第7話

ホテルの部屋で洋二達が寝ている間、爓は、明かりを付けないままじっくりと読書をしてると突然電話が鳴り響く

「もしもし?」

「俺だ」

「セメクトか、何だ?」

声で対奇怪隊の知り合いであるセメクトから連絡があり、急いで外に出る。

「対奇怪隊卒業したんでしょ? ちょっとこっちで混乱が起きてるんだけど、お前が居ないとこっちの命危ないから頼む 」

「分かった。今すぐ行く」

セメクトがいる場所まで移動し到着すると、そこにはセメクトが待機していた。

「よう! 来てくれたか!」

「ああ、それでどんな状況なんだ?」

「実は最近、妖魔界と人間界で色々と事件が起こってるんだ」

「事件?」

「まず最初に、ここ数年前から人間達が行方不明になってたり、殺人事件などが多発している。そして、行方不明者や殺人現場には謎の死体があるらしい」

「謎の死体って……どういう事だ?」

「その謎の死体とは、全身の血が無くなってたり、体が半分無くなっていたりしているらしい。それに、被害者達は全員女性らしくて、特に若い女性が多いみたいだ」

「それじゃあ、犯人はその女性の血とかを使って何かをしているのか?」

「恐らくそうだと思うけど、今のところ何も分かってないんだ。次に、妖魔学園でも、生徒が失踪したり、生徒同士で殺し合いが起きたりした」

「えっ!? 妖魔学園の生徒もなのか?」

「そうだ。それにこの前の卒業生にも、奇怪専門の特殊部隊に入った奴らがいたが、突然姿を消したり、連絡が取れなくなったりしている。まぁそいつらは、奇怪と戦って死んだ可能性もあるかもしれないけどな」

「確かに……そうなった場合、普通なら死亡扱いになるだろうな……」

「あと最後に、つい先日妖魔界にある『大図書館』と呼ばれる場所で、大量の書物が発見された」

「大量の書物だと?」

「ああ、他にも沢山の武器もあったようだ。それとその中に奇妙な日記があった。その日記にはこう書かれていた。『私はもうすぐ死ぬでしょう……しかし私は諦めません……必ず生きて帰ってみせます……あの人のためにも絶対に!』と書かれていて、どう考えても怪しい内容だったよ」

「そんな事が……一体誰がやったんだ?」

「恐らくだけど、まだ若い女の子の仕業じゃないかと思うんだよ。だから俺達はその子を捕まえようと捜索中だがなかなか見つからないんだ」

「そうか……それは大変だな……」

「とりあえず今は情報を集めるために、手分けして探しているが、俺はここでお前が来るのを待ってたわけだ」

「なるほどな……ところで他の連中はどこに行ったんだ?」

「ああ、あいつらなら今日非番だし家でゆっくりしてるんじゃねーかな? それより早く行こうぜ」

「そうだな」

2人は妖魔界の街を歩きながら話をする。

「それで?これからどうするつもりだ?」

「う~ん……正直情報が少なすぎて分からない。だからまずは情報収集するために街に行くつもりだよ」

「なるほど……俺も同じ考えだ」

「やっぱりお前といると気が楽でいいわ。頼りにしてるぞ相棒!」

肩を組くまれ、少々嫌な顔をする爓。

少し歩いてると調査してる人達を見つけた。

「お! あいつらに聞いてみるか」

セメクトは2人組の調査員に話しかけた。

「すみませーん! ちょっと良いですか?」

「はい? なんでしょうか?」

1人の男が答える。

「実は聞きたい事があるんですが、最近行方不明になったり殺されたりする事件が多発してるじゃないですか? それで犯人らしき人物を見たって言う噂を聞いたのですが、知っていますか?」

