第8話

爓はまた本を読んでいた。辞典通り、数々の伝説妖怪について書かれている。

「うーん、やっぱり有名な奴らは大体載ってるなぁ」

本を閉じて横に置く。今度は別の図鑑を手に取る。

「これは……『奇怪』か」

ページをめくっていくと、色々な怪物が載っていた。所々白紙の箇所があり、まだ未確認の怪物かもしれないと思ったが、どの項目にも必ずイラストが描かれていた。

その中で目についたのが肩にリュックみたいなの背負ってて、腕には物騒な武器を取り付けた巨大なロボだった。

「なんだこれ?」

よく見るとそのロボットは背中にロケットランチャーらしきものを背負っている。

「こいつは一体……」

さらに他のページを見ると、そこには名前で『イリアス・マギアス』と書かれている。

「えっと、イリアス……巨大支援ロボット?」

次のページを開くと、顔と体を塗り潰され、姿形が分からない。一瞬俺の父に似てたが顔がはっきり分からないため、他人の空似だろうと思い、考えるのをやめる。

「この『奇怪』の図鑑に載っているのはこれだけか……まぁいい、続きを読むぞ」

そう思い再び本を読み始める。すると、部屋のドアが開く音が聞こえる。ホテルの店員だろうか。

「すみませーん、205号室の人で間違いないですか?お届け物があります」

205と聞いて少しドキッとする。

「なんでしょうか?」

「他のお客様が予約された様なので部屋のお荷物を持って受付で会計お願いします」

「あぁ、分かりました」

「では、失礼しました」

ドアが閉まる音を聞いてほっと一安心する。危なかった、もし狙われたらどうなっていたんだろう。とりあえずリーザー達に荷物を渡して部屋を出る。

「よし、これで全部だな」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、それでは」

「はい!またのお越しをお待ちしております」

ホテルを出てからどう過ごそうか考えてた。

ビルを見ると都会は生きづらいなと実感した。人の服や見たことない形状した車まで、いろんなものが溢れている。

「街を散策しましょ」

洋二が提案してきた。特に異論はない。

「そうだな」

リーザも賛成してくれた。

「じゃあ決まりだな」

歩き出そうとしたが、まいの姿が無い。

「あれ?あいつどこ行った」

「さっきまでは一緒に居たわよね」辺りを見渡すと、ビルの隙間に入っていくのを見た。

「まさか……」

嫌な予感しかしないが、追いかけることにした。リーザ達には待っていてもらうことにした。

路地裏に入ると、不良に絡まれてるのか、声が聞こえてきた。

「ねぇ君、俺らと遊ばな~い?」

1人は金髪で、もう1人茶髪の男は下品に笑う。

「あの、困ります……」

『いいじゃんかよぉ』

2人組の男に囲まれて逃げられない。助けないとまずい。急いで走ろうとすると、爓が止める。

「おい!何やってる!?」

男達はこちらを見てニヤッとした表情をする。

『なんだてめぇ?』

『邪魔すんじゃねえよ、痛い目にあいたいのか?』

俺は無視して近づこうとすると、男が俺の胸ぐらを掴む。

『調子乗ってんじゃねーぞ』

爓の開いた手をグーにして今にも殴りかかりそうな表情をしていた。

そう思った瞬間、後ろの方で大きな爆発音が響いた。振り返ると煙が上がっており、その方向を見る。するとそこには人の姿したロボットがいた。

「えっ……」

呆気に取られていると、2人が走って逃げる。

『ちくしょう、覚えてろ!』

『このクソガキ共!!』

ロボットは右腕を振り上げて拳を地面に叩きつける。

『軽犯罪者、軽犯罪者』

すると、地面が揺れて、壁が崩れる。

『うおっ!!』

『くそ、ふざけんなぁ』

『逃げようぜ』

『逃がしません、罰金払って下さい』

