第6話

午前6時に爓が起床した。カーテンを開けると朝日が眩しいくらい晴れてる。

そして、みんなが寝てる中、爓は「起きろ!!!」とホテルの廊下が響くくらい叫んだ。

慌てて起きまいが「え? え? どうしたの?」と驚きながら心配してた。

「爓さん、もうそれはもうやらなくていいから、寝かせてください」と、いつもの事に注意した。これは対奇怪隊の隊員が、ずっと寝てる人を起こす時にやってた。時間厳守なので起こさないと上官に怒られる。

「あ、ごめん」

「もー寝かせてよね!」

まいが爓の声で起こされたのでイラついて、布団の中に潜る。

我に返った。

静かになってしまったので部屋から出て、外の空気を吸いに行く。



「ちょっとこの街を覚えないとな。まだ都会のことよく分からないからな」

散歩しながら街を見渡す。途中散歩してた時、肩にぶつかる。

「いてっ、すいません……」

「んお? おい!」

謝り、絡まれないように早歩きで去るけど、ぶつかった相手は、思い出したかのような反応をしてた。

まさか喧嘩するのか分からないけど喧嘩したら大事になる。一様聞いてみた。

「な、なんですか?」

「君、北条爓だろ」

「え?」

なんで知ってるんだ? 人気者? いや、そんなことない。人気者だったらサインしてとか言わない。

「そんなとこで何やってるんだ?」

「あ、散歩です」

「おお! 奇遇だな、俺も散歩だ!」

「え、誰ですか?」

「知らないのか?『最宝 空亡』だよ! この妖魔界の官王だぞ 」

「まじ?」

まさか妖魔界の王だなんて知らなかった。普通に失礼しすぎた。知っておかないと処罰される。

いや、もう遅いか。

「ホントだよ」

「これは失礼しました! 官王! つい、口を滑ってしまって」

「え? なんで謝る必要あるんだ? もう仲ではないか。それに、爓に偶然会えるとか俺は嬉しいぞ」

「追放されて処罰とかは……」

「ないない、安心しろ。まあ、俺も永暦館から抜け出して安心できないけどね」

「抜け出したとは、どういった理由で?」

「内緒だけど、ここの部屋にいると飽きたからたまには外で遊びたいから抜け出した。あ、大丈夫。万が一に備えて俺のダミーが置いてあるから」

官王でも遊びたい心は、あるんだな。いや、官王が抜けたらここの世界崩壊するけど大丈夫か? ここの世界を守るの官王だよ。

まあいいか。今は関係ない話だ。

官王は少し考えて、口を開いた。

「よし! じゃあ今晩は酒盛りしよう!」

「あ、はい」

「よし!決定! 夜になったら迎えに来るよ!」

「あの、仕事はいいんですか?」

一応、心配した事を口にすると

「うーん……、バレなければセーフかな!」と言ってきたのであった……。なんか自由人すぎるような気がする。

こんなんで国のトップ務まるか? 大丈夫なのか? と思い、部屋に戻ったのであった。



部屋に戻り、朝食を食べ終えると同時に、みんなが着替え終わったので、財布を持ちホテルを出た。昨日、買った物はリュックに入れたため手ぶらである。

「何処に行くんだ?」とリーザが言ってきた。このまま官王とレストランって言っても信用してもらえないので誤魔化す。

「友達と飲みに行く」

俺に誘う友達はいない。少し、怪しまれたか?

「あいよ」

何とか助かった。危ない危ない。



外に出ると、また同じ道を通り、駅へ向かうとそこには大勢の妖怪達が集まっていた。



白神町、大瀬通り。まあ、繁華街というより普通の通りだが、沢山いる。その光景を見ると流石に驚くしかない。

だって、昨日まではいなかったはずなのに急にこんなにいたら、ビックリするだろ!って言いたくても言える勇気が無いんだよな。だから黙っとくしか無いのだ。

しかし……これでは電車に乗れるのだろうか? 不安になりながらも、列に並んだ瞬間、目の前に大きな黒い高級車が停まった。

その中から官王が現れ、フロントガラスを開けて覗かせる。

「乗れ」

言われたまま、後部座席の方に座る。




そして着いた先は妖魔界一の高級レストランだった。

ここに来たかったから誘ったのか? まあ、高級そうなお店に入るわけにもいかないから丁度良かったけど、まさか官王と食事することになるなんて思ってなかった。

中に入り、席に着いた時、周りの客はざわめいていたのは言うまでもない。何故、ここに官王と庶民の俺がいるのかと不思議そうな目で見ていたのであった。そりゃそうだよね。緊張しながら席に座る。



