第116話 邂逅

「おー、久しぶりです。京都の冒険者養成高校に通ってたなんて知りませんでしたよ。」


 リーリエさんは以前出会い系アプリで出会ったロシア系の女性だ。雪を思わせる白銀の髪色が美しい。制服の白さも相まって、まるで冬の妖精さんのようだ。


「あれ以来連絡を取っていませんでしたからね。でも、またこうして会えたのは運命ですよ。」


「またまた。俺がギラの生徒だって知っててDMをくれたんじゃないんですか?」


「ふふ、どうでしょう?」


 相変わらず可愛らしい。思わず頬が緩んでしまう。


「あの、2人は知り合いなんです……?」


 京都の生徒の1人がそう聞いてきた。


「ギラの野郎がリーリエさんと知り合い……?」


「冗談だろ……俺達のリーリエさんが……。これがNTR……?」


 なにやら物騒な声が聞こえてくる。もしかしてあれか。親衛隊みたいなやつがいるのか。奏明にも一時期いたけどいつの間にか解散したやつ。 


「実はこう見えて、私結構強いんです。だからみんなからも慕われてるんですよ?」


「そうみたいですね。ちなみにどのくらい強いんですか?」


「八英ランキング1位です。」


 1位。1位か。すごいな。あの奏明と同じだ。きっとすごく強いんだろうなぁ。


「リーリエさん、もしよかったら俺と戦ってくれませんか? 前はカッコ悪いところ見せちゃったし、挽回したいなって思って。」


「いいですよ。でも先客があるのでそちらを先に済ませてもいいですか?」


 そう言って彼女は俺の後方に視線を送った。振り向くとそこには愕然とした表情の奏明が突っ立っている。


「定気、その女、誰?」


「京都の高校のリーリエさんだよ。向こうの八英ランキング1位なんだって。」


「そういうことを聞いてるわけじゃない。」


 なんだか不機嫌そうだ。どうしてだろう。


「先に安倍さんと戦う約束をしておりまして。すぐに終わらせるので、定気さんにはちょっとだけ待っててもらうことになりそうです。」


「ん、四肢をもぐ。」


 奏明が殺気立っている。対抗心というヤツだろうか。やはり互いにランキング1位なだけあって、それなりにプライドのかかった戦いになるのだろう。


「リングにあがりなよ。ボコボコにしてあげる。」


「ふふ、それは楽しみです。お手柔らかにお願いしますね。」


 2人はバチバチしながら先生に蘇生アイテムをもらいに行った。しかし、1位VS1位なんて滅多に見られるもんじゃない。面白い試合になりそうだなぁ。奏明が苦戦してるところとか見てみたいかも。


「あっ、なんか面白そうな対戦カードやっているじゃんっ。」


 騒ぎを聞きつけて続々と人が集まってくる。俺の隣にはファンをぞろぞろと率いたヒカリちゃんがやってきた。いつ見てもアイドルとしてのオーラで輝いている。可愛いなぁ(デレデレ)


「ヒカリちゃん久しぶり。」


「あっ、小優くんだっ! 久しぶりだねっ。」


「そういえば、夏休みライブやってたって聞いたんだけど、どうだった?」


「うんっ、楽しかったよっ! 高校生になったからライブの規模もさらに拡大できたしっ。そうだっ、小優くんも今度招待してあげるよっ。」


 う、か、可愛い! 眩しい! これが、アイドルッ!


「えー、では、国立京都冒険者養成高校1年リーリエさんVS私立学園ギラ1年安倍 奏明さんの試合を始めます。両者、握手を。」


 ヒカリちゃんと話していると、審判の教師が声を張り上げた。準備が済んだのだろう。当の2人はリングにあがってから、一定の間合いを保ちつつ睨み合っている。


「あの……両者握手を……。」


「リーリエ、だっけ? あなた、定気のなに?」


「ふふ、そうですね。運命の人、という答えはお嫌いですか?」


「浮気だね。あなたの次は定気をしばく。」


「りょ、両者、あの、握手……。」


「随分と威勢がいいですね。失礼ですが、戦闘力をお聞きしても?」


「3万3000。あなたは?」


「2万8000です。ですがまぁ、この程度の差ならいくらでもやりようはありますね。」


「握手は……しない……感じです……か?」


「弱い犬ほどよく吠える……。あなたは私に勝てないよ。」


「ふふ、どちらが負け犬なのか思い知らせてやりますよ。まずはその繊細そうな顔に傷をつけてあげますね。」


「あ……じゃあもう握手とかはいいんで……自分らの好きなタイミングで始めちゃってくださ――。」


 審判が言い終わる前に、奏明の姿が消えた。


「〈かいしんのいちげき〉」


「〈氷の装甲アイシクル・ガード〉」


 そして奏明はリーリエさんの背後に現れた。と思ったのもつかの間、彼女は手に聖剣を顕現させ、小手調べの一撃を放った。だがしかしリーリエさんの反応も早い。彼女は一瞬で体に氷を纏い、その腕で聖剣を受け止めたのだ。だが……。


「脆い。」


「ッ!?」


 奏明がもう1段力を加えると、リーリエさんの纏った氷はバキバキと割れた。鋭い聖剣がリーリエさんの腕を切り裂き、鮮血が舞った。


「あれ? おかしいね?」


 リーリエさんは即座に後退し、出血を自身の氷で止めた。奏明は聖剣を振って、付着した血を払うと彼女に向かって笑いかける。


「誰の顔に傷をつけるって?」


「……生意気なJAPが。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る