そう言うと、左腕を後ろに引く。

『くそ、妖警の言いなりになるかよ! しね!』

不良の男は拳を強く握り締めてロボットの腹にパンチする。ロボットは微動だにしない。

『…………犯罪法違反、暴行罪です』

『へ?あっ……ぎゃああぁぁ!!!』

ロボットは男の頭を掴んで地面にぶつけた。

『……懲役100年』

『……ぐぅ』

『……罰金50万円』

『……は、払うから許してくれ』

すると、不良のポケットから財布を取りだし、札を抜き取る。

『……確認しました』

そう言って立ち去ろうとしたが、何かを思い出したように足を止める。

『……あぁ、まだ終わってませんでした』

『ひっ……』

『……貴方は未成年の飲酒及び喫煙の疑いがあります』

『いや、もう払ったじゃないか……』

『……私はまだ見てないですよ? 早く出して下さい』

『ま、待ってくれ……』

『……待ちません、さぁ』

不良の頭を掴み、地面に何度も強く打ち付ける。

『払って下さい』

『分かった分かった。親に払うから』

『分かりました。それでは請求書を確認してサインして頂きます』

そう言うと、紙を渡した。男は震えながら受け取る。

『こ、これは?』

『貴方の両親の名前と住所を書いてください』

男はペンを手に取り書き始めた。そして、記入が終わり渡した。

『御記入ありがとうございます。それでは3日まで御請求お願いします』

そう言うと、男は一目散に逃げていった。

「大丈夫か?」

まいに声をかける。

「うん、ありがとう」

「怪我とかはないか」

「平気だよ」

「そうか」

安心した。でも、あのロボットは何だったんだろう。

ロボットは俺達の前に立ち、紙を見せながら言った。

『あのまま払わなかったら地獄裁判でしたね』

『げっ』

『ちなみに私は妖魔警察の"横田"といいます』

そう名乗ると名刺を渡した。

「えっと、妖魔警察ですか」

『はい、妖魔警察の隊員です。よろしくお願い致します』

「あ、はい」

「どうも……」

『お嬢さん、この辺りは危険ですので、なるべく外出を控えてください。特に夜は出歩かないで下さい』

そう言うと、歩き出す。

こういう自警団は見たことなく、田舎だと人と仲良くなる機会が多い。ここだと仕事の為に全力で動いてる感じがする。

爓は少し妖魔警察を評価したくない気持ちがあったが、リーザ達は感心していた。

「すごいですね」

「あんな人初めて見ました!」

あれで凄いと言うのはちょっとな……。

「……そうだね」

「ささ、早く街を散策するぞ」

「はい」

そうして、俺達は妖魔界の街を見て回った。

歩道には人の上に機械を動かして進んでて不思議だ。高速の道路標識は映像で動いてた。店はコンビニみたいなのもあるが、よく分からないものばかり売ってある。服屋もあったが、奇抜なデザインばかりで驚いたり、アクセサリーショップもあったけど、どれも高い。

特に驚いたのが店員らしき姿がいないことだ。どこ見ても人がいるのに、どこにもいない。

すると、リーザが立ち止まった。

「ん?どうかしたのか?」

「いや、上見たらなんかおもちゃみたいなのがぶら下がってるなって思って」

そう言われて上を見ると確かに看板があおもちゃ見たいのがぶら下がってた。これで監視してるというと納得できるかも。

「……なぁ、これってどうやって買うんだ?」

「俺にも分からないな……」

リーザーが見たことない商品を持ったまま聞いてきた。多分、飲み物だろうと思う。

「私、知ってますよ。ここは持ち帰ったら会計されますよ」

まいは慣れた手つきで商品を取り出し、店を出た。異常な行動をしてて頭が真っ白になった。これは持ち帰って良いんだろうか? すると、まいは飲み物飲みながらすぐに戻ってきた。

流石に店の前で飲むのはダメじゃないのかな?