店員が来たのと同時に料理が次々と出てきた。

「お待たせしました。こちら宝石ステーキです」

出されたのはキラキラと輝いている大きな肉の塊。しかも皿は金色で、縁はダイヤの形になっている。見た目がとても豪勢だ。

これを食べてしまうのかと思うと凄く罪悪感があるけど気にせず食べる事にする。

ナイフで切る前にフォークで刺そうとしたら思ってたより柔らかい。本当に、そのまま食べられるのか?と思いながら一口。

「......ん!?」

味も申し分なし美味しい! しかも、肉が甘い。

これが宝石の効果なのか!? と驚いた。あまりの美味さに、食べ終わってしまう。

「どうだ?」

「とても美味しかったです!」

「そいつは良かったぜ! まだ来るぞ!」と言いながら、次に運ばれたものを見て絶句する。次は巨大な骨付きチキン。

あれ? でも待て?

「官王、確か妖魔界では肉類は確か禁止なはずじゃあ?」

「これは植物出てきてて、食感も味も肉と一緒になってるから大丈夫だよ」

なるほど、植物で出来てるのか。時代が進んだもんだな。

にしても、この量とカロリー。まさか、こんなものを食わせる気なのか。

いや、これは絶対食べきれない。 どうしようか迷っている間に、官王はバクッ! と豪快に噛みついた。いや噛めねえって……。

と思った矢先、飲み込んでしまったのであった。

「うめえな」と言ってきたので安心して自分も食い始めたのだが……。やはり予想は的中したようで……。半分くらいは食べた所で胃袋が限界になったのか吐き気がするようになってきた。

いやいや、流石には食べられないと思えたその時、またコースが出てきた。

今度は、前菜の料理だ。

「お待たせしました。こちら前菜、大木のサラダです」

美味しそう。ただ、量が増えただけで、そろそろ帰りたい。

これはもうダメかもしれない……。

と思いながらも無理矢理、口に詰め込む。



そして全部のコースを食べ終え、会計をする時に、「俺が出すから大丈夫だぜ」と言ってくるが断る事も出来ないので、ご馳走になってしまった……。やっぱり悪い気がするけどね。

「次はホストに行くよ」

「まだ続くんですか……」

「まだまだあるぞ」

爓は、少し絶望しながらも連れて行かれたのは、夜の街の高級店である『月』って書いてある。

ここは妖怪界でもトップクラスの人気を誇り、予約も難しいと言われているほどの超有名な店なのだが、なかなか一般人には入れない店だ。

庶民が入って大丈夫だろうか。

中に入ると暗い中シャンデリアと壁が高級すぎる。

席に着く。

するとそこには、着物来た遊女や妖狐の女の子がいた。

「初めまして。私、白銀 弥那と申します」

その女性は、まるで天女のように綺麗で優しそうな人。とても色っぽく、見ているだけで虜になってしまいそうになる程に美しかったのだった。

しかし、何故だろう。何か違和感を感じるような……そんな感じもしたのだ。

だが、それはすぐになくなった。

今は楽しまなくちゃ。というわけで楽しむことにした。

そして官王が、さりげない動作をしてきた。耳打ちをして言ってきた言葉に驚愕する。

「あの子は、妖魔界の花魁、そして妖怪界の大御所であり妖魔界のアイドルでもある。お前は、とんでもない人物と仲良くなったようだな。もし下手したら今の地位を失う可能性もありえるぞ」