セメクトが質問すると、1人の女性が答えてくれた。

「あぁ、妖怪指名手配犯の事ですね? 確か名前は『天狗』と言う名前でしたよね? 私も聞いた話なのですが、最近その人が夜中に出歩いている姿を目撃したらしいです」

「ほぉ~なるほど! ありがとうございます!」

「いえ、こちらこそ」

「ちなみにですが、あなた達は何をされてたんですか?」

「あ、いやただの散歩ですよ。それでは失礼します」

女性達が立ち去るとセメクトが話し出す。

「ふむ……犯人の特徴は一致しているが、名前が違うな……」

「そうだな。でも一応調べておいた方が良いかもな」

「よし! 早速行くか!」

セメクトと一緒に捜査を再開する。

しばらく歩くと、今度は大きな建物を発見した。

「おい! 見ろよ! ここが図書館みたいだぞ!」

「おお! これは凄いな! さっそく入ってみよう!」

「ああ」

建物の中に入るとそこには、本が大量に並んでいた。

「すげぇ……こんなに本が沢山あるなんて初めて見た」

「確かに……これなら何か手がかりがあるかもしれないな」

2人で館内を見て回ると、奥の部屋から声が聞こえてきた。

「……誰か居るのか?」

「行ってみよう」

部屋の中には3人の女性がいて、椅子に座って何かを話していた。

「あの~すいません。少しよろしいですか?」

「はい?」

「ここって何の建物なのか教えてくれませんか?」

「ここは妖魔学園の図書館よ」

「えっ!? マジすか!?」

「ええ、マジよ」

3人は立ち上がり自己紹介を始めた。

「私は妖魔学園の教師をしている。

『白狼』と言います」

眼鏡をかけた女性は白狼と名乗った。

「次は私の番ね。私は『猫又』で、こっちは妹の『化け狸』」

「よろしくお願いします!」

化け狸ってここで働いてたんだ……。

「俺は北条 洋二だ。よろしく頼む」

「私はセメクトだ。よろしくな」

お互いに挨拶を済ませる。

「ところで皆さんはどうしてここに?」

「実は俺たちも、行方不明になったり殺されたりしてる事件について調べてまして……」

「そうだったんですね」

「その事なんですけど……もしかしたらここで情報の手がかりになるかもしれませんからちょっとだけお話し伺っても良いでょうか?」

「いいですよ」

「ありがとうございます」

「それでしたら、私はお茶を持ってきますので、先に席についててください」

「あっ、じゃあ私が行きます」

「いや、大丈夫だよ。俺が行ってくるから君たちは座っていてくれ」

「そうですか?分かりました」

「任せたぜ」

爓は1人、飲み物を取りに行く。

セメクトはメモ帳を取り出し、残った2人と話す。

「早速なんだけど、この辺りで行方不明者が続出している事件を知ってるか?」

「はい。私達もつい先程、同じ話題をしていました」

「なるほど……それはいつ頃からだ?」

「確か……一週間前ぐらいですね」

「ふむ……やはりか……」

「ん? どうした?」

「いや、何でもない。続けてくれないか?」

「分ったわ。それでここからが重要な話なんですが、その事件が起きる前に必ず夜中に街を出歩いてる姿を目撃されているらしいです」

「ほぉ~なるほどな。ちなみにだが、どんな奴なんだ?」

「それが……分からないんです」

「ん?どういうことだ?目撃者がいるんじゃないのか?」

「いえ、誰も顔を見たことが無いんです」

「顔を?何故だ?」

「理由は不明だけど、その人物は仮面を被っていたらしく、顔が見えなかったらしいです」

「なるほどな……分かった。情報提供感謝する」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

「いえいえ、それでは失礼します」

部屋を出ると、爓が待っていた。

「あれ? もう良いのか?」

「ああ、後はまた後日にしよう」

「そっか。じゃあ帰ろうか」

「そうだな」

2人は図書館を出て、帰路につく。爓はセメクトに確認する。

「どうだ? 情報は手に入れた」

「ほらよ」

メモを渡される。

「これがその人物の情報か?」

「そうだ。これで何か分かるかもしれない」

セメクトは自信満々だけどまだ爓はまだ証拠が揃ってないと思った。

「いや、これだけだと弱いと思う。もう少し調べる必要がある」

「えぇ……そうなの?」

「ああ、だから明日から本格的に捜査開始だな」

「えぇ……頑張るか」



翌日 今日は休日なので、セメクトと調査を開始する。

