第115話 予想外

「ドゥワーハッハッハッハッハ! どうだ、驚いたか!」


 漆黒院は取り出した輝くマントを装着。すると今度は光輝くまばゆいオーラを出し始めた。


「私の名前は閃光院せんこういん みかど! 漆黒院の裏の存在!」


 よく見るとマント以外にも装いが若干変わってる。眼帯の位置はいつの間にか逆になってるし、ペンダントはドクロから天使になってる。


「フッ、私は二重人格だったのだよ。しかも互いが互いの天敵である、悪魔と天使の二重人格。今の私は天使と天使のハーフだ。」


 だから天使と天使のハーフはただの天使だってば!


「クックック。まさに光と闇。二重の人格。」


「なに? 右腕ちんこくん?」


「二重の人格だ! 貴様耳くそ詰まってんのか!」


 とはいえ、厄介だな。多分あの感じは使うスキルも変わってくるのだろう。相手のタイプに合わせて使うスキルを切り替える戦法の奴と戦うのは、これが初めてだ。


「さぁ、審判の時だ。」


 漆黒院改め閃光院は光の剣を生成した。天使の標準装備なのかなあれ。


「閃光院である私は漆黒院とは違って白兵戦が得意なのだ! 遠距離キラーな貴様にとっては辛かろう!」


 閃光院は残像を残すほどの速さでジグザグに移動し、かと思えば姿を消した。


「甘い! 私のリズムで背後を取ったぞ!」


 直後、後ろから痛みと衝撃が走る。斬られたのだと理解するのに時間は要さなかった。


「む、意外とこれは……。」


「チッ、名刀:異狩!」


 名刀:異狩を携えながら、背後に振り返り斬りつける。だが、それは相手方の剣で防がれてしまう。


「〈身体強化〉ァ!」


「な、なにィッ!?」


 しかし、鍔迫り合いなら〈身体強化〉のある俺の方が有利だ。漆黒院こと閃光院は線が細いし、筋力勝負なら分がある。


「ぐ、ぐぐ……〈聖なる閃光〉!」


 ピカッと漆黒院こと閃光院が光り、目がくらむ。その瞬間に漆黒院こと閃光院はその場から逃げ出してしまう。


「なかなか速いな。」


「閃光院はスピード特化。私に追いつくことはできない!」


「だが、追いつく必要もない。」


 俺は自身の中に残っている全てのドゥーン、数にして約10万ほどを指先に集中させた。


「むむ、なにかしようとしているな。私の勘が言っているぞ!」


「おっと、それはちょっと勘が鈍ってるな。なにかしようとしているのではない。もうしたのだよ。」


「な、なにをッ!?」


 次の瞬間、俺は漆黒院こと閃光院に、先日習得したばかりのスキルを放った。


「〈記憶操作・弱〉」


「ッ!」


 漆黒院こと閃光院はビクッと体を震わせ、硬直した。今、あいつの頭の中に自身が死亡する記憶をねじ込んだ。その隙に、俺は〈リーサル・ドゥーン〉をぶちこんだのだ。


「ハッ!」


 漆黒院こと閃光院が正気を取り戻した時にはもう遅い。本来〈リーサル・ドゥーン〉は範囲攻撃なのだから。


「爆発しろ。」


「な、なんだとォ――。」


〈リーサル・ドゥーン〉が弾け、漆黒院こと閃光院はその衝撃に晒される。直撃は当然のこととして、直撃でない衝撃波であっても、〈リーサル・ドゥーン〉は容易に人を殺せる威力を持つ。漆黒院こと閃光院はそのまま衝撃によって場外まで吹き飛ばされた。


「あ、蘇生アイテムってリングの中じゃないと発動しないんだっけ。」


「死んでないわー!」


 むむ、意外と硬いな。天使系列は耐久に難アリと相場が決まっているのに。


「ぐ……だが場外は場外……。潔く負けを認めよう。」


 彼はそう言って敗北を認めた。いつの間にか格好も漆黒院に戻っている。


「だが、私は八英の中でも最弱……京都冒険者養成高校の面汚しよ……。」


「ま、まぁそんな卑下するなって。案外強かったぜ。」


「まぁ私八英ランキング4位だし。」


「あなたさっき自分で最弱とか言ってませんでした?」


「その場のノリというヤツさ。」


 漆黒院は理由の分からないことを言い残して、そのまま生徒達の雑踏の中へ姿を消した。


「なんだったんだ……?」


 俺はリングから降りて彼の背中を見送るしかなかった。さて次はなにをしようかと首をもたげたその時、ワッと歓声が聞こえた。


「さすが、京都最強の名は伊達じゃねぇ!」


「なーにが八英だ。そんな奴ぶっ飛ばしてしまえ!」


 そちらの方を見ると、タワーリシチさんと誰かが戦っていた。白い冷気でよく見えない。あれはタワーリシチさんのスキルだろうか。


「ぐっ……!」


 いや、違う。タワーリシチさんのあの表情。かなりキツそうだ。体についている傷跡には霜も降りている。もしかして、同じ氷系スキルの使い手と戦っているのだろうか。 


「これで終わりにしましょうか。」


 白銀の霧の中から聞こえたその声に、俺は聞き覚えがあった。忘れるはずもない、彼女の声。


「まだ……まだだ!」


 タワーリシチさんが吠えた瞬間、彼女の目の前からこちらまで届いてしまいそうなくらいの巨大な氷が生えてきた。それにぶつかったタワーリシチさんは遥か後方へ飛ばされてしまう。場外だ。


「勝者、リーリエ!」


 テンションの高い京都の先生が、高らかにそう宣言した。彼女は優雅にリングから降りてきて、京都の皆と勝利を分かち合う。しかし俺の視線に気づいたのか、フッとこちらに顔を向けると微笑んだ。


「お久しぶりです。定気さん。」

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