それを聞いた時、ゾワッと背筋が凍った。

その通りだと思うからだ。妖魔界のアイドルともあろうお方と知り合いになり、親しくしている。

もしそれが知れたらどうなるのかと思うだけで恐ろしい。

しかし、彼女は普通に接してくれるから良かったと思っているのも事実で、このままずっと彼女と会っていたいと思っていたのだった。

だから、この事を秘密にしておくことしか出来なかった。

ただそれだけの理由で秘密にするなんて良くないが、彼女の立場を考えるとしょうがない事だと言えるだろう。

「どうしたのであろう? 妾をじぃーと見つめて……。はっ!もしや惚れたかえ?」とか冗談めいたこと言ってるけど……。多分、俺の正体を知ったとしても受け入れてくれそうだ。だけどこれは言うべきじゃないんだよね……。

まあいいか。とりあえず話を合わせとこ。と、誤魔化す事にした。

「あ、ええっと......」

「名前は、なんと申されるのでしょうか?」

まさかの、名前を聞いてくるとは思ってなかったので動揺してしまったが……何とか答える事が出来た。

「俺は……、そう! 北条 爓と申します!」

「はなれん……ふむ。よい名じゃのう。顔も整っておるし……。将来有望な美男子といったところかの?」

はわぁ〜……。なんか恥ずかしいけど嬉しいですぅ!(小並感)って何言ってるんだ?この人は……。俺の心を読んだか!?

官王を見ると笑い転げて、腹を抱えていてかなりムカつくなと思ったが無視しよう。

だってここで暴れたりしても意味ないしな。

それに、他の子達がクスッと笑った後、顔を赤くして見てきてちょっと恥ずかしかった。

「では……まず最初に私の膝に頭を……」と言われた。

どうしようか迷ってる。相手は妖魔界の偉い人。ここで断ればどうなるのか分からない……。でもな、流石に初対面でいきなりこんな事は……。と思ったが官王の方を向くと、やれって首を振ってる。

と、ガードマンの人が、花魁の方に耳打ちをしてた。

「......何!? 北条 定頼の息子!?」

おお、俺の事を知ってくれているのか…… 嬉しいなと思ってたら、急に立ち上がり頭を下げ、こう言われた。

「ゆ、許して下さいませ……どうか命だけは......」

「え? 」

何を言われてるのかわからなかった。だがその後に続いた言葉で、ようやく気付くことが出来たのだ。

「私はあなたの事知っています。裏社会では有名中の有名で、あなたの父はとても危険人物だとお聞きまして、それで、あの……お、怒ってませんかね?」

え……嘘だろ……バレちゃってんじゃん。もうヤダ……と泣きたい気分になったが、俺は大丈夫だと答えた。

すると彼女はホッとしたようで顔で「よかった......」と言っていた。

ここら辺のホストの空気が重くなってきていた。

官王の対応が何とかしてくれた

「よし! 皆! そろそろ俺達は帰るとする!また、会いに来てやるから今日はこの辺で帰らせてくれ」と伝えた。

俺は、やっと解放されたと内心喜んでいたのだった。

帰りの車の中でも重苦しい空気だったが……俺のせいではないはずだ!うん。絶対そうだ。……にしても凄いな……本当に。

まさか、あんな事が起きるなんて思わなかったし。これからどうなっていくんだ?

「......あの事件を知らない?」

あの事件とは何なのか?

「『八王方連続殺害事件』っていう事件だけど、君の父、北条定頼が百人以上殺害した重罪事件だ。昔の事だが異界問題へと発展した事件で、ほとんど忘れてる人はいない。君は知らないけど、かなりの指名手配犯だ。一千万円の懸賞金もかけられてる」……まじですか……。

