第117話 奏明vsリーリエ(1)
「……小優くん、見える?」
「かろうじて。」
「そっか。すごいね。」
奏明とリーリエさんの戦いは、まさにハイレベルだった。
「〈かいしんのいちげき〉+〈つうこんのいちげき〉」
「〈
奏明がリーリエさんに斬りかかり、リーリエさんがそれをスキルで防ぐ。奏明の高火力攻撃にリーリエさんは防御系スキルで対応しつつ、隙を見て彼女も反撃に出る。
「
リーリエさんが右手をちょちょいと動かすと、奏明の頭上に巨大な氷の塊が出現し、降りかかる。奏明は一瞬で氷に押し潰され……たかと思いきや、落下した氷に亀裂が入り、中から僅かに血を流した奏明が現れた。
奏明の純粋なスペックも然ることながら、リーリエさんのスキルコントロールもとんでもない。そもそも、奏明のスピードは俺ですらも油断すれば置いていかれるくらいの速さなのだ。それに対応して適切な防御を展開しつつ反撃も行うなんて、普通はできない。
「へぇ、ちょっとはやるね。まさか同じ学年の人からまともに攻撃をもらうとは思わなかったよ。」
奏明の無自覚な煽りに対してリーリエさんが口を開きかけたその瞬間、奏明は既にリーリエさんの背後に回っていた。
「奏明ちゃんって、瞬間移動のスキルとかは持ってないんだよねっ?」
「多分そう。本人から直接聞いたことはないけど。」
しかし、夏休み中にスピードタイプの人造人間と相対している俺の目はごまかせない。奏明の試合中の移動は全て素の身体能力だけで行っている。奏明がリーリエさんの背後に回り込むその瞬間を、俺は確かにこの目で見たのだから。あれは間違いなくスキルによるものではない。
「〈
奏明の速さを警戒してか否か、リーリエさんは足元から氷を出してリングを覆いはじめた。しかし、奏明はそれをものともせずリーリエさんに肉薄する。
「甘いですよ!」
リーリエさんはそれに対して応戦する。なんと地面に張り巡らされた氷がうねるように体積を増し、奏明に襲いかかったのだ。奏明はそれを躱すでもなく、聖剣でなぎ払って前進する。だがその隙にリーリエさんは滑るように奏明の背後に回り込んだ。
「〈
奏明の脇腹を、氷の槍が貫かんとする。奏明は僅かに身をよじり、それを避けようとするが、氷の槍は彼女にかすった。しかし致命傷ではない。
「いいね、あなたは意外に楽しめそう。」
奏明は聖剣でカウンターをおみまいし、リーリエさんは咄嗟にスキルで防御を固めるも数メートル吹き飛ばされた。
「奏明の方が優勢そうだ。」
リーリエさんはスキル的に考えると、本来は中距離で戦うタイプなのだろう。接近戦もできないわけではないが、本領を発揮できていないように見える。対する奏明は完全なる
「俺のデータから考えるに、この勝負、奏明の勝ちだ……!」
「あの子、戦いながら強くなっていくタイプだもんねっ。このまま持久戦に持ち込めば絶対勝てるよっ。」
以前の人造人間戦でも如実に現れていたが、奏明は戦闘が長引くとどうも様子がおかしくなる。理由は知らないが、ヒカリちゃんの発言的に、多分時間経過で戦闘力を上昇させるスキルがあるのだろう。
「あ、リーリエさん戦ってるじゃん。」
「マジ? 誰と?」
試合開始から続々と人が集まり始めた。リングはいくつか空いているというのに、皆この試合に熱中している。そのうち、辺りはまるで満員電車のように過密になってきた。おしくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅうと押され、隣のヒカリちゃんとも肩が触れ合う。しかし当のヒカリちゃんは微塵も気にしていないようだ。
「リーリエさん勝ってる?」
「いや、意外と押され気味。ギラの生徒も強いなぁ。」
京都の生徒の会話が耳に入ってくる。
「でも、向こうの生徒も決め手に欠けてる感じだな。まぁリーリエさん防御力高いし、それもそうか。」
「だとするとこの試合、持久戦にならないか?」
「それって……。」
「ああ。リーリエさんの勝ちだ。なんたって……。」
その時、ワッと歓声があがった。リングに目をやると、奏明が片膝をついて吐血している。その横には肩で息をしているリーリエさんが立っていた。
「随分、時間がかかりましたね。」
「なに……を……? グッ……ッ!?」
粘性のある赤い液体が、奏明の口から止めどなく溢れる。彼女の顔には苦痛の表情しかなかった。少し目を離した隙に、いったいなにがあったんだ……?
「対戦相手の子、リーリエさんの攻撃喰らいまくってたからなぁ。」
「ま、しゃーないよ。誰だって初見じゃ、リーリエさんの強みはあの〈氷魔法〉だと思っちゃうもん。派手だから仕方ないんだけどね。」
奏明は聖剣を手にし、立ち上がる。しかしその足は震え、到底戦えるようには見えない。まさか、リーリエさんには隠し玉があったのか。
「あなた、私になにをしたの……?」
「ふふ、苦しいですか? 足は痺れますか? 頭は痛いですか? いいですね、その表情。簡単には折れないでくださいね。なにせ――。」
リーリエさんは奏明の頭上に巨大な氷を出現させた。そして嗜虐的な笑みで、奏明を見下す。
「毒使いの異名を持つ私の本領は、ここから発揮されるのですから。」
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