ふんっ!! そんなわけないじゃろ? まぁいい、どちらにせよ死ぬ運命は変わらんのだからな!! さぁ、かかって来い!! それとも臆したのか?」

どうやら挑発してるみたいだが俺には通じない。なぜなら既に作戦は立てているからだ。まず最初にやるのは時間稼ぎだ。時間を稼いでいるうちに仲間が来るはずだ。それまでは時間を稼ぐしかない。とりあえずここは相手の話に合わせようと思う。俺は刀を構えて答える。

「いいだろう、勝負しようじゃないか!!」こうして俺とナイト・ゼアの戦いが始まったのだ。俺は走って距離を詰めようとすると、突如目の前に壁が現れ行く手を阻む。どうやら罠を仕掛けられたようだ。壁を斬るがまた違う壁に阻まれてしまう。それを繰り返しているうちにいつの間にか壁際まで追い込まれてしまった。逃げ場がない状態だ。気配を感じ、上を向くとゼアが大きい岩を振り下ろしてきた。なんとか横に回避して距離を取るが今度は下から岩が迫ってくる。それもジャンプして躱すが上から岩が大量に降ってくる。ギリギリのところで岩を斬って着地すると同時に横から何かが飛んできたので慌ててしゃがんだら頭上から岩が落ちたきた。何とか助かったようだ。すると、後ろから声が聞こえた。振り向くとそこにはゼアが立っていた。咄嗟に後ろを振り向き防御するが間に合わず吹き飛ばされてしまい床に叩きつけられる。さらに追い討ちをかけるようにゼアの拳が俺の腹にめり込む。その衝撃で口から血を吐きながら後方に吹き飛ぶ。そして、そのまま壁に激突してしまった。俺は吐血をしながらも立ち上がる。正直言ってかなりやばい状況だ。

余裕の表情で近付き、何かを語りだした。

「始皇帝という古代中国の王様がいてな……」

いきなり何を言ってるんだろうと思ったが黙って聞くことにした。

「その王様はな……自分より弱い者を皆殺しにして自分が強いことを証明したのだ……」

何を言っているのだろうと思っていると奴は続けて言う。

「つまり、この俺様こそが最強なのだ!!」

何を言っているのかさっぱりだったが、僕は思った事を口にする事にした。

「それってただの暴君じゃん……」

僕がそう言うと奴がキレたようで殴りかかってきた。

だが、僕の方が速かったため、攻撃を躱してカウンターを放つが腕を掴まれ投げ飛ばされた。

地面に叩き付けられて立ち上がれない状態のまま考える。

このままでは勝てないと思い逃げる事を考えた。だが、逃げようにも体が言うことを聞かない状態だった為、どうしようか悩んでいると奴の方から話しかけてきた。

「明智光秀という人物を知っているか?」

突然何を言い出すかと思えば訳の分からない事を言い始めたので無視をすることにする。すると、再び話しかけてくる。

「織田信長の家臣であり、本能寺の変を起こした張本人だ」

確かに聞いたことがある人物だ。しかし、それがなんだと言うのだろうか? 無視してると突然質問してくる。「彼が起こした謀反についてどう思う?」

どうも思わないし興味もない。なので答えずにいると彼は笑いながら話し始めた。

「実はあの事件は信長の命令ではなく彼の独断だったんだよ

衝撃的な発言に驚きながらも彼を見る。彼は笑みを浮かべながら続ける。「だからもし仮にだよ?君が信長の立場だったらどうしたかな?」

その問いにどう答えたらいいか分からず黙っていると彼は僕の反応を見て少し残念そうにしながら言った。

「じゃあ最後にもう一つ質問をしようか……君は人間かい?」

それを聞いて思わず吹き出しそうになる。そして、彼を睨みつける。こいつはさっきから何が言いたいんだろうか?そもそも、今この状況でそんな事を聞いてなんになるというのか全く理解できない。それでも、一応質問に答えることにした。「……人間だ」

それを聞いた瞬間、彼は腹を抱えて大爆笑し始めた。そして、しばらく笑った後、涙を拭いながら言ってきた。

「あっはっはっはっは!! いや〜面白いね!君みたいな人初めて見たよ!やっぱり人間は素晴らしいよ!特に君のような人間が一番好きだ!私は君を応援するよ!頑張ってくれ!応援してるから!」

まるで下を見るように笑う彼に恐怖を感じた。なんなんだこいつ?狂ってるんじゃないかと思いながらも立ち上がり構える。しかし、足がふらつきうまく立つことが出来ない。すると、彼は手を叩いて拍手しながら笑顔で言った。「いやー実に良いものを見せてもらったよ!ありがとう!それじゃあそろそろ終わりにしようかね?」そう言ってゆっくりと近付いてくる。もうダメだと思ったその時、天井が崩れて誰かが落ちてきた。その人物は素早く剣を抜き、僕に襲いかかってきた影を切り裂いた。切り裂かれた影は消え去り僕とそいつだけが残った。そいつは僕をチラッと見たあとすぐに前を向いてしまった。そして、独り言のように呟く。「まだ終わってないよ」その瞬間、影が再び襲ってくるがそいつは剣を一振りして全てを消し去った。