父さんが、そんなにやってたんですね。知りませんでしたよ。

ってか、俺を怖がらせたくて言ってるわけじゃないんだよな……。

ただ、真面目な表情だから余計不安になるんだけど。

官王が俺の方を向いて話しかけてきた。

「まあ、そういうことだ。そのうち君も狙われてもおかしくないから注意するんだぞ」と忠告されたが正直実感が湧かなかった。

俺も一応、半霊なんだし……。

そんな事起きるわけないと高を括っていた。その時、向こうの先から暴れてる人がいる。

俺と官王が慌てて向かっていった。

「こいつらは敵だー!」

一人の男が能力を持っていた。そして能力を発動してきたので、俺は咄嵯に身を屈めた。

危なかった……。

官王が、能力で男の体を動けなくした。

「これでもう抵抗できないだろ?」と言ってるけど……何か違和感を感じるな……。

それに周りには沢山の野次馬が集まっていた。この男を調べると、妖怪らしい。

身分証には坂本義政って名前で、書いてある。

「それは偽名だな。本当の名前も教えて貰おう」

そう言って官王が、彼のおでこをパシーンと払うと、一枚の葉っぱが落ちた。

彼の姿が変わり、たぬきになった。これは……変化の術? たぬ公?って呼んでいいのかな?とりあえず話を聞き出すか。官王が、彼に話し掛ける。

「これは化けたたぬきさん。我は、百鬼夜行の最後の官王。最宝 空亡と申す。この妖魔界の王であり、SCSIOから妖怪英雄賞を取った者です。それに逆らっていいと思っているので?」と強気に出てきたが……

「黙りなさい! 私はあなたの上司ではありません! 今ここで死なせたいならそうしますがどうです?……んっふっふ……。どうやら私の方が立場が上のようですね」と言った。

「なるほど、強気に出るって事ですね。なら、法には無い術を今、試してみましようか」

すると、手から赤い球体から黒い炎が出てる。それを彼の方に投げようとしたら

「ひぃぃぃぃ、す、すいません! もう許してください!」

土下座までして来たのだった。俺は呆れて何も言えなかった。そして官王は、満足げに「よし、許してやる」とだけ言ったのだ。

その後、彼を動けなくした能力を解放してやったのである。

それからすぐ、彼は走って逃げてしまったのだ。何だかな……。俺は、そんな事を思ったら官王から肩を叩かれ、電気が走ったようについ地面に倒れ込んだ。何が起こったか分からず混乱する爓だった。

「え!?」

「あ、すまん。少し君の能力が不思議でね」

空亡は触れた爓の肩を離した。まだ爓は、肩の痛みを気にしながらも質問する。

「能力って、俺の能力は一体どんなものなのですか?」

「一言で言うと、妖魔界の能力では死なないという物だろう」と教えてくれたが、それってどういう事なのだろうか。俺にも全く理解出来なかった。

「それだけじゃないんだけどな。多分、能力が関係していると思うけど、普通の人は、半霊という妖怪のなりそこないになるはずなんだよ。だが、何故か君は普通じゃなかった」

「え……それはどうゆう意味なのでしょうか?」

「簡単に言えばここの世界の人ではないね。半霊でもこの能力を持ってるのはかなり妙だ」

「何故、分かるのでしょか??」と質問したのだが「勘」と言い返された。怖いな……。

「その能力は何処から?」

「分からない」とだけ答えた。

すると官王が俺の腕を掴んだ。何かと焦っていると官王が俺の手首に向かって手を伸ばし、また電撃が流れた。

今度は激痛が走り思わず膝から崩れ落ちた。

官王は立ち上がり、俺にこう言った。

「君の体の中に妖力がある」

……え? 今、この男なんて言いました?

「ちょっと確認させてくれ。もう一度同じことが起きるぞ? 覚悟しろ」

「え……何で……やめ……っ!」再び俺の手を掴み取り、電気を流したのだった。

あまりの衝撃で声にならない悲鳴を上げ、床に倒れこんだ……。

しかし、本当に死なない。

官王は、その様子を見て驚いた顔をしたがすぐにいつもの顔に戻ったのである。そして「やっぱりか……妖力でもないならなんなんだこれは……。さっぱり分からない」と言って考え込んだのだった。