まず最初に来た場所は、洋二が通っていた学校だ。ここなら何か手がかりがあるかもしれない。

「うーん……やっぱり何もないか」

「ああ。でも一応、何か見つかるかもしれないから探してみよう」

「そうだな」

校内を見て回ると、校庭に血痕が残っていた。

「これは……」

「まさかとは思うが、ここで誰かが殺されたのかもな」

「おい! お前らそこで何をしている」

後ろを振り向くと、警官が立っていた。

「えっと……実はここに来る途中、事故にあったみたいで、その時の調査をしてます」

「なるほど。そういうことだったのか」

「はい。それとここって何年前まで使われてたんですか?」

「確か……500年前までは使われていたはずだ」

「へぇ~そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」

爓達はその場を離れる。

次はセメクトがよく行っていた店に行ってみる。

「いらっしゃいませ!」

中に入ると店員が挨拶をする。店内には様々な商品が置かれていて、どれも値段が高い。

「さて、ここで何か買っていこうかな」

「おすすめはありますか?」

「そうですね……この青銅鏡とかどうでしょうか?」

「おっ! なかなかいいな。いくらだ?」

セメクトはこの商品に興味を引かれたが今は調査の途中だと思い、すぐに諦める。

「セメクト……」

「おお、そうだな。すみません。今持ち合わせがないので今回は遠慮させていただきます」

「そうでしたか。分かりました」

「突然ですが此処で何か変わった事が起きませんでしたか?」

「変わったことですか? そういえば最近、変な人が来ますね」

「変な人?」

「はい。よく分からないんですけど、その人が来た後に必ず行方不明者が出て、ニュースになっています」

「そうですか。分かりました。ありがとうございます」

「いえ、それでは失礼します」

外に出ると、早速セメクトは興奮していた。

「おい、聞いたか!? もう犯人はあいつしかいないな!」

「いや、まだ決めつけるのは早い。もう少し、調査……」

向こうから男性の悲鳴が聞こえた。

「な、なんだ今のは……」

「行くぞ」

「おう」

2人は急いで現場に向かう。

そこには、1人の男性の体が燃えて苦しんでいた。

「大丈夫ですか?しっかりしてください」

男性に声をかけるが返事がない。

(こりゃあ……もう無理だな)

すると、炎の中から翼を生やした仮面を付けた人物が飛び出た。

仮面の人物はそのままどこかに飛んでいった。

「待ってくれ!」

仮面の人物は逃げるように去っていく。「くそっ……仕方ない。追うしかないか」

「ああ、そうだな」

2人も仮面の追跡を開始した。

しばらく走っていると、森の中で立ち止まっていた。

「やっと追いついたぜ……あんたが連続殺人鬼か?」

「……」

何も答えずに黙っている。

「何故こんなことをするんだ? 理由を教えろ」

「……」

やはり答えようとしない。

「おい!聞いてんのか?」

「……お前らに言う必要は無い」

「ふざけてんのか?」

「……」

何も答えない。セメクトは銃を取り出し、爓は刀を抜く。

「悪いが俺達も仕事なんでな。死んでもらうぜ」

セメクトは銃を構え、発砲する。だが弾丸は弾かれてしまう。

「まじかよくそ!」

銃をしまうと今度は剣を取り出す。

「じゃあいくぜ」

一気に接近して斬りかかる。しかし簡単に避けられてしまった。

「ならこれでどうだ?」

手からは火球が出現し、相手に攻撃するが、またもや効かなかった。

「……無駄だ」

「ちぃ!」

次に腕に魔法陣が出現すると、そこから鎖が現れて相手を拘束しようとするが、それも弾かれる。

「……終わりだ」

「なに!?」

仮面の人物は一瞬にしてセメクトの後ろに移動すると、セメクトの首を掴む。

 「ぐぁ……」

首を掴まれたまま持ち上げられると、地面に叩きつけられる。

「セメクト!今助ける」

「来るな!! こいつは普通じゃない!!」

必死に抵抗を試みるが、全く歯が立たない。

「……消え去れ……ん?」

爓の能力を発動させるが、相手は気づかなかった。

「くらえ!」

不意打ちに成功するが、仮面の人物は全くダメージを受けていない様子だった。

「……この程度か」

「なんて奴だ……くそ」

セメクトは少しずつ押され始める。このままだと殺られてしまうだろう。

(まずいな……どうすればいい?)

