第118話 奏明vsリーリエ(2)
「〈
黒板を引っ掻いたような、凄まじく嫌な音が辺りに響いた。
「う……。」
「隙だらけですよ。」
リーリエさんは耳を押さえる奏明に、氷の剣で斬りかかった。奏明は防御すら取れず、その斬撃を喰らう。
「この……!」
「〈
奏明の頭上に出現していた巨大な氷が、彼女を押し潰さんと落下した。奏明はモロに直撃し、その姿は氷山によって隠されてしまった。
「私の〈氷魔法〉には全て毒が付与されています。僅かでも氷を喰らえば最後、じわじわと毒に体を蝕まれ、戦闘力を失っていきますよ。」
リングの中央にそびえ立つ氷は微動だにしない。それすなわち、奏明の敗北を意味する。
「多少の戦闘力差は毒で覆せます。また、あなたの強力なスキルも私のステータスの前では火力不足。あの高名な勇者を継ぐ者と思って期待していたのですが、少しガッカリしました。」
リーリエさんは氷の下の奏明にそう語りかけた。そして身を翻し、リングから立ち去ろうとする。
「しょ、勝者、リーリエさ――。」
審判が片手を挙げてそう判定しようとしたその時、一筋の光がリーリエさんの肩を貫いた。
「私の推しの実力は、こんなものじゃないぞっ!」
隣のヒカリちゃんがそう声を張り上げるが早いか、一瞬にして奏明を押し潰していた氷が割れてしまった。しかし、既にそこに奏明の姿はない。
「どこに――。」
そう呟くリーリエさんの背後に、爛々と輝く2つの瞳が踊っていた。姿勢を低くし、構えた聖剣を細い首筋に叩き込まんとしていた。
「〈かいしんのいちげき〉+〈つうこんのいちげき〉+〈ゆうしゃのいちげき〉」
その声を耳にはしたリーリエさんは、振り返ることなく防御を展開。直後、奏明の全力の攻撃が彼女にぶつけられた。それはリーリエさんが展開した防御をいともたやすく破壊し、彼女を遥か後方、リングの端まで飛ばした。リーリエさんは受け身すら取れず地面に叩きつけられ、少なくない量の血液をその場にぶちまけた。
「ぐ……ぅぅ……! 貴様……!」
リーリエさんの首には深い切り傷ができていた。そこから血が溢れている。彼女はそれを自身の氷で無理矢理塞ぐと深呼吸をし、冷静さを取り戻した。
「なぜ、動けるのです。毒でもう体は動かなくなっているはず。」
奏明は笑っていた。全身から血を流し、顔を青くさせながら笑っていた。口角をつり上げ、狂気じみた眼で笑っていた。
「〈ゆうしゃのいちげき〉」
聖剣から放たれた破壊力のある光線がリーリエさんを襲う。彼女は僅かに体を捻ってそれを避けると、再び奏明の頭上に氷山を出現させた。
「〈
だが、それを唱え終わった時には、既に奏明はその場にいなかった。
「また背後ですか!?」
「残念、上だよ。」
俺の目でも追うのが難しい速さで、奏明はリーリエさんに聖剣を振り下ろした。リーリエさんは氷を出現させ防御を試みるが、容易く破られてしまう。彼女の細腕に聖剣が食い込み、その衝撃でリングにクレーターが発生した。
「〈
「〈つうこんのいちげき〉」
まるで包丁を勢いよくまな板の上に振り下ろした時のような音が鳴り、リーリエさんの片腕がちぎれ飛んだ。しかしそれでも聖剣は止まらず、リーリエさんの胸辺りを鋭く斬り裂いた。
「ぐぅう……。」
「〈かいしんのいちげき〉」
そこに奏明は追撃を加えようとする。しかし……。
「舐めないでください!」
リーリエさんのもう片方の腕から勢いよく氷が出現し、奏明を包みこんだ。が、すぐに破壊されてしまう。しかしその隙にリーリエさんは彼女から距離を取った。
「どういうことなのでしょうか。毒を喰らってから動きがさらに鋭敏になったような……。」
リーリエさんは奏明を警戒しながら、氷で傷口を塞ぐ。しかし片腕を失ってしまったのはかなりの痛手だ。
「前も聞いたけど、奏明ってなんでスロースタートって言われてるんだ? そういうスキル?」
実は戦闘の最初は攻撃と素早さが半減された状態からだったりするのかな?
「ふふんっ、私が教えてあげるよっ。あの子のスキルは勇者の一族に伝わる伝説のスキルなんだよっ!」
「伝説って?」
「曰く、攻撃を受ける度に戦闘力が上がるスキルなんだって。」
攻撃を受ける度に戦闘力が上がるスキル!? なんだそれ、最強じゃん!
「しかもそれだけじゃなくって、あの子の場合は攻撃をする度にも戦闘力が上がるらしいよっ!」
攻撃をする度に戦闘力が上がるスキル!? やっぱり最強じゃん!
「そこに確定クリティカル攻撃の〈かいしんのいちげき〉と〈つうこんのいちげき〉、そして対象指定攻撃の〈ゆうしゃのいちげき〉があるんだもんなぁ。」
「そうそうっ! スキルもいいのが揃ってるし、レベルも高い。あの子が負けるはずないよっ!」
うんうん、それもそうだ。
「ところでヒカリちゃんはなんで奏明のことそんなに詳しいの? 知り合い?」
「あー、うん、そうだねっ。どこから説明したらいいかなー?」
ヒカリちゃんは過去を懐かしむような表情で、奏明との出会いを語ってくれた。
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