「やはり......八尾比丘尼かな」

「八尾比丘尼ってなんですか?」

「昔いたとされている人物さ。寿命がなく不老不死とも言われた伝説の人物だ」と説明を始めた。

俺が「そんな凄い人だったのかぁ~!」と言うと「いや、違う違う。そんなすごい奴じゃないよ。ただ長生きしただけ」と言っていた。

なんか残念そうな人だとは思ってしまったが、まあ本人が言っているのだ。気にしない事にしよう。

「人魚の肉を食ったらしいけど……それも怪しいよね。それに伝説だから尾ひれが付いてる可能性もあるし。とにかく、今は分からんね。ごめんね、役に立てなくて」

「いえ、とんでもありません! 本当にありがとうございます!」と頭を下げてお礼をした。

その時、黒い車から黒いスーツの人が現れた。官王の方に指を差し「官王様!」と呼びかけている。

「やべ、捜索員だ。行くぞ爓」

「はい」そう言って二人は去っていったのであった。

官王は追いかけてくる二人の後姿を見ながら「帰りたくねぇよー。もう二度とこんなところ来るもんかい!!」と嘆いていたのを見て、俺はクスっと笑っていた。



それから噴水広場まで逃げ切り、黒のスーツの人は追ってこなくなった。

走りすぎたので少し呼吸を整えて、ベンチに腰掛け一休みする事にした。

ふぅと息を吐き出し、今日起きた事を思い出してみた。あの官王という人が言っていたのが本当だと分かった。

本当に、くだらない理由で追いかけられてるなら早く帰ればいいけど、官王は遊びたい気持ちだから無理だと思う。

官王はキョロキョロしながら黒スーツの人が居ないか確認してた。

「いないようだな。良かった。――爓はこの街あんま知らないでしょう」

「あ、はい。最近この街に来たので」

「なら案内してあげるよ! 俺も久々来たからね。楽しまなきゃ損だよ」

「そう……です……ね……」

官王がいきなり立ち上がり、言われるままついて行った。やはり、官王も俺たちと同じ考えを持ってるんだね。外に出たい気持ちは理解したけど官王だからちゃんとしなきゃいけないと思う。



着いたら湖の上に城のような建物で、そして、噴水のイルミネーション。いかにも豪華そうな建物だ。ホテルなのか?

「ここは?」

「カジノだ。ここで賭け事をするんだ」

この豪華な建物が、カジノだとは意外だ。賭け事というと博打や花札が一般だ。都会に来るとそんなに豪華にするとは思ってなかった。

「さあ、早く中に入ろう!」

乗り気の官王に引っ張られ中に入ると、スロットマシンがいっぱいある空間に入った。見たことも無い物がたくさん置いてあり、都会と田舎の差だなと思ったのである。

そしてその隣に数字が書いてあって、その玉を回すと数字によって当たりの遊びがあった。

これが賭け事なのだろう……。でも、俺は全くやり方を知らないから分からないけどね……。

周りを見渡していると、官王が説明を始めてきた。

「さてまずはコインゲームからやってみようか」と言ってくれたのだが、俺は何をしたらいいのかさっぱりだ。

とりあえずメダルと書いてある機械を両替するとメダルに変わった。

スロット台にメダルを入れたが……全く何も起こらない……。

あれ?おかしいなぁと思って画面を見ると『1』と書かれていた。

どうすればいいんだ? 横の官王がニヤリと笑い「これだよ、これを押すんだよ」と言いながら、俺の代わりにボタン操作をしてもらった。そっか……これで出来るのか。知らなかった。

そして官王が「ほい」とメダルを、俺に手渡し「あとは勝手に当たるからね。やって見な」とだけ言い、席を離れてしまったのである。

メダルは、全体が銀と羽ばたく白鳥模様が、彫刻されてた。何かの意味を表してるのか不明だが、美しく感じる。

一度遊んで帰るかと思い、ボタンを押した瞬間……。突然目の前の画面に数字が表示され始めたのだ。なんだかよく分からないが当たれ当たれ!

......そんなことを思っていたら『7777』『2222123』『666765』と表示され、最後に『4444677999999』となり、全ての桁の数字が全て揃った。

これは大爆発が起きるのではないか?

と不安が襲うが、なんとも普通に止まった。えぇ……どういう仕組みになっているのか全然わからない……。

メダルが排出される音を聞き、手には『500』と書かれたメダルを渡されたのだった。

これは何を意味しているのか分からなかったので、たまたま通りかかった店員に「これは……何なんですか?」と聞くと「ああ、それ換金出来るんだよ」と言われた。換金……って事はつまり、現金に交換できると言う意味なのか?