それを見て驚いた様子で後退りするゼアにそいつはゆっくり近づいていく。そして、目の前で止まり静かに呟いた。「お調子者さんみっけ」その言葉を聞いた瞬間、ゼアの表情が一変した。焦りの表情を見せながら後退りしていく。その様子を見ていた彼女は呆れた様子で話す。「まさか本当に忘れてたのかい?なら思い出させてあげるよ!」

彼女がそう言った直後、フードを下ろすとミオケルが現れた。それを見たゼアは驚くどころか笑っていた。どうやら正体に気付いていたらしい。それを見たミオケルは溜め息をついて話した。「はぁ……せっかく私が忠告してあげたのになんでこうなるのかな……」

「お、お前は……」ゼアが動揺しているとミオケルが冷たい目で見つめながら話す。「その反応は何? ミオケルだけど?もしかして私の存在を忘れてたのかい?」

その言葉を聞いた瞬間、ゼアの顔が青ざめていくのが分かった。

「ま、まさかお前生きていたのか!?」

「えぇ、生きてましたよ。というかあんたが殺したんでしょ?」

そう叫んだ瞬間、彼女の体から黒いオーラが溢れ出した。それと同時に凄まじい殺気を感じるようになった。それを見たゼアは冷や汗を流していた。恐らく今まで感じたことのないような殺気を感じているのだろう。その証拠にさっきまでの威勢が全く無くなっている。そんな彼女を見た僕は素直に凄いと感じた。これが本物の強者なのだと実感することが出来たのだ。

一方、ゼアの方は完全に戦意を喪失していた。それはそうだろう。何故なら今の彼女からは圧倒的な威圧感を感じ取れるからだ。そんなことを考えていると彼女は微笑みながら話し続けた。「悪いけど、貴方のその面と性格が気に食わないんだよね……だからさっさと終わらせるよ」そういって鞘から剣を抜こうとする彼女にゼアは慌てて声をかける。「まっ待ってくれ! お、俺が悪かった! もうあんなことはしない!約束する!だから許してくれ!頼む!」

「嫌だ、だって給料もくれないし休みもくれないんだもん」

即答する彼女にゼアは土下座をしながら必死に許しを乞うたが、そんな言葉を聞くはずもなく顔を踏み付けられたあと腹部を蹴られ遠くへ飛ばされてしまった。

その光景を見ながら僕は思った。(あれ?なんか立場逆転してない?)そう思いながら見ていると、彼女はゼアの方に近付き、ポケットから小銭が入った袋を盗んでいたらしく中身を確認していた。そして、満足したような表情で僕の方へ歩いてきた。僕はすぐに起き上がり警戒態勢をとるが彼女は気にせず話し始める。「大丈夫?怪我はない?」そう言いながら手を差し伸べてきたので、その手を掴み立ち上がる。どうやら僕を助けようとしてくれたらしい。お礼を言おうとすると彼女は突然笑いだした。そして、僕を見つめながらこう言った。「それにしてもあんたって意外とやるんだね?」その言葉に首を傾げると続けてこう言ってきた。「いや〜最初会った時は弱そうな奴が来たなって思ってたんだけど以外と強かったからさ、ちょっと見直したよ」

そう言われて嬉しくなった俺は思わず笑ってしまった。すると彼女も笑いだした。お互い笑いあったその時、ゼアの唸り声が聞こえ、振り向くと影が集まりだし人の姿になった。どうやらまだ諦めていないようだ。それを見たミオケルは溜め息混じりに言う。「しつこい男は嫌われるよ?」そう言うと同時にゼアに向かって走り出す。僕も慌てて後を追う。ゼアは再び影を使って攻撃するがそれをものともせず突き進む。そして、間合いに入ったところで一発の拳を放つ。その一撃により、影が消え去った。その様子を呆然と見ていたゼアだったが我に返り叫ぶ。「き、貴様何者だ!? なぜ俺の邪魔をする!!」

その問いに対してミオケルは答えた。「別に貴方の邪魔をした覚えはないよ。ただ単にうざかっただけ」その一言に怒りを覚えたのか歯を食い縛りながら叫ぶ。「ふざけるな!!たかが人間ごときがこの俺に逆らうな!!」そう言って再び影を集めて襲いかかるが簡単に吹き飛ばされてしまう。その隙にミオケルは高く飛び上がり足を伸ばせば届く距離まで近づいてから踵落としを放つ。それをまともに受けたゼアはそのまま床に叩きつけられ気を失ったのだった。

戦いが終わった事を確認した僕は倒れているゼアに近づく。どうやら気絶しているようだ。とりあえず縄で縛ろうと思い近付くと後ろからミオケルが声をかけてきた。「ねぇ、それどうするの?」僕は振り返り答える。「とりあえず拘束して動けないようにしておくよ」僕が答えると彼女は微笑みながら言った。「賛成だね、まぁその前に聞きたい事があるんだけどさ、あんたはこれからどうするつもりだい?」僕は少し考え答える。「とりあえず仲間と合流しようと思う」それを聞いた彼女は少し考えてから言った。「なるほど、確かにそれが一番いいね」僕は頷き答える。「あぁ、でもどうやって合流するかだよな……」すると、彼女は笑いながら手を振り、お別れの挨拶しながら階段に登った。その背は戦士らしい姿の立ち方だった。