考える時間はあまり残っていないようだ。

(考えていてもしょうがないな……やるしか無い)

覚悟を決めたその時、爆発の音がした。

「なんだ!?」

見ると、遠くの方から誰かが走ってきている。

「誰だ?」

それは特殊部隊だった。しかし、制服を着てて、特殊能力よりスパイみたいな姿だ。

「よっしゃ!ナイスタイミングだ!」

「あれは……」

こちらに向かって走ってくる。

「大丈夫か?」

「俺は問題ないが、セメクトがやばい状況だ」

「分かった。後は任せてくれ」

男はセメクトを助けるため、隊長であろう男が部隊に合図する。腕を上にあげると部隊全員が一斉に、仮面の人物に狙いを定める。対奇怪隊の動きではない。一体この部隊は何者なのか分からなかった。

「おい、セメクト。立てるか?」

「あ、ああ……」

なんとか立ち上がるが、足が震えていた。


天狗は焦り、背中に手を当てると、突然、黒い羽が現れた。

逃げようと察知したのか、腕を下げると一斉に発砲した。

「危ねぇ!」

セメクトは咄嵯の判断で地面に伏せた。

天狗は能力を使おうとしたら何処からか狙撃された。

「!?」

天狗は咄嗟の状況で混乱していた。

「スナイパー!?」

「あれを見ろ!」

スコープの発射口が光ると、再び弾丸が放たれる。天狗の羽に直撃するとそのまま貫通する。

天狗は能力を使い、眩しい光りと共に姿を消した。

「逃げたか……」

「大丈夫ですか?」

2人に駆け寄る。

「あ、はい。助かりました」

「あの人達は何ですか?」

「対奇怪隊です」

「え?じゃあ貴方達は……退治隊?」

「いえ、違います。我々は。中央特殊作戦情報機関、通称CSOIAです」

「……なんかかっこいいですね」

「そう言ってもらえると嬉しいですよ」

2人は立ち上がり、服についた土を払う。

「ところで、何故ここに?」

「はい、実は君達と同じ仮面の人を追っていましてね」

「同じ?という事はまさか連続殺人鬼を捕まえに来たんですか!?」

「その通りです」

「なら俺らも協力します!あいつには借りがあるんで」

「ありがとうございます。では、行きましょう」

「はい!」

こうして2人も追跡に加わったのだ。

途中爓はこの人に何者なのか聞いてみる。

「あの、あなた達は退治隊ではないって言いましたけど、どういう事なんですか?」

「まぁ、我々の情報は極秘なのであまり言えないのですが……」

「まぁ、説明すると俺らは敵の情報とか探して暗殺するのが仕事なんだよ」

「つまり、敵を倒すのではなく、倒す為の情報を集める事が目的なんですね」

「そういうこと」

「へぇー凄いんですね」

「そんなことないさ」

「ちなみにお名前は?」

「北条 爓です」

「其方は?」

「セメクトさ」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」

3人で話していると、しばらく走ると、森の中を抜け、開けた場所に出ると、そこには仮面の人物が居た。爓達は見つからないよう茂みに身を隠す。

仮面の人物は3人と酒を嗜みながら会話していた。

(酒を飲みながら話すとは……呑気な奴だな)

そう思ってたらCSOIAは匍匐前進で仮面の人物に近づいていた。

ナイフを取り出した時、スーツの人3人

が急に透明になり、仮面の人物の後ろに現れて首元を掴んだ瞬間、首を切りつけた。

(えっ!?)

一瞬の出来事だった。まるで忍者みたいだ。

切られた傷口から血が流れ出す。

「うぐぅ……」

倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

(倒したみたいだ)