なんだかよく分からない仕組みが、ここには沢山あるな。でもこれが当たると、また、現金が増えて得するのか。もう一度やってみよう。



次はどのゲームをしようかな。

その時だった。

『いるか?』

『多すぎて分かりません』

『徹底的に探すぞ』

黒スーツ二人が、俺と目を合わせこっちに来た。

『すまないそこの人、官王は何処か分かるか?』と質問されたので、知らないと首を横に振る。黒スーツが何か眉をひそめ呟いた。

『お前、さっき官王と逃げてた人だよな。お手伝い人か?』

「ち、違います」そう答えるしかなかった。まさかこんな事になるとは思っていなかったのだ。

黒スーツの一人が何かを察し、官王を探しに行こうとする時、俺は声をかけようとしたら

『おい! あれはなんだ!?』俺はその人の方へ振り返った。

すると美の女性姿で、尻尾を数えると九本ぐらいある女性が、優雅にこちらに向かって来ていたのである。俺は目を疑った。まさかあの伝説の妖怪がこの世界にいたのか……。しかもこんな場所で出会うなんて予想もしなかった。

黒服たちはその人に指を指し、こう言ったのである。

『野郎! 封印したんじゃないのか!?』

その人が言うには、この人は昔にこの世界で暴れた神であり、封印されているはずなのだが、封印が解かれていて自由の身らしい。

黒スーツ二人と、女性はその人を睨みつけている……。もしかして戦う気なのか……と思った。そして俺の方に顔を向け、こう言った。

『こいつは、九尾の狐で、今は、女の姿になってるが、化けの皮がはがれれば、本当の姿に戻る』と教えてくれたので、この人もやはり人間ではなく、化けの類だと分かった。

『何の用だ? 狐よ』

『――ここの妖魔界の空気を吸いに来たの』

『残念だが、俺達の空気は今悪いぜ』そう言われたので『私と戦うつもりね!』と言い放ったのである。俺は二人の会話を聞いてて頭が追いつかないが、とにかくヤバい状況だって事だけは分かったのであった。そして戦いが始まった……。

二人は武器を出して応戦した。相手もそれに合わせ攻撃をする……。

『そこのお兄さんは下がってください』俺は後ろを向いた。どうやら巻き込まれると危ないみたいだ……。

『あんたが何者か知りたいところだけど、まあいいわ。どうせ死ぬんだからね』と狐耳をピンと立てながら攻撃態勢に入ったのである。

すると、官王がやって来たのであった。

「何やってんだお前ら? ――おや? これは九尾の狐ではないか」と友の再会みたいに笑顔の表情をしたのだった。

『な、空亡! 何故ここに!?』とその人物は驚きながらも戦闘体制のままであった。官王はこの人と顔見知りなのだろうか。

『ちょっと、官王様! 早くこいつをどうにかしないと!死んじゃいます』と黒服が慌てていた。

「いいだろう、少し遊んでみるのも良い」

『なんですって……?ふざけるな!!』

狐耳の女から炎が出始めたのである。その炎を両手に集め官王に攻撃を仕掛けたのだが、それを余裕そうな表情で受け止めていた。

まるで手の上で踊っているような感覚にも見えるが……。

そして「ふんっ!」と気合を入れると、『キャーッ!』と悲鳴をあげ、吹っ飛ばされていたのだった。そして地面に落ちていき倒れこんだ。

その瞬間、女の身体は光だし徐々に大きくなって行ったのだ。俺はその様子を見ているしかなかった。一体どうなるのか全く予想できない。

「ほう」と感心するように見ていた官王は「お前、その姿のままでいいのか?」と相手に言葉をかけると、相手の動きが止まりゆっくりと起き上がった。

その瞬間、猫みたいなの威嚇の鳴き声と共に巨大な金色の獣が、出てきたのだった。

大きさは、象ぐらいはあるんじゃないか……。天井ギリギリの高さだ。

こんなものと戦って勝てるのかな……と思うしかない。そして、官王は「ほぉ……」と声を漏らすと、いきなり笑い始めたのだった。

そして、「おい! その女を止めろ!」と言うと、黒服二人が官王の目の前に立ち塞がり、銃を構えて突撃してきた。「え?」と思った時には、もう遅かった。官王の前に立っていた黒服の一人は、吹き飛び壁に激突していた。もう一人の黒服は、官王の横を通り過ぎ、金ピカの獣に体当たりをして一緒に吹っ飛んだのである。