「ふぅー、やっぱり炭酸は美味しいですね」

「……」

「あ、すみません。皆さんが見てる前で飲むなんてはしたないことしちゃいましたね」

「え?」

「でも、安心して、既に会計されてるから持ち帰っていいんだよ」

「そ、そうなんですか!?」

「あぁ、そうみたいだな」

俺達が知らないだけでここでは普通なのか? まぁ、別に良いが。

「じゃあ、次に行きましょう」

「次はどんなところに行く予定なんだ?」

「まだ決めていません」

おい。まぁ、そんなに急いで決める必要もないからな。

「おい!あの浮いてる物体はなんだ!?」

リーザーが見たのはビルの上に大きい球体が付いてる変なものを見つめていた。その光景を見た時、何かを思い出した。

「あ、あれは確か、妖魔デパートですよ」

洋二が答えた。確かに球体の映像から分かる通り、宣伝をしてるらしい。

「妖魔デパート?」

「はい、この世界で一番大きいショッピングモールです」

「へぇー」

リーザーは興味無いような返事をした。爓はあの建物を指差した。

「あ、あの大きい円盤型のビルはなんですか」

「あそこは"テスラ発電所"という施設で、電気を作る所です。この1つで妖魔界全体の電力を賄ってます」

「ほぉ、凄いな」

「そういえば、洋二の家も都会じゃなかったけ? 案内したいんだけど」

「いや、少し難しいですね」

洋二は困った顔で答える。まあ、家庭の事情だと思えばいいか。

「おい! あれはひょっとこ踊りではないか!?」

「はい、あそこで踊っているのは妖魔学園の生徒達で、今学園祭でやってるんですよ」

「おぉ!」

リーザーは目を輝かせてた。

「ねぇ、ちょっと寄っていかない?」

「え、いや、今日はもう遅いので、また来年にしましょう」

「むぅー、仕方ない。なら来年にしようか」

リーザは少し残念そうだった。

その先には塔のような建物が他のと比べて遥かに大きかった。

「なぁ、あれは?」

「あれは妖魔城と言います。様々な機関や官王などが集まっている場所です」

「そうか……なぁ、洋二。ちょっと見るだけでも駄目か?」

リーザは少し遠慮がちに聞いた。

「い、いえ! 全然大丈夫です。ちょうど見学も出来ますし」

「本当か!」

リーザの顔が明るくなった。本当にリーザは妖魔界が好きなんだな。

――タクシーに乗り、数分後、目的地に着いた。

そこには巨大な建物があった。これが噂に聞く、妖魔城か。想像以上に巨大だ。中に入るのに何時間かかるんだろうか。

「では、入りましょう」

洋二が先に入り、続いて俺達も入った。「おぉー、広いな」

「そうだな」

天井には無数の電球が光り輝き、辺り一面が明るい。こんなのは初めてだ。

「ここは受付です。ここで許可証を発行して貰います」

「許可証?」

「はい、ここでは武器の使用は禁止されています。なので、刀と銃を預けます」

「分かった」

俺達は刀と銃を渡した。すると、まいが何かを取り出した。

「忘れてました」

まいが出したのは、拳銃が二丁あった。

「これは?」

「これは奇怪で使う特殊な弾が入った拳銃だよ。卒業の品物で貰ったんだけど」

「なるほど」

俺はまいに渡された拳銃を持ち、感触を確かめる。意外に軽い。その拳銃を受付の人に預かる

「これで俺達の所持品は全て預かったことになるのか?」

「はい、そうです」

「それでは、案内させていただきます」

ガイドはエレベーターの方へと歩いていった。俺達もついて行くように歩いた。

「なぁ、官王ってどんな感じなんだ? やっぱり厳しいのか?」

「うーん、どうなんでしょうね。でも、多分厳しくはないと思いますよ」

洋二は笑顔で答えた。

「そっか、それは良かった」

そうこう話しているうちに、目的の階についた。ドアが開き、目の前に見えた光景はまるで宮殿のようだった。

「凄いな」

妖魔城のガイドさんが説明を始めた。