しかし、天狗は気配を感じ取ったのか、後ろを振り向く。

「そこだ!」

指を鳴らすと、煙幕が広がり視界が悪くなる。

「……ちぃ!」

スーツの人は舌打ちをするが、煙が晴れると既に姿を消していた。

「消えた……」

「逃げたか……」

「追わなくていいんですか?」

「いや、もう遅いだろう」

「そうか……」

「それより、2人を殺したのはかなり重要な手掛かりになるぞ」

「本当ですか!? 」

「ああ、こいつの持っていた団扇は辞典通りなら風を操る事が出来るはずだ」

「じゃあこの近くにいる可能性があるんじゃ……」

「ああ、この近くにいるかもしれない。捜索を開始するか」

そう言ってCSOIAの人達は森の奥へと入っていった。

「あの、僕達も探しませんか?」

「いや、今は駄目だ。夜になったら行動しよう」

「分かりました……」

そう言って僕はセメクトの為に簡易テントを建てた。

そして日が落ち始める頃、天狗は何かを発見したのか僕の所にやってきた。

「おい、お前」

「はい?」

「あそこに死体がある」

「!?」

天狗が指す方向を見ると、確かに誰かの死体があった。

「死んでるんですか?」

「多分な」

「誰がやったんでしょうか……」

「恐らくだが、あっちにいる集団の仕業じゃないか?」

「どうしてですか?」

「あいつらが殺した可能性が高いからだ」

「でもどうやって?」

「分からねぇが、とりあえず俺は本部に連絡するから少し待ってろ」

「はい!」

天狗は裾の小型マイクで本部と連絡を始める。

数分後、通信を終えた。

「よし、そいつらのアジトを見つけ次第突入する事が決まった。俺達も行くぞ」

「了解です」

それからしばらくして、セメクトさんが戻ってきた。

「おう、戻ったぜ」

「おかえりなさい」

「ただいまー」

「それで見つかったんですか?その、犯人のアジトは?」

「いやまだ見つかってない」

「そうなんですね」

「それじゃあさっさと行こうぜ」

「そうだな」

「いや、君達一般人は来なくても大丈夫だ。危険だからな」

「いえ!僕達は対奇怪隊の元隊員なので行きますよ!」

セメクトが口を挟む。

「なんだって?それは初耳だな。任務お疲れ様です」

スーツの人が頭を下げると、爓は敬礼の証で片足を2回踏む。

「いえ、此方こそ」

「いやぁ、俺らは別に敬語使わなくて良いですよ。それに、こいつも俺と同じ元対怪奇隊なんで」

「えっ!本当ですか?」

「はい、俺らは2人元対奇怪隊なので」「な、なんと!」

スーツの人は驚きの声を上げると、すぐに平静を取り戻す。

「では、私達はこれで失礼します。もし見つけたらすぐ報告してください」

「はい、わかりました」

「それじゃあ、また会えるといいですね」

「はい、お気をつけて」

スーツの3人組は森の中へと消えていった。

「さて、俺らもいくか」

「うん!」

2人も森に入っていった。

(この先に一体何があるんだろう……)

そう思いながら進んでいく。すると開けた場所に出た。そこには大きな建物があり、看板には『横田団地』と書かれている。元々人間が住んでいたみたいだ。しかし、今は人は住んでおらずボロボロになってた。

(ここに、本当にいるのかな?)

不安を抱きながらも中に入る。中に入ると誰もいないのかとても暗い。

(早く探さないと……)

その時、後ろから物音がした。振り向くと、目の前に左腕を失い、刀を持った男がいた。

「誰だ!」

「う、腕を……」

妖怪でも幽霊でもない、人間だけど精神状態が悪いようだ。

男は刀を構えると襲いかかってきた。

しかし、対奇怪隊で経験した訓練で僕はもう強くなっていた。

男の攻撃をかわすと腹を蹴り飛ばす。

「ぐはぁ……」

男は倒れ込むと気絶してしまった。

(この人、死んでないよね)

「おい、大丈夫か?」

セメクトが声をかけると男は目を覚まし、立ち上がる。

「あれだけ喰らってもまだ生きてるのか」

刀を拾った男がこちらに向かってくる。

「仕方ない、殺るか」

セメクトは腰から銃を取り出し、構えると発砲する。弾は相手の足に当たり、相手は怯むと後ろに下がる。

「爓、こいつは強いぞ。油断せずに戦え」

「わかった!」

爓も刀を取り出す。

「腕!!」

相手がそう言うと刀を振り回す。爓は刀で弾き、相手がふらつくと腹に突き刺す。

「うがぁぁぁ!!!」

血を流し、苦しんでいる。

「おい!大丈夫か?」

セメクトが近寄ると、男はいきなり起き上がり、セメクトの腕を掴む。このままでは腕を取られる。

「なっ!?」

爓は男の方に走り出し、男の腕を思いっきり蹴り、骨折させる。そして、そのまま首を切り落とす。

「やったか?」

「あぁ、なんとかな」

「意外と苦戦したな」

まだ奇怪の方がマシな気がする。

「でも、やっぱり俺らは強くなってるよ」

「そうだね。よし、進もう」

奥に進むと階段を見つけた。上に行くと扉があった。

「ここは俺が開けよう」

セメクトがドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。中には子供達が手足を縛られ、監禁されていた。全員衰弱している様子だ。

