第108話 エンド・ザ・夏休み
夏休み、終了ーッ!
「なぁ、夏休み明けが人生で最も倦怠感を覚える時だとは思わないか?」
「つべこべ言わずとっとと支度をすることだ。初日から遅刻していては健全な学生とは言えんぞ。」
大魔王から大魔王らしくない説教をいただきながら、俺は朝食を摂っていた。本日は9月1日。なんと夏休み明けである。
「冬休み、まだかなぁ……。」
「矮小なる人間よ。貴様、休み明けでだらけているな。そんなことだと周りに呆れられるぞ。」
「大丈夫だって。俺ってパッと見、真面目くんだし。」
「そうは見えんが……?」
「それに俺、夏休み中に1人でダンジョンを攻略したんだぜ? だらけてるどころかもう新進気鋭よ。」
「意味分かって使ってるのか……?」
夏休み中、修行の場として貸し出された山。そこにあったのはオープンワールドなダンジョンだった。しかも長らく放置されていたせいで、ダンジョンからはモンスターが溢れ出す始末。しかし優秀な俺はそれをたった1人で攻略してみせたのだ。
「スキルコントロールも上手くなったし、それに戦闘力だって遂に1万に乗ったんだぜ? もう周りとは差がつきまくりよ。夏休み中遊びほうけていた奴らなんてもう、目じゃないぜ。」
そう言って俺はステータスを開く。
■□■□
定気 小優
レベル1
HP 100000/100000
MP 1000/1000
攻撃 242
防御 368
技術 211
敏捷 158
魔法 56
精神 112
スキル一覧
・上下左右
・切除
・魔王化
・ドゥーン
・ゆうしゃのいちげき
・身体強化
戦闘力 10036
■□■□
「でもなーんか、レベルだけは上がらないんだよな。なんで?」
「……まぁレベルが上がらずともステータスは上昇しているのだ。深く考える必要はないだろう。」
それもそうか。いやぁ、それにしても戦闘力1万の世界か、これが。周りの全てが簡単に破壊し支配できるような気がする。まさに強者の世界。誰も俺を止められないぜ。
「でもまぁ、惜しむらくはあのダンジョン、なーんも資源とかアイテムとかなかったってところだよな。」
俺はあのダンジョンを攻略するに際して、最下層の隅々まで探索したのだが、宝箱やダンジョン資源などは一切なかった。強いて言えば出てくるモンスターを経験値資源と見ることならできそうだが、それなら他のダンジョンで事足りる。結局俺はダンジョンを攻略した後、バンキング学長のその後の全てを任せることにした。
「確かに不思議なダンジョンではあった。最下層にボスモンスターすらいないとはな。」
「もしかしたら誰かが攻略した後だったんじゃねーの?」
「それはないだろう。あのダンジョンは迷宮型とはワケが違う。遮蔽物は少なく、モンスターは群れで過ごしている。アレらを避けて最下層まで向かうなど、空でも飛べなければ不可能だ。」
うーん、そっかぁ。まぁ大魔王が言うならそうなんだろうなぁ。
「それより、時間は大丈夫なのか。我にはあと数分しかないように見えるが。」
思ったより話し込んでしまったようだ。俺は急いで飯を胃に流し込み、制服に着替えた。
「よし、準備オッケー。行ってきまーす。」
自室にそう告げて俺は寮から出た。夏休み明け初日は教室に集合らしい。えっちらおっちら歩いていくと、既に俺以外のみんなは集まっていた。夏休み明けということもあり、各々夏休み中になにをしたかを話し合っている。
「おっ、来たな定気。」
「おはようやで。」
すっかり友人AとBになってしまった佐山とノブに声をかけられる。
「おはよう。この後すぐ始業式?」
「そうやで。なんか学長からのお話とかあるらしいんやで。」
うーん、面倒。なんでこういう人って始業式とかで喋りたがるんだろう。ちゃんと聞いてる人なんていないって。
「あ、そうだ。実は俺、その学長の話の内容を風の噂で聞いちゃったんだけどさ。なんか、ジュンさん退職するらしいぜ。」
「えぇ~!? あのジュン講師が? なんかあったの?」
「さぁ? でもなんか今入院中とかって聞いたぜ。もしかしたら、なんか事件に巻き込まれたのかも。」
佐山は深刻そうな顔で言う。しかしあのジュン講師のことだ。多分ケロッとした顔で帰ってくるだろう。あの人強いし。
「で、代わりの講師が来るとかなんとか? あ、でもあくまで噂だぜ?」
「へぇ~、代わりの講師ねぇ。その人、どんな人なの? 女性?」
「さぁ? 俺もそこまでは知らない。」
ふむ、実に興味深い話だ。佐山は恋愛ゲームで好感度を教えてくれる親友みたいなポジションの男。噂話にはめっぽう強い。きっと今回の話も独自のルートで仕入れた情報に違いない。
「あっ、先生来たぜ。また後でな。」
担任のセンコウ先生がやってきてホームルームを始める。そして始業式に向かい、話を聞いて、終わったらいつも通りの授業。また再びなんの変哲もない日々が始まる。こうして、俺の濃い夏休みは終わりを迎えたのだった。
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