第128話 開戦

 合宿2日目。朝から教師達による激しい指導が飛んでいた。


「はいはいしゃっしゃか起きる! おーいそこの部屋! とっくに起床時間は過ぎてるぞ!」


 叩き起こされ、飯を食わされ、かと思えばラジオ体操。そうして朝の日課を終えると、本格的に合宿がスタートするのだった。


「まずは基礎ステータスを上げなければ話にならない。全ての生徒を5つのグループに分割して、それぞれ順に各ステータス向上に向けたトレーニングをしてもらう。」


 合宿の内容は普段の授業に比べればハードだった。しかし、俺は夏休みに奏明の家で地獄の特訓を受けている。それに比べればどうってことない内容だ。


 しかし、俺以外のほとんどの生徒はかなりヘトヘトな様子。俺は気がかりだった。昨日、戦争の厄災がここを攻めてくるという話を聞いたのだ。もしそれが本当だとしたら、今ここで無駄に体力を消耗していると命取りになる。それは俺以外のみんなもそうだ。なのにトレーニングでこんなに疲れてしまっていては……。


「むむ、定気、手を抜くんじゃあない。素早さとはスピードだ。スピードなくして勝てる戦いなどないぞ。」


 手を抜いていたわけではないが、トレーニングではなるべく体力を使わないようにした。


 そして時間は過ぎて、正午。トレーニングは終了し、昼飯の時間となった。いつものように食べたあと、一足先にグラウンドに出た。


「……来る。」


 空を仰いでそう呟いた。1回やってみたかったんだよね、これ。しかし本当に来るのだろうか。今のところなんの前兆もないけど。


「来るって、なにが?」


「そりゃあもちろん、戦争の厄災だよ。」


「あぁ、それなら……。」


 待て。ごく自然に返事してしまったけど、この声、誰の声だ? まったく知らない声ではない。けど聞き慣れない声。これはいったい……。


「もう来てる。」


 全身が警鐘を鳴らした。背後。致死の一撃が迫っていると肌で分かる。振り返る暇はない。避けるしかない。でも避けられる? 無理だ。なら――。


「〈リーサル・ドゥーン〉!」


 俺は体の中でドゥーンを爆発させた。いわば人間爆弾になったのだ。俺はHPが高いから体がちぎれ飛んでも死ぬことはない。それより未知の攻撃を受ける方がまずい。


「痛ったぁ……。」


 体が四散した俺は、首だけになって地面に転がった。HPはまだ0になってない。そして背後にいた襲撃者の姿を見た。


「あ、あなたは!?」


 見たことがある。確か、前に町で人造人間に襲われていた金髪ギャルの人だ。どうしてここに。というか、〈リーサル・ドゥーン〉を喰らったはずなのに全然ピンピンしてるぞこの人。


「君、なかなかいいセンスしてるね。」


 その女性はヘラヘラ笑いながらそう言った。まずい。〈リーサル・ドゥーン〉の爆発によって体を失ってしまったから、もう攻撃に対する防御も回避もできない。


「音爆弾か。回避、反撃、そして警鐘。1つの行動で3つの役割を遂行したわけだ。だけどまぁ――。」


「〈ゆうしゃのいちげき〉」


 喋る金髪ギャルの背後から、金色の極太ビームが飛んでくる。彼女はそれをもろに喰らった。


「奏明!」


「……! 定気が首だけになってる!?」


 顔の筋肉だけじゃ上手く動けない。けどなんとかして奏明に拾ってもらえれば、回復魔法で――。


「ちょっとさぁ……。」


「ッ!」


「人が話してる時に攻撃するのはご法度じゃない?」


 金髪ギャルは、〈ゆうしゃのいちげき〉を喰らえど大したダメージを受けていないようだった。制服に傷すらついていない。高いステータスを持つ人間は、その防御力を自分の衣服にも適応できるという話を授業で聞いたが、だとするとこのギャルの戦闘力はいったい……。


「あなた、誰?」


 奏明は金髪ギャルを睨みつけると、僅かに足をずらして体制を低くした。


「んーと、まぁ、あんたら風に言うなら戦争の厄災。私らは世界の改革派って名乗って――。」


「〈氷の波アイシクル・ウェーブ〉」


 奏明の背後から強襲する氷の波。金髪ギャルはそれをバク転で避けて舌打ちした。


「だぁーかぁーらぁー! 人が話してる時に攻撃すんなっての。それにこっちには生首の人質も……いない?」


「回収したよ。」


 氷の波の気を取られている隙に、奏明は全速力で俺を回収してくれた。


「安倍さん、この方は?」


 リーリエさんの声だ。姿は確認できないけど、多分奏明の背後からやってきたのだろう。


「敵だよ。」


「分かりました。〈氷の帝王アイシクル・ツァーリ〉」


 リーリエさんは畳みかける。しかし金髪ギャルの身のこなしは軽やか。簡単に回避されてしまう。キリがない。そうこうしているうちに、他の生徒達も集まってきた。


「なんだなんだ?」


「誰かいるぞ。もしかしてこれも合宿のイベントか?」


 そしてその騒ぎを聞きつけ、教師達が慌ててやってくる。その中にはバンキング学長もいた。


「奏明。俺を学長のところに投げてくれ。」


 奏明の全力投球により、俺という生首はバンキング学長の元へとストライク送球。当の学長はいきなり生首が飛んできたので驚いている。


「じょ、定気くん……。こ、これは、生きているのか?」


「学長、戦争の厄災です。戦争の厄災が攻めてきました。」


「戦争の厄災だと!? バカな、動きはなかったはず!」


「とにかく戦える人間をあの金髪にぶつけてください! アイツ多分めちゃくちゃ強い。俺の最大火力でも身動ぎすらしなかった。」


 バンキング学長は俺をさらに後方へと投げつけると、前線に駆けていった。そして当の俺はというと、後ろで事態を震えながら見ていた白衣の教師の元へと飛ばされた。この人は交流戦でも回復魔法を使っていた。だったら俺の体も治せるはずだ。


「すみません、回復魔法お願いします!」


「ひいい生首!?」


 その教師は俺を地面に叩きつけた。痛い。こっちは一応生徒だぞ。


「落ち着いて聞いてください。実は……。」


 俺は教師にことの顛末を話し、なんとか冷静さを取り戻させることに成功した。その教師は話を理解するとすぐに回復魔法を使ってくれた。徐々に肉体が再生していく。しかしこうしている間にも、生徒達が戦っているはずだ。今のうちにドゥーンも補充して、急いで向かわなくては。

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