第111話 合宿開始

 10月の初旬、先生からこんな話を聞かされた。


「10月の15日から国立京都冒険者養成高校との合同合宿が始まります。」


 そういえばそんな話をバンキング学長から聞いていたような気がする。


「合宿は3日に分けて行います。内容は追って話しますが、互いに協力、切磋琢磨し親睦を深められるプログラムを用意しています。」


 合宿は3日間あるのか。ということはどっか泊まるところみたいなのがある感じなのかな?


「センセー、そういうのはもっと早めに教えてくださいよ。」


「入学時に渡したパンフレットに書いてあったはずですが……?」


 とまぁそんなこんなで15日から合宿があるよ~的な話を聞かされた訳で、それからは特になんの目新しい事件やイベントもなく、日常が流れていった。


 そして、10月の15日。朝、俺は早めに学園に着いていた。なんと時刻は6時だ。しかし俺だけが特別早かったというわけではない。合宿の開催地はなんと郊外の田舎にあるらしいので、移動時間を計算するとこの時間に集合しないと間に合わないそうだ。


「はーい、来た人から先生にチェックもらってバス入って~!」


 学園のグラウンドには数台のバスが停車している。俺はこの日のために買ったトランクケースを引っ張り、担任のセンコウ先生に近づいた。


「おはよう定気くん。体調は万全かな?」


「もちろんっすよ。」


「よろしく。ではトランクケースはバスの下部に入れるところがあるから、そっちに入れといて。そしたらもうバス乗って大丈夫だから。あっ、席は事前に決めてると思うから、そこに座ってね。」


 センコウ先生の指示に従い、トランクケースを入れてからバスに乗った。そして座席と座席の間の狭い通路を進みながら、俺は数日前にくじ引きで決まった席に座る。


「おはよう定気。」


「んあ、おはよう。」


 なんの因果か、俺の隣の席に座るのは奏明だ。神様のいたずらというやつだろうか。


「席、隣だね。」


 奏明が窓側で、俺が通路側。通路を挟んで右には江津がいる。佐山、ノブ、白市は遥か後方に配置されてしまったので、話し相手にはできないだろう。


「あぁ、そうだな。」


「私が隣で嬉しい?」


「あぁ、嬉しいよ。」


 夏休み明けから奏明は以前にも増してダル絡みをしてくるようになった。毎回まともに受け答えしていては持たないので、粗雑な返事で済ませている。


「ところで今日から合宿だよ。楽しみだね。」


「あぁ。そうだな。もしかしたら京都の学校には奏明よりも強い人がいるかもな。」


「えっ? いるわけないじゃん。」


 どこから出てくるのその自信……?


「私最強だもん。ムフー。」


 そう言って彼女は胸を張る。うーん、否定したいけど1年最強は確かにこいつだしなぁ。それに調べたところによると、京都の冒険者養成高校は毎年ギラより成績で劣っているらしい。スポーツで例えると、ギラはわりと一強の名門校で、その下に京都冒険者養成高校なんかがあるらしい。ランクとしては1つ下ってことだ。そう思ったら京都に奏明より強い生徒はいないかもしれない。


「でもさぁ、この世には奏明より強い人いっぱいいると思うぜ?」


「ムッ、それは確かにそうだけど……。でも同世代なら私より強い人はいないもん。」


「それは……そうかもぉ……。」


 だって今の俺の3倍くらい戦闘力あるんでしょ? うーん、俺も同年代では結構強い方なんだけどなぁ。


「ところで知ってる? 実は私合宿最初の挨拶をすることになったんだ。」


「へぇ~、そんなことを。意外だなぁ。」


「私が1番強いからね。強い人が代表になるのは当然だよ。」


 うーん、とは言っても大丈夫かな? だって奏明ってわりと性格に難アリだよ? でもまぁ、最近は落ち着いてきてるし大丈夫……かな? この前のスキル伝授の授業でもみんなと交流できてたし。


「ま、頑張れよ。」


 話していると、続々とクラスメイトがバスに乗り込んできた。時刻にして6時30分。センコウ先生がバスの中の俺達に声をかける。


「えー、皆さん。今日から楽しい合宿が始まります。期待や不安など色々あるかもしれませんが、まぁ肩の力抜いて、そんでもって京都の人間に思い知らせましょう。我々の力を!」


 センコウ先生ノリノリだな。もしかして京都冒険者養成高校に対抗心を燃やしてるのってバンキング学長だけじゃないのか?


「バスの中では立たないように。あとスキルも使わないでね。トイレ休憩は道中1回だけあります。合宿場に着いた後の動きは、バスから降りた後に説明します。」


 センコウ先生の説明が終わると、みんなはワイワイとお喋りを始めた。そしてバスは動き始める。俺は車酔いとかしないけど、奏明は大丈夫だろうかと隣を見ると、彼女は既にスヤスヤだった。

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