「お前ら大丈夫か?」

セメクトが話しかけるが返事がない。

「大丈夫ですか?」

今度は僕が聞く。すると1人の男の子が起き上がる。

「だ、誰か助けて……」

「大丈夫だよ」縄を解くと他の子達も解放していく。

「君達はどうしてこんなところに?」

「わからない……突然ここに連れてこられてずっとここにいたんだ」

「そっか、じゃあ僕達が今から外まで連れて行くよ」

「ありがとう」

少年は少し悲しそうな顔をしたがすぐに笑顔になる。

その時、廊下から足音が聞こえ、段々こっちの方に近づく。

「君達は隠れてくれ」

セメクトは子供達に指示をし、それぞれ別の場所に隠れた。爓は拳銃を構えながら、部屋を出る。するとそこには先程の天狗の姿が何人もいて、皆同じ格好をしている。

「なんだあいつら?なんか気持ち悪いな……」

「あぁ、まるで分身してる様だ」

セメクトの言う通り、奴らの表情は変わらないのでリーダーを判別するのは厳しい。

「まぁいいや、全部倒しちゃえば」

(確かにそれが一番だが、油断は禁物)

すると、一斉に襲い掛かってくる。

「行くぞ!」

セメクトの合図と共に戦闘が始まった。爓は1体目を倒し、2体を銃で撃って倒したが3体は団扇で斬りつけてきたのでそれを刀で受けると刀が壊れてしまう。

「あっ!」

剣が折れて、驚くと天狗が攻撃してくる。

「ぐはぁ!」

肩に直撃してしまい、骨が折れたようだ。しかし爓は痛みを我慢しながら敵に反撃をし、倒してしまう。その隙に残りの敵を倒したが肩の傷が深く動けずにいた。すると、セメクトが駆けつけてくれる。

「おい!大丈夫か!」

「あぁ……」

爓は必死にうなずく。

「よかった……早く治さないといけない」

セメクトは急いで治療薬を取り出すが、後ろから気配を感じ、振り向くと天狗が攻撃してくる、間一髪刀で受け止める。しかし、身長差で力が限界だった。どうしようか考えていると。

天狗が急に頭を吹っ飛ばさせ倒れた。すると奥の廊下からスーツの人が出てくる。

「皆さん大丈夫ですか?」

「大丈夫だけどさっきのは?」

セメクトが質問する。

「狙撃者です。私の仲間ですよ」

そう言ってると窓の方に指を差し、草むらから狙撃者が出てきた。

親指を立てると相手の方も親指を立てた。

セメクトは倒れた天狗を見ると、何も怪我とか無かった。それに気付いたセメクトは皆を伝えた。

「おい! まだ生きてる!」

全員が動揺してると、天狗、呻き声出しながら立ち上がる。

すぐ、セメクトは天狗に向けて銃を撃つが頑丈な身体で弾き返される。

「なっ!?」

セメクトが驚いていると、天狗がセメクトに襲いかかり、蹴り飛ばす。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

セメクトが壁に激突し、動かなくなる。

「セメクト!?」

セメクトはピクリとも動かない。僕は天狗に向かって走る。すると今度は僕を狙ってくる。避けて腹に一撃与えるが、あまりダメージは無い。

「なんて硬さだ」

すぐに後ろに下がり、また近づく。今度は相手は僕の方に手をかざすと炎を出す。このままでは焼け死んでしまう。

「クソッ!」

(落ち着け、まだ諦めるわけにはいかない)