「邪魔をするな。お前らはそこで見ていろ」と官王が言うと、黒スーツ達はその場で立ち尽くし、ただ黙ってこの戦いを見ているだけだった。

俺はこの時思った。この人なら倒せるかもしれない。

すると、官王が突撃し、相手を殴りつけた。その拳は、相手の顔に当たりそのままめり込んでいった。

その勢いで壁まで飛んでいき衝突したのである。

「ふむ。まだ死んでいないようだ。頑丈な奴だ。もう少し強く殴るか」

そう言ってまた近づき、今度は蹴りを入れた。すると何か毒ガスのような煙が広がり、周囲に居る人が苦しんでいた。

俺もその毒を浴びてしまい気分が悪くなった。だが、官王だけには効かないのか平気な様子で相手を見詰めてた。

『な、なぜ聞かないのじゃ!?』

化け物が、慌てた表情をしていたのである。

「そうだなー、この匂いに慣れたかな」と軽く笑みを見せていたのであった。俺はその会話を聞いていて気持ち悪くなり、吐き気がしてきた……。

この空間から逃げ出したいが体が動かない……。

すると、黒スーツの男が俺の元に駆けつけてきて『大丈夫ですか!?』と言われた。俺はまだ返事が出来ない状態だったが首を横に動かし、問題ない事を示したのである。

「さて、こいつを退治するか」

そう言った途端、急に黒いオーラみたいなのが出てきた。それは、どんどん膨らんでいく……。

そして『やめて!やめてください!』とその化け物がさっきの女性の泣き叫んだ時であった。

「んなこと言っても出会った運が悪いからねー、しょうがないよ」

『銭でもなんでもあげるから、お許しください!』

その女性は涙ながらに頼み込むが、官王は全く聞いてなかった……。

「お金は沢山持ってるからいらない」

『わ、分かったから……、見逃して』

化け物はその言葉を最後まで言い終わる前に即答で「無理、ではさよなら」と言って黒い球を放ったのである。そしてそれが直撃すると叫ぶ悲鳴が聞こえたすぐ爆発が起きてしまった。

その衝撃はすさまじく爆風で、立っている事すら出来ずにその場に倒れた。

その爆風が収まると謎の袋に包んだ箱が置いてあった。

「封印完了かな」と笑顔を見せると、『これで終わりですかね』と黒スーツの男が近づいてきてそう言っていた。

なんの事か良く分からないけどとりあえず終わったみたいだなと思いホッとしたのだ。

『官王様。もう外に出られるような行為は控えください。いいですね?』と黒スーツの男が念を押すと「まぁ考えとくか」と少し考える仕草をした時

『お客さん! どうしてくれるんですか!!』

カジノのオーナーが怒鳴ってた。さっきの戦闘で台が故障し、他の客は救急車に運ばれてく最悪な被害だ。

「あーすまん、これで許して」

スーツケースを開けたのがぎっしり詰めてある小判だった。スーツケースを床に置き、黒スーツの男達と一緒に帰ってしまったのであった。

一体何が起きたんだ? と思うばかりだった。

「おーい! 大尉! 大丈夫か!?」

向こうから声がしたのは、リーザ達だった。どうやら探しに来てくれたらしい。

「うん。大丈夫だよ」と返事をし、起き上がろうとした。ホコリまみれのコートを払うと「爓さん、無事でよかった」と洋二が心配そうな顔をしていた。

「あぁ、ちょっとやばかったが何とかなった」と笑って見せた。

「ところで何があったの?」と聞くと

「あ、いや、ちょっと色々と……」

なんて答えればいいのか分からずしろどもどろしてしまった。

「それより、腹減ったから飯いこうぜ!」とリーザが言うと、「あ、そうだな。急いで戻るぞ!」と言い、俺たちは家へと戻ったのであった。

今日の一日は、散々だったな。

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