第114話 瞬殺

「はい、これで終わり。」


 京都のヤンキーくんは一瞬で敗北した。時間にして1分もなかったと思う。


「えっ……マジ……?」


「あいつってうちの八英だぞ……。瞬殺じゃん……。」


 京都の連中はザワザワしているいい気味だ。


「次は誰?」


 奏明は聖剣をぶらりと垂らして京都の生徒達を睨みつける。途端に威勢のよかった彼らは彼女から目を逸らした。


「いいな。俺もなんかワクワクしてきたぜ。」


 俺の背後から白市がそう呟きながら、京都の生徒達に近づいていく。それを機に、ギラの生徒達は彼らに戦いを吹っ掛けていく。


「俺も誰か適当な奴見繕って戦うかー。」


 そう足を踏み出したその時、背後から声がかかる。


「えー、おほん。貴様、ギラの八英の定気 小優だな?」


「む、お前は誰だ。」


 振り返るとそこにいたのは痛々しい格好をした中二病だった。右目には眼帯、両手は包帯でぐるぐる巻き、そしてドクロのネックレス。ここまで分かりやすい奴はそういないだろう。


「クックック。私は他のバカな奴らとは違う! ギラの八英戦はテレビでしっかり見ていた。そのうえで、私は貴様に戦いを挑むのだ。」


「えっ、あの、あなたの名前は……?」


「私はそこそこの八英1人倒して下山するぜ。さぁ勝負だ! 空間支配人・定気 小優よ!」


 さっきからこいつはなにを言ってるんだ?


「えっと、まずあなたの名前を教えてもらっても?」


「私は闇の帝王ダークエンペラーにして悪魔と悪魔のハーフ……。」


 悪魔と悪魔のハーフはハーフじゃなくて純血なのでは?


「京都冒険者養成高校1年の八英が1人、漆黒院しっこくいん みかどとは私のことだ! ドゥワーハッハッハッハッハ!」


「え、えと……それでその漆黒院さんがなんの用でして……?」


「貴様に決闘を申し込む! 私の魔法の錆びにしてくれよう!」


 う、うーん、なんかやたらとテンション高くて痛々しいけど、なんか向こうの八英らしいし、実力はある方なんだろうなぁ。だったらまぁ……練習台くらいにはなるか……?


「あ、えっと、その試合をするのはいいんだけど、今リングが空いていないから、手前のが空いたらやろうか。」


「いや、あと2分くらいで右奥のリングが空くから、そこに行こう。私の勘は当たるんだ。」


 ほーんと思い待つこと2分。本当に右奥のリングが空いた。俺達は先生に申請して蘇生アイテムをもらい、装着してリングにあがる。


「ではスタートの合図を鳴らしまーす。」


 審判のサッポロ先生が、手にある鐘のような物を鳴らすと、カァーンと高い音が響いた。戦闘開始だ。


「〈リーサル・ドゥーン〉」


 初手、俺は10万ドゥーンを漆黒院に向けて放った。ドゥーンの扱い方もだいぶ慣れてきたため、かなりのスピードで発射できるようになった。しかもドゥーンは音なので無色透明。着弾するまで一切音を出さないため回避は不可能だ。


「甘い! とうっ!」


 と思われていたのだが、漆黒院は華麗なステップで見えないはずのドゥーンを避けてみせた。


「私のスキル、〈勘〉を前に奇襲は通用しない! 喰らうがいい!」


 漆黒院はそのまま漆黒のマントを取り出し、その身に纏った。するとそこから暗闇が液体のようにドロリと溢れだし、こちらに襲いかかってくる。


「〈上下左右・上〉」


 その液体に〈上〉を付与すると、遥か空まで飛んでいってしまった。なんだったんだろう。


「フッ、さすが空間支配人。そのスキル、ただの〈サイコキネシス〉ではないようだな。液体すら浮かせられるとは驚いた。」


 む、そういえば俺の〈上下左右〉って前まで液体は浮かせられなかったような気がする。コップに水を入れたとして、その水だけを浮かせることはできてなかったんだ。それが今は液体すら浮かせられるようになった。スキルも成長しているということか。


「ならばこれはどうだ!」


 漆黒院の次なる攻撃は奇妙だった。先ほどの黒い液体を地面に這わせて、リングの地面全体を液体で覆い尽くさんとしてきたのだ。


「なるほど。〈上下左右〉の発動条件を看破されたか。」


〈上下左右〉は浮いているものにしか発動できない。よって地を這ってくる液体を〈上下左右〉でどうこうすることは不可能。


「だったらこっちだ。〈切除〉」


 俺は地面に手をつき、〈切除〉を発動させて地面を切った。


「無駄だ! 私の闇は全てを覆い尽くすのだ!」


 しかし迫りくる黒い液体に効果はなかった。多少地面を隆起させたところで、液体の侵攻を妨げることはできなかったのだ。


「どうーだ思い知ったか! 貴様は私のスキルに対して一切打つ手なしなのだ!」


 あの黒い液体がどんな性質を持っているか分からない以上、安易に触れたくはない。


「だが、打つ手なしってのは違うぜ。」


 俺はまず、黒い液体全体に〈上下左右・上〉を付与した。しかしそのままでは浮かせられないため、さらにスキルを使った。


「〈ドゥーン〉」


 地面に手をついたまま、そこにドゥーンを流し込んだのだ。数字にしてだいたい100ドゥーンくらいを、地面に絶え間なく流し続ける。すると徐々に地面は振動を始めるのだ。


「地震かッ!?」


 立ち上がりに時間はかかるが、日本人であっても尻餅をつくくらいの震度は出せる。


「だがそんなことで私の漆黒を凌げるとでも――。」


「あぁ、凌げるさ。」


 俺はダンジョン攻略を通して、スキルのコントロールを格段に向上させることができた。そう、具体的には、放出したドゥーンに指向性を持たせて操ることもできるようになったのだ。


「〈ドゥーン・クエイク〉」


 音の振動を地面の中で溜め、真下に放つ。そうすることで発生するのだ。急激な地盤沈下が!


「ま、まさかッ!」


「そのまさかだ!」


 ドンッ! と地面が陥没し、俺や漆黒院は地面に取り残されて一瞬宙に浮いた。もちろん黒い液体もだ。そして液体には〈上〉が付与されている。つまり、黒い液体は付与された〈上〉によって、再び遥か彼方まで飛ばされるということだ!


「わ、私の闇が……!」


「どうやら、真に打つ手なしなのはお前の方のようだな。お前のスキルは全て無効化できる。諦めて降参することだ。」


 漆黒院に〈上〉を付与して打ち上げてやってもよかったが、さすがに相手も八英。しかもこちらの戦法を研究してきている奴だ。〈上下左右〉は対策してきているだろう。ならば僅かでもMPを節約した方がいい。〈魔王化〉や〈身体強化〉なんかはMPを喰うから温存しておきたい。


「クックック……クックックックッ。」


「なにがおかしい……?」


「貴様、今私に打つ手なしと言ったな? だが、それは不正解であることを脳髄に刻みつけてやろう! これを見ろ!」


 漆黒院は懐から、今度は輝くマントを取り出した。やはり八英というだけあって一筋縄ではいかないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る