刀を両手持ち、大きく降ると炎が別れていった。天狗は炎を出し切ったそのすきに「これで終わりだ!」

刀を振り上げ、首を狙う。しかし、斬ったと思った瞬間、煙になり消える。

「えっ……」一瞬の事で混乱するが、横から手が出て来て首を捕まれ持ちあげられた。そして壁に投げられる。

「ぐっ」

背中を強打したと同時に目の前が暗くなり、気を失いそうになる。

すると、天狗が急に痺れ始め、その場に倒れる。スーツの人が心配してくれて、すぐに意識を取り戻し、起き上がる。

セメクトは立ち上がっていたがフラフラしている。

「もうやめろ!これ以上やるなら俺が許さない」

天狗のリーダーらしき人が大声で怒鳴るが、スーツの人3人に取り押さえる。茶色い瓶を取り出し、封印をしようとしたがリーダーらしき人は暴れる。

「離せ!俺はこんな所で死ぬ訳には行かないんだ!」

「何を言っているんですか?貴方達は負けたんですよ」

「うるさい!お前達のせいで、あいつが……」

手をかざすと天狗は眠ってしまう。

「何があったのか知りませんが、この子達は保護しますよ」

「待ってくれ、その子達にはまだ聞きたいことがある」

セメクトが止めるがスーツの人達は無視して連れて行く。

「おい、ちょっと」

「すみませんが、今度にしてください」

封印した瓶を持ちながら去って行く。

爓はセメクトの所に行くと、セメクトは悔しそうな顔をしていた。爓は励ますように口を開く。

「まぁ、あの人は任務でやってるから仕方ないさ、それに今回は勝てる見込みは無かったと思うぞ?」

「そうだな……でも、もう少しやりようはあったはずだ」

「確かに、それはあるけど、無理矢理戦っても意味無いだろう」

「そうかもしれないが……」

セメクトはまだスーツの人の任務が理解できなかった、その時、子供達が近寄ってくる。

「お兄ちゃん達、ありがとう!」

「あぁ……」

「ねぇ、どうして助けてくれたの?」

「困っている人がいたら、普通に助かるのが当たり前だからだよ」

「そっかぁ」

子供は笑顔になる。爓は子供達を見てセメクトに聞く。

「セメクト、この子達を家に送らないか?」

「あぁ……そうするか、じゃあお前たち、家まで送るからついて来てくれ」

『うん!』

全員で移動を始める。セメクトとは先頭に立ち歩き始める。

――子供達を無事に家に送り届けることが出来た。疲労困憊ながらも、セメクトは子供達を見守る。すると、一人の子供が質問する。

「ねぇ、おじさんはなんで、そんなに強いの?」

「んー、強いって言うより、仲間がいるからかな」

「へぇ〜」

「あ、君が言ってたこの家だね」

指差す先には一軒の家がある。家の前には母親と思われる女性と子供が立っていた。

「ママ〜!!」

「良かった、無事だったのね」

2人で抱き合うと、母親はこちらに気づく。

「あら、あなた方は?」

「あぁ、私は対奇怪隊で、セメクトと言います。こっちは北条爓です」

「どうも」

挨拶すると、女性は頭を下げる。

「わざわざ娘を助けていただき本当に感謝しています」

女性は感謝しながら何回も会釈をする。

「いえ、仕事なので」

「それでも、ありがとうございます」「いえ……では、我々はコレで」

帰ろうとすると女性と子供は頭を深く下げる。

少々爓は恥ずかしいけど、軽く手を振る。

セメクトは少し微笑む。

「良い家族だな」

「そうだね、じゃ、俺はこっちの道だから」

「おう!またな!」

別れると、リーザ達が居るホテルに戻る。

「ただいま……」

ドアを開けると、2人が駆け寄る。

「おかえりなさい」

「爓さん、どこ行ってたの?心配したんだよ?」

「ごめん、ちょっと用事があって」

「もう、心配させないでよね」

「はい、すいません」

謝りながら部屋に入ると、すぐに着替えてベッドに座る。テーブルには爓の大好物、すき焼き弁当が置いてあった。

「これ、俺のために買ってきてくれたの?」

「もちろん!一緒に食べようと思って」

「やったぜ!ありがたく頂くよ」

早速箸を持って食べる。リーザは嬉しそうな顔をしながら話しかけてくる。

「それで、何があったの?」

「あ、いや、ちょっと妖魔学園の見学に行ってきただけ」

「ふぅん……」

何か言いたげな表情だったが気にしないことにした。食事が終わると、風呂に入る。

「はぁ……」

ため息をつく。今日一日の出来事を思い出すだけで疲れがどっと出てくる。

(今日は色々ありすぎた)

今までの事を思い出す。

学校に行ったり、妖怪と戦ったり、妖魔界に行ったりと、忙しい1日だったけど楽しかった。明日は必ずゼアを倒さないと……。

決意を固めながら拳を握りしめ、おでこに当てる。

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