「ここが、妖魔城の中心部です。ここには色々な施設があります。例えば、この大広間。ここでは、様々なパーティーやイベントが開かれております」

「へぇー、そうなんですか」

「あちらに見える階段は、上の階に繋がっており、上に行けば行く程、階級の高い人達がいるフロアになります」

「へぇー」

俺達は周りを見渡しながら歩く。確かに、この階は豪華絢爛という言葉が一番合うだろう。

「そして、こちらにあるのは妖魔城の歴代官王の写真が飾られてる場所です」

「おぉー」

歴代の官王がずらりと並んでいる。しかし、全員見たことあるような気がする。

「なぁ、この人って洋二に似てないか?」

「え、そうですか? よく似てると言われますけど」

「それでは今から重要な場所へ案内します」

「重要? どこだ?」

「この階の奥の部屋、そこに官王の部屋があるのです」

「ほぅー」

「今からは許可証がないと入れませんのでご注意ください」

そう言い、奥の扉の前まで来た。その前には二人の警備兵が立っていた。

「許可証を持ってるか?見せろ」

「はい」

洋二は懐にしまっておいた許可証を見せた。

「よし、通れ」

「ありがとうございます」

洋二に続き、俺達も中に入った。

「すげえな」

中には、沢山の資料が置いてあり、机の上には大量の資料があった。触れないでって書いてあるがツヤ的にレプリカ品っぽい。

空亡が仕事大変そうにしていた理由がやっと分かった。

「さて、ここで質問タイムにします。何か質問したい方」

「おう!」

リーザは手を上げ、元気良く言った。

「官王はどんな仕事をしてんだ?」

「簡単に言うと、妖魔界全体の管理や運営だな」

「じゃあ、奇怪を退治したりとかしないのか?」

「まぁ、そういうのもあるが、基本的には書類整理などの仕事が多い」

「なるほどな」

リーザは納得したようだ。

次はまいが質問をした。

「一日の仕事時間はどれくらいなんですか?」

「はい、朝六時に起きて、七時から九時まで会議をして、妖魔界の政策を決めて十二時、昼休憩をはさみ、午後五時半までまた書類整理をする。それが一日のスケジュールだな」

「へぇー、結構ハードですね」

「そうだな、だが慣れれば大丈夫だぞ」

「頑張ってくださいね」

「あぁ、頑張るよ」

次に俺が質問をする。

「どうして、こんなに多くの資料が必要なんですか?」

「それは奇怪の情報を詳しく知るためです。奇怪を対策をし、結界を強化します」

「なるほど」

「その他の質問はありませんか?」

「特に無いです」

「それでは、今日はこれにて終了です。お出口はエレベーター降りて1階のフロントがお出口です」

「はい! ありがとうございました」

俺達は礼を言い、部屋を出た。

俺達が外に出ると、もう夕方になっていた。

「ふぅー、終わったぜ」

「いやぁ〜、疲れたね〜」

「そうね」

皆、疲労感満載の顔をしている。俺は少し気になった事を聞いてみた。

「そういえば、なんであの人はあんなに早く官王の部屋に行けたんだ?」

「あぁ、それはね。この部屋の構造的に最短距離で行ける道を教えてくれたんだよ」

洋二が答える。

「へぇー、そんな道があるのか」

「うん、でも道順を覚えても絶対に迷うから意味ないと思うけど」

「そうなんですか!?」

「ここは迷路みたいな場所だからな。僕達も最初は苦労した」

「マジか……」

「はい、どうやらこの妖魔城には様々な罠があり、それをくぐり抜けないと目的地へは行けないようになっています」

「なるほど、確かにこれは迷子になるわな」

「そうですね。一度通った道を記憶してもすぐに変わるので無意味です」

「確かに、ここの道覚えるの無理だよな」

俺は苦笑いをしながら言う。にしても流石、洋二の頭は冴えてるな。計算とか得意だしな。

それからしばらく歩いていると、皆テレビに夢中になり覗いてみると奇怪の出現情報だった。