「じゃあね!縁があったらまた会おうじゃないか!」そう言い残し階段を上っていった。俺も同じように別れの挨拶をして上に向かおうとしたのだが突然扉が開き、振り向く。するとそこには洋二達が立っていた。みんな僕を見て驚いていたので何があったのか聞いてみることにした。すると、突然泣きながら抱き着いてきたまいに質問された。「ど、どうしてここに居るんですか!?」

 質問の意味がよく分からなかったので質問返しをすることにした。「えっと……どういうことかな?」すると今度はリーザが言った。

「大尉が急に、どっか行っちゃうから心配したんだよ!?」そう言われると申し訳ない気持ちになったので謝罪をした。その後、事情を説明することにした。もちろんあのことは伏せてだが……一通り説明を終えると皆んな納得してくれたようで頷いていた。

そんな中、洋二だけは何かを考えていたようだったが結局何も聞かずにいた。それからしばらくした後、皆で食堂に行く。

もちろん頼むメニューは薬味大盛り、熊すき焼きうどんを頼む。

店員さんが料理を運び、テーブルに置くと具沢山なうどんが出てきた。まずは一口食べてみる……美味い!!さすがは大人気店だ!! あまりの美味さに感動していると洋二達が羨ましそうに見てきた。


リーザはじっと見つめながら「そ、そんなに美味しいのか?俺にも一口くれないか?」と言ってきたので快く承諾した。

「あ、ずるい! あたしにもちょうだいよ!」続けてまいが言う。

それに続いて洋二も食べたいと言ってきたため、みんなに分ける事にした。

まず最初に食べさせたのは一番小さいまいだ。

彼女は小さな口で麺を啜り飲み込むと目を輝かせながら言った。

「なにこれ!凄くおいしい!」

「それは良かった」

次にあげたのはリーザだ。彼は大きく口を開けて頬張ると言った。

「これは……うまいな」

さらに、最後に残ったのは洋二だ。彼は何故か食べる前にお手拭き

で手を拭いている。

そんな彼の姿を見ていると彼はこちらを見て恥ずかしそうに言った。

「いや、実は猫舌でして」

私は彼に言った。

「そうか、では冷ましてあげるね」

俺はそう言って箸で麺を持ち上げる。

彼はそれを見て言った。

「えっ、そんなことしなくても大丈夫だよ」

俺は笑って言った。

「珍しい料理だよ。美味いから騙されたと思って食ってみろよ」

彼は渋々といった表情で言った。

「そこまで言うなら、いただきます」

そうして、彼が食べたあとに言った。

「どうだ?美味いだろ?」

しかし、彼から返事はなかった。

それどころか、彼の目は焦点があっておらず、口は半開きになっていた。

皆、一口食べ終わったら俺は勢いよくうどんを啜り始めた。

(うん、やっぱり美味いわ)

あっという間に完食してしまった。

しかし、ここで問題が発生した。手持ちがないということだ。

さすがに、店員の視線が痛いのだ。

お金がないので皆に伝えた。

「ごめん、手持ちが無いから立て替えてもらっていいかな?」

すると、洋二が答えてくれた。

「わかった、いいよ」

他の三人も頷いてくれたので、お金を支払った後、店を出ることにした。

店を出てすぐのことだった。突然、何者かに声をかけられたのだ。

「ちょっと! 我を置いてくとはどういうことだ!?」

振り返るとそこには、阿国だった。リーザは頭を掻き、謝罪する。

「あっ、すまん。すっかり忘れてた」

すると、彼女は頬を膨らませて怒ってしまった。

「ひどいではないか! 我だって好きでここにいるわけではないぞ!」

たしかにそうだと思ったので素直に謝った。

「悪かったって、今度何か奢るから許してくれよ」

 すると、彼女は機嫌を取り戻したのか笑顔になりこう言った。

「うむ、それでこそ我が見込んだ男じゃ!ならば、許すとしよう!」

「それはそうと、お主らこんな所で何をしておるのじゃ?」

彼女が質問してきたので僕は答えた。

「ああ、仲間と合流してこれからどうするか決めようと思ってるんだ」

それを聞いた彼女は納得してくれた。

俺はコートのポケットに手を突っ込み、皆に伝えながら歩き出す。

「お前ら、まだ旅が終わったわけじゃないからな、油断するなよ」

それを聞いて頷く四人を確認しながら、俺は先へ進むのだった。

まだ困ってる人はいるはずだ、この妖魔界を平和にする為にも……いや、違うな。

このメンバーならきっと出来ると信じているからだ。

俺は一人じゃない、だからこそ戦えるんだ。俺は改めて仲間の大切さを噛み締めながら歩き続けるのだった。


 ――ブラックモンスター、一部完――

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