第6章 兵器編

第109話 スキル伝授

「今日は特別授業があります。皆さん体育館に集まってください。」


 残暑がまだまだ厳しい9月のある日、担任のセンコウ先生からホームルームでこう言われた。


「なんか、他のクラスも体育館行ってるみたいだぜ。」


 体育館に着くと、そこには見慣れた顔がいくつかあった。1組だけでなく、他の1年生も集まっているようだ。先生の指示に従い整列していると、体育館の舞台にサッポロ先生が上がった。


「皆さん、これから今日の特別授業について説明します。」


 サッポロ先生から説明された内容は、意外なものであった。それはスキルの教授実践という名目の授業であったからだ。


「稀にスキルというものは他人に伝授することができるようです。今日はそれを1年生の皆さんにやってもらいます。各々、自身の欲しいと思うスキルを友達に教えてもらってください。」


 スキルの伝授。それはやったことがある。俺は以前、奏明から〈ゆうしゃのいちげき〉を、国寺から〈身体強化〉をもらっている。この授業はそれを実践してみようという授業なのだろう。


「ですが、このスキルの伝授はかなり難しいです。本人同士の相性が良くなければまず成功しません。この授業は長いことやってきましたが、成功した例は数少ない。スキルを得るというのはそれだけ難しいということなのです。」


 サッポロ先生は言葉を区切って、「しかし」と付け加える。


「スキルを新たに得る……それも自身の欲しいスキルを得ることができるというのは圧倒的な成長に繋がります。スキルを1つ得ただけで爆発的に戦闘力を伸ばしたケースもあります。ですので皆さん、今日は楽しみながらも、真面目に取り組んでみてください。伝授の具体的なやり方は最初に先生がやってみせます。」


 俺は先生の話をあくびしながら聞いていた。これはやったことがあるからだ。今さら説明されても目新しさは感じない。今日の夕食はなににしようかと考えていると、いつの間にか先生の説明は終わっていた。


「では、皆さん実際にやってみましょう。」


 とは言われたものの、誰がどんなスキルを持っているかなんて俺知らないしなぁ。まぁ適当に佐山やノブと駄弁ってやり過ご――。


「あの、定気さん、よかったら俺達にスキルを教えてくれませんか。」


 突然、背後から声をかけられた。振り返ると見たことのない生徒達が列をなしている。


「えっ、なにこの列?」


「俺達八英の定気さんにスキルを習いたいんです。どうかお願いします。」


 先頭の名も知らぬ男子生徒は頭を下げる。周りを見ると、同じように列がいくつかできていた。その先にはタワーリシチさんや白市、奏明なんかも並ばれている。これはアレか。八英のスキルを学んで強くなろうって奴が、自分の欲しいスキルを持っている八英の元に教えを乞いに行ってるのか。


「むむ、まぁいいだろう。だけど俺も暇じゃないから手短に済ませてくれよ。それで君はどのスキルが欲しいんだい?」


「あ、ありがとうございます! あの、羽山さんとの戦いで見せた〈リーサル・ドゥーン〉ってスキルが欲しいです!」


 あ~、そっか。そうね。確かにそうだわ。この人らは八英戦の実況を見て俺達のスキルを知った気になってるから、スキルの本来の効果から教えないといけないのか。


「えっと、あの技なんだけど、アレは〈ドゥーン〉ってスキルが元になった技で……その〈ドゥーン〉ってのが……。」


 人に物を教えたことなどなかったからなかなか苦戦したが、どうにか〈ドゥーン〉の概要を伝えられた。男子生徒の顔は説明をしていくに連れて陰っていく。


「だから〈ドゥーン〉は君が思ってるより強いスキルじゃないんだ。」


「で、でも定気さんと同じくらい鍛練すれば、俺も〈リーサル・ドゥーン〉を使えるようになれますよね!?」


「う、うーん、まぁそんなに難しいことはやってないし、使えるようにはなると思う……。」


「じゃあやっぱり〈ドゥーン〉を教えてください! 俺は強くなりたいんです!」


 結局熱意に負けて、俺は〈ドゥーン〉の使い方を教えた。もちろん、ただ熱意があるだけでスキルが習得できるわけがない。俺も教師じゃないらスキルの使い方なんて感覚的にしか分からないし、どうせ伝授は成功しないだろうと思っていた。


「なるほど……分かりました! こうですね!」


 ドゥーンという重低音が、名も知らぬ男子生徒の手から放たれた。なんということだ。この短時間で習得しやがった。


「ご指導ありがとうございました! このスキルを鍛えて、俺も定気さんみたいな八英になってみせます!」


 名も知らぬ男子生徒はそう言って去る。そして彼の後ろに続いていた女子生徒が俺の前にやってくる。


「あの、〈切除〉ってスキルを教えてほしくて……。私、攻撃力のあるスキルを持ってないから、アレがあれば近距離戦闘が楽になるかなって思って……。」


 ま、またか。この人は多分〈切除〉を生物に対しても使えると勘違いしているのだろう。まずはそこを正さなくてはならない。しかし、もしかしてこの列にいる人全員に俺のスキル教えないといけないの? えっ、1人にこんな時間かけてたら終わんないよ……?


 俺は泣き言を言いながら、せっせと列に並ぶ生徒達にスキルを教えていった。しかし恐ろしきかな。他の八英の列に並んでいた人が、終わったら俺の列に並ぶせいで実質わんこそば状態。いつまで経っても終わりが見えない。俺は死んだ目をしながら生徒達を捌いていくハメになった。

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