最近、妖魔界では出現情報がかなり多くなり、その分、死者も増えているらしい。

まぁ、このニュースを見ても俺達は何も出来ないんだけどな。

そして、妖魔学園に着いた頃にはもう夜の八時を過ぎていた。

妖魔学園に到着し、教室に行く。自由なだけあって生徒達はほとんどいない。

休憩時間は教科3限を重ね1時間。その間俺は後ろの本棚に並んだ本の山の中から一冊の本を持ってきた。タイトルは……

《妖魔界歴史書》 この本は昔、ある官王が作ったもので中には古代文字を翻訳しただけのものだ。

 内容としては歴史の年表と妖怪の名前が記載されているものなのだが、中には貴重な物もあるらしく、中には世界樹の葉やフェニックスの尾などのレアアイテムが入っている。

しかし、俺の選考科目は薬剤調合師なので関係ない。

本を閉じ、本棚に収納した。洋二は分厚い本を取り出し、机に置いた。何を読んでるのかと思い覗いてみる。

「お前は何読んでんだ?」

「あぁ、これ? これはね。『錬金術書』っていうやつだよ」

「なるけど」

理系科目が得意っていうのは昔から聞いたけど錬金術ってすげえな。

するとまいが寄ってきた。

まいは洋二の隣に立ち、ページを覗き込む。

まいとリーザは興味深そうに見つめていた。

二人は文系なのにな。

するとまいは洋二に質問をした。

「液化調合?」

「液体を混ぜ合わせて新しい物質を作り出すこと。まぁ、薬を作るのと同じかな」

「へぇー、面白いな」

リーザが感心している。

「じゃあ私も見てみようかしら」

「いいよ!」

まいは洋二の前に座り教科書を開く。俺達はそれを見るために近くの席に座った。

洋二のお勉強会が開き教えてくれるが、洋二の専門的用語が多くて何を言ってるのか全然分からなかった。

「おはよう皆」

知らない同級生に挨拶され、振り向くとそこには見た事ない奴がいた。

背が高く、黒髪でオールバックにしてて、目は切れ長で、まるでホストのようなイケメンだ。

俺達の反応を見たそいつは首を傾げる。

俺達は軽く自己紹介をして、俺が質問をする。

「君はどこの科目? 俺は薬剤調合師ってやつなんだけど」

するとそいつは自信満々に答える。

「僕は戦闘科で格闘術専攻」

なんというか、バトル漫画の主人公みたいな感じの男だった。

話を聞くと、名前は坂本 涼介といい、俺と同じく、対奇怪隊に入りたいと言っていた。

「へぇーそうなんだ。でもいいのか、こんな所で油売ってて」

「大丈夫、僕が受けてる授業はないからね。それに僕の友達にも声掛けてきたし」

「そうなのか、ならよかった」

「うん! そうだ! 皆でご飯食べない? せっかくだから親睦会も兼ねて」

「おぉ、ナイスアイデア」

「賛成」

「いいわね」

「決まりだな、じゃあ食堂へ行こうか」

涼介の誘いで俺達は立ち上がり、食堂へ向かった。

「いらっしゃいませ」

中に入ると、購買や売店とはまた違った雰囲気の場所だった。

内装は白とピンクを基調とした色使いで、清潔感のある場所だった。

俺はメニューを見て驚いた。

「おいおい、マジか……」

そこに書かれた値段はどれも1000円以上する物ばかりだ。

どれも買えたもんじゃない。

俺の言葉に反応した洋二は横からのぞき込んでくる。

まいは財布を取り出して中身を確認する。

まいは顔を青ざめながら言う。

「やばっ、今月の給料日まで後10日しかないのに……」

そんな時だった。

涼介はポケットに手を入れ、銭を一つ取り出し、まいに渡す。

「これ使っていいよ」

「え!? でも悪いです」

「気にしないで、この前の任務での報酬金がまだ残ってるから」

「 ありがとうございます!」

まいは嬉しそうに受け取り、それを見ていたリーザとまいと洋二が羨ましそうに見つめていた。

 その光景を見て俺は思った。

(こいつ……女たらしか?)

