第129話 要求
「うっしうっし。」
回復魔法によってHPが全快し、肉体も再生した俺は体を動かして動作を確認していた。違和感はない。スキルもいつものように使える。
「生首の状態からここまで回復できるなんて、やっぱりステータスの恩恵はすごいわねぇ。」
「回復魔法ありがとうございました。じゃ、行ってきます。」
白衣の教師に礼を言って、俺は再び前線へと飛び出した。生徒達で壁ができており、前の様子が見えない。いったいどうなったんだ……?
「諸君、私だ。」
バンキング学長の声だ。
「今しがた、不審者は逃走した。あの不審者についてだが、決してこちら側で用意したキャストなどではない。つまり、我々の合宿が何者かに襲撃されたということだ。」
戦争の厄災というワードは隠すか。まぁそれが妥当。本来俺ですらも知っちゃいけないような秘密事項だもんなぁ。
「これより、私バンキングの名の元に、合宿の中止を宣言する。」
「合宿の中止!?」
「さすがにやりすぎだろ。不審者が1人侵入してきただけで……。」
生徒達は口々に言った。しかし、バンキング学長は続ける。
「今は一刻を争う状況である。全員速やかに荷物をまとめ、用意したバスでこの場を――。」
その時だった。どこかからか巨大な爆発音がした。何事かと慌てふためく生徒達とは対照的に、バンキング学長は冷静に苦虫を噛み潰したような声で言った。
「遅かったか。バスが破壊されたな。」
「そうだ。随分と遅かった。」
それに誰かが答えた。誰だ、誰だ。この中から聞こえたわけではない。そうか、放送だ。放送から声が聞こえた。
「あーあー、聞こえてるな。どうも未来ある生徒の皆さんこんにちは。俺達は世界の……いや、あえてこっちで名乗ろう。戦争の厄災だ。」
「戦争の……厄災……?」
「なんだそれ? 秘密結社?」
「ほとんどの皆さんは我々について知らないだろうから教えてやる。我々の目的は世界の破壊と再生。まぁそれはあくまで上っ面で、本当の目的は別にあるのだがね。とりあえず、我々はテロリストって認識でいいぞ。」
「テロリスト!?」
「俺、学校にテロリストが乗り込んでくる妄想ずっとしてたんだよね!」
生徒の何人か、いや大半が危機感を持っていない。そりゃあそうだ。ギラの生徒も京都の生徒も、これまでずっと世間的には強い側の人間だったからだ。当たり前だが、冒険者養成高校に通っている人は人類の中でもかなり強い部類に入る。ギラや京都のような名門校ならなおさらだ。
「さて、我々の要求はたった1つ。私立学園ギラの譲渡だ。」
いわば、天才が集められた環境。誰もそれより1段階も格が違う敵との戦いなんて想定していない。露悪的に言えば、みんな自惚れてるんだ。ギラの八英他数人だけが、今の状況を理解できている。戦争の厄災のヤバさを知っている。
「もちろん、私立学園ギラの土地を渡せと言っているわけではない。建物でもないぞ。全てだ。所有権を渡せと言っているのだ。これから私立学園ギラは我々が管理する。」
身勝手な言い分。生徒達の反抗心は煽られ、皆思い思いに騒ぎ立てている。
「どうやら、その様子だと歓迎はされないようだ。しかし答えを出すのはまだ早い。実はささやかながらプレゼントを用意していてね。まずはそれを受け取ってくれたまへ。」
生徒達の波を押しのけ、どうにか最前列へとやってこれた。奏明、リーリエさん、バンキング学長。それからたくさんの教師達。皆放送に耳を傾けている。しかし、プレゼントってなんだ?
「さぁ皆さん、東の方角をご覧ください。」
なんだなんだと生徒達の首が東へ向く。それに釣られ、俺も東を見た。しかしそこにあるのは緩やかな傾斜の山だけ。特になにも……。
「おい、あそこなにか動いているぞ!」
生徒の1人が声をあげた。よく見ると、山の麓辺りでなにかが動いている。いや、蠢いている。小さな黒い点のような。
「ニュースなんかでご存知の方もいるだろうが、改めて紹介するよ。あれが我々戦争の厄災が厄災と呼ばれる所以。」
その黒い点の正体を理解した時、俺は絶句した。ついさっき俺は、他の生徒達を自惚れているだとかなんとか言っていたが、真に自惚れていたのは俺の方だったのだ。俺ならあるいは、戦争の厄災をなんとかできると思っていた。そんなものはただの妄想だと、現実は一笑にふした。
「人造人間だ。」
蠢く黒い点の正体、それは人造人間だったのだ。それが山の麓から、こちらに向かって侵攻している。集合体恐怖症の人が見たら卒倒するくらいの数が、こちらに侵攻してきているのだ。
「その数なんと10万体! 1体1体がAランク冒険者を軽く屠る戦闘力を持つ! もっと分かりやすく言おうか? 人造人間の最低戦闘力は7万だ。」
リーリエさんが2万8000。それを上回る奏明ですら3万3000。人造人間の最低戦闘力の半分も行っていないのだ。教師達の戦闘力は知らないが、果たして奏明より強い教師がどれだけいるだろうか。
「う、嘘だろ……?」
「7万……? さ、さすがにドッキリだろこれ……。」
うろたえる生徒達に無慈悲な声が答える。
「残念だが事実だ。お前達では歯が立たない。蹂躙され、殺されるのがオチだ。さて、それで改めて話をしたいのだが……。」
声の主は口角を上げたような声色で、あざ笑うように言った。
「俺達に私立学園ギラを渡してくれるよな? バンキング学長!」
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