第113話 対抗戦
「えー、本日は誠によい日です。花は咲き乱れ、鳥はさえずり、山々は我々を祝福している。空には一点の陰りもなく――。」
バスから降りて荷物を宿泊所に置いた後、俺達はグラウンドに集まるように言われた。そこで聞かされているのは京都の先生の長い長いお話だ。
「そもそも、我々は長きに渡りライバルとして活動してきたわけですが、その起源は――。」
あーあ、まだ続くのかよ。ふぁああ。立ち続けるのもわりとしんどいんだけどなぁ。
「とまぁ多分誰も話なんて聞いてないと思うのでちゃちゃっと進めますね。えー、私立学園ギラの生徒代表からの挨拶があります。どうぞ。」
その先生がマイクを渡したのは我らが奏明。彼女は小さな手でしっかりとマイクを握り、口を開いた。
「えっと、安倍 奏明です。私立学園ギラの八英です。今回、国立京都冒険者養成高校の皆さんと合宿を行うことができて、大変喜ばしく思ってます。」
奏明って敬語使えたんだ。いいじゃん。敬語使ってればめちゃくちゃ清楚なお嬢様に見える。顔もいいし髪も綺麗だし、相変わらずビジュアルだけは欠点がないぜ。
「お互い学びある、有意義な時間にしていけたらと思います。」
奏明は数言話した後、そうスピーチを締めくくった。内容も無難で素晴らしい。最初はまた爆弾発言をやらかすのではないかとヒヤヒヤしていたが、杞憂に終わったようだ。俺は心の中で奏明への評価を上昇させながら、拍手をしようとした。その時だった。
「おいおい、あんなヒョロイのが生徒代表だってよ。」
聞き覚えのある声。さっきのスキンヘッドヤンキーだ。
「つうことはアレか。こいつがもしかしてそっちの最強なのか? そんな吹けば飛んでいきそうなくらいか弱い女がか?」
スキンヘッドヤンキーは奏明を睨みつけながらヒュウと口笛を吹いた。
「レベルが低いな。俺なら余裕で勝てちまうぜ。やっぱり俺達の高校はギラなんかよりよっぽど優れてる。」
スキンヘッドヤンキーの発言を聞いた、京都の先生が慌ててその場から走り出そうとする。しかし、それを止めたのもやはり彼女の声だった。
「それは無理だと思う。」
「無理だァ……?」
奏明はいつもと変わらない口調で、それがさも当たり前であるかのように、常識を幼児に教えるように、あるいは教科書でも読み上げるかのように、なんてことない風に言った。言ってみせた。
「だってあなた達全員、かなり弱いし。誰も私には勝てないと思う。」
自信。圧倒的自信。勇者の家系に生まれ、鍛練を積み重ねてきた彼女に堆積してきた、不動かつ絶対的な自信。この場の誰より自分が強いのだと、真に確信を持っているからこそ、彼女は堂々としているのだ。
「なん……!?」
スキンヘッドヤンキーに怒りの漫符が浮かび上がり、彼が声をあげようとした瞬間、彼より早く別な声があがった。それは主にギラの1組からあがった声だった。
「うおおおおおお!」
「いいぞ! よく言った!」
1組は、かねてより奏明の悪意なき毒舌に曝されてきた。ある者はプライドを折られ、ある者は才能を否定された。だがそれでも1組の者共は諦めずに立ち上がり、団結してきたのだ。今の1組にとって、いや、ギラの1年生にとって、奏明は最大の味方だ。
「安倍! 安倍! 安倍! 安倍! 安倍!」
いつの間にか激情は伝播し、ギラの生徒達全員が安倍コールをしている。会場のボルテージは最高潮だ。そして京都の連中は若干引いてる。奏明の発言と俺達のテンションに。なお、当の奏明はこのコールを受けると恥ずかしそうに顔を赤らめながら退場していった。
「えー、いい感じに盛り上げてもらえて、我々としては嬉しい限りです。ではこの盛り上げりのまま、本日最初のプログラムについて説明しますね。」
奏明が退場した後、京都の先生が再びマイク片手に口を開く。
「これより国立京都冒険者養成高校vs私立学園ギラの対抗戦を行います!」
た、対抗戦だって!?
「ルールはシンプル。戦いたい相手を選んで自由に戦ってください。勝った方には1ポイントが付与されます。そして本日の17時時点で全生徒の総ポイント数が多かった方の勝利です! ただし、同じ相手と何度も試合するのはNGですよ。」
先生はそう言って、パチンと手を鳴らした。すると地面が揺らぎ、土が独りでに動き出し、リングができていくではないか。数にして10個ほど。
「戦闘は蘇生アイテムを着用して、リングの中だけで行ってもらいます。ただしリングの数は10個しかないので、みんなで順番にやってくださいね。では、これより対抗戦を始めとしまーす。」
始めとしまーすと言われてもなぁ。突然知らない相手と戦ってくださいと言われてもそうそうできるもんじゃないし……。
「おいテメェさっきの女ァ! 俺と戦え! ボコボコにしてやる!」
「まぁ、別にいいけど……。」
と思っていたらもうペアが成立していた。とりあえず、あの2人の戦いでも見てようかな。
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