それからしばらくすると料理が運ばれてきた。

俺の目の前には大好物の鹿のすき焼きが置かれた。

他の生徒はステーキやパスタなどを食べている。

俺が手を合わせると、皆も手を合わせた。

「いただきます」

割り箸を割ると、早速鹿肉を取る。そして卵と一緒に口の中に入れた瞬間、衝撃を受けた。

「うまい……!」

あまりの美味しさに、俺は涙を流しそうになった。

まず最初に来るのは肉汁。噛むたびに溢れ出る肉汁と溶ける玉ねぎの甘みが俺の味覚を刺激し、涙腺を刺激する。

次に、白米を食べる。炊き立ての白い粒が俺の食欲を掻き立てる。さらに、味噌汁を飲む。出汁と具材がマッチしていて、体が温まる。

最後に、漬物を食べた。少ししょっぱくて、程よい歯ごたえがあり、シャキシャキとした食感が心地良い。

俺は夢中で食事を続けた。

すると突然、まいが話しかけてくる。

「おいしいですね」

「あぁ、うますぎる」

俺の返答にまいは微笑んだ。

まいは上品な仕草で食事をしていた。

「ほんとうにおいしそうに食べるのね」

「だってうめえもん」

「ふふ、なんだか子供みたい」

「うぐぅ……」

まいに言われて俺は恥ずかしくなった。

「それならリーザさんも食べないとダメだよ?」

「あ、あぁ、わかっている」

洋二に指摘されて、リーザは慌てて食事を始めた。俺は今後の予定を皆に議論する。

俺はこれからの事を考えて提案する。

「皆、明日の予定だけど食料調達をしたいんだけど。あとは拠点作り」

「確かに、いつまでもここで暮らすわけにもいかないものね」

俺の意見に賛成したまいは、すぐに意見を出す。

「じゃあさ、食材の確保と拠点づくりどっちを先にやる?」

「食料は山から採取して確保すればいい。次は拠点だけど皆家から遠いから、なるべく近い場所に建てたいけど。何かいい場所知らないか? ちなみに家はもう作れないぞ」

俺がそういうと、まいはすぐに答えてくれた。

「いいところ知ってるよ! ここから南の方角に森があるからそこなら家を建てれると思うよ」

まいの提案で皆賛同するけど洋二だけは難しい顔をして悩んでいる。

「どうした? なんか問題でもあるのか?」

「いや、あそこは結界の外だから危険なんだよ」

「危険? どういうことだ」

俺が質問すると、洋二が答える。

「妖魔界の結界は半径2キロメートルはあって、その中で妖怪たちは生活できる。つまり、それ以上外に行くと奇怪の世界になる」

「じゃあその境界線を越えると奇怪は襲ってくるってことか?」

「そうだよ。特に夜は危ない。昼でも安全とは言えないけどね」

「なるほど、ならどうすればいいのか」

「一つだけあります。妖魔城に対奇怪隊の身分証明書を見せれば泊まらせてくれます。ただ、門番に通してもらう必要があるので、その時は護衛が必要です。無防備で入ると怪しまれるので」

洋二は冷静に対処方法を教えてくれる。

俺はなるほどと思いながら、対策を考える。

だが、結論が出ない。そこでまいが解決策を提案する。

「じゃあ私が護衛やります。護衛資格試験参級を持ってるので任せてください!」

まいは自信満々に言う。

しかし、リーザが反論をする。

「待て、お前は女だろ。ここは男に任せるべきじゃないか?」

「大丈夫ですよ。それにリーザさんの戦闘力は私より低いですし、洋二さんの方が強いじゃないですか」

「ぐっ、それはそうかもしれないが……」

まいに論破されてリーザは悔しそうな表情を浮かべる。

洋二が難しい顔で悩んだ結果賛同してくれた。

「わかった。今回は僕が行く。その代わり次からは二人ともお願いする」

「わかりました!」

「あぁ、すまないな」

こうして話が終わり、食事を再開した。



それからしばらくして完食し涼介の奢りで会計を済ませて店を出て涼介と別れた。

上の暗い空を見ると月の光が輝いてた。

俺はこれからの事について考える。

ナイトゼアを倒す為には俺一人で挑まないといけない。皆を死なせないために俺はあの悪魔を討伐して平和を取り戻さなければならない。

俺は決意を固める。

そして、俺はリーザとまいと一緒に拠点となる家を探そうと歩き出す。

しばらく歩いていると、遠くから声が聞こえた。

俺は立ち止まって耳を傾けると、誰かの声が聞こえる。

まいはその方向を見て、険しい表情で呟く。

「何か居る」

俺とリーザは警戒しながら、まいの視線を追う。

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