第106話 奏明は俺に気があるか
「夏祭り、終わったな。」
人の去り行く夏祭り、俺達は焼きそば屋で駄弁っていた。もう夜も遅い。花火も終わったし、周りもどんどん店じまいをしている。
「まぁ、家で休んでるよりは楽しかったで。」
月明かりが燦々と俺達を照らしている。男3人、そして真夏の夜。なにも起こらないはずはなく、俺はおもむろに口を開いた。
「なぁ、ちょっと相談したいことがあるんだけどさ。」
「おっ、なんだ?」
「奏明って俺のこと好きなのかな。」
思えば、奏明はどうして夏祭りに、しかも1人で来ていたのだろうか。しかもわざわざ浴衣を着て。ただ祭りを楽しむために来たとも考えられるが、果たしてあいつがそんなことをするだろうか。さらに言えば、奏明が1人で出歩こうものならあのお兄ちゃんズが黙っているはずないのだ。だというのに、今夜彼らは一切姿を見せなかった。それはなぜか。それはもしかしたら、奏明は最初から、俺に会うつもりで――。
「ギャアーッハッハッハッハッハ!!! 安倍が、お前のことを……? プークスクス、おいおいおいおい、定気お前お笑い芸人の才能があるぜ!」
「んんwww常識的にあり得ーぬwwwあの鉄仮面が、しかもよりによって定気みたいな童顔イ○ポを好きになるわけないのですぞwww勘違いオタクも甚だしいwww.」
「ちょっと優しくされたからって勘違いしちゃあ、相手にも悪いぜ。自分を達観視してみろよ。そんなモテるタマじゃねぇだろ。鏡貸してやろうか?」
「ワイ将知ってるで。これが今話題のイキ告ってヤツやな。痛々しくて見てられんで。」
な、なんかすごい勢いでバカにされた!
「で、でもよぉ……俺添い寝も間接キスもしてるんだぜぇ……?」
「ファー! 妄想も休み休みしろよ。2000年代のラノベ主人公かよ。」
「今は2014年なんだが? 現代に戻ってきてもろて。」
2人に囲まれ、やいのやいのとおちょくられる。俺はずっと村育ちだったから分かんないけど、もしかして都会ではああいうの普通なのか? だとしたら俺の勘違いだったのかな。
「ふぃー、いやぁそれにしても定気も恋愛とか興味あるんだな。意外だよ。お前食欲しかなさそうな顔してるのに。」
「いやいや、俺だって普通に思春期男子高校生だぜ?」
「ほーん。タイプは?」
タイプか。奏明……は置いといて、それ以外の人だと……。
「ヒカリちゃんかな。」
「あぁ、あの4組の。あの娘可愛いよなぁ。そういや夏休み中にライブやるとか言ってたぜ。」
えっ、マジ? ライブやるの?
「そういう佐山のタイプは?」
「俺のタイプ? うーん、タワーリシチちゃんかなぁ。やっぱ和服似合うクール系美人ってよくね?」
タワーリシチさんか。そういやあの人最近見てないなぁ。帰省でもしてるのかな。
「ワイ将は当然風舞ちゃんやでぇ。」
「うわキッショロリコンがよ。」
「ろくに喋ったこともないのに名前呼びはどうなん?」
「悲報、ワイ将ボコボコに叩かれる。」
このようにワイワイと談義をしていると、ぞろぞろと集団が焼きそば屋の前に現れた。
「おーう、お疲れさん。」
現れたのは白市と砂原さん、それから江津一行達だった。
「そろそろ店じまいだ。片付けはみんなでやるぞ。」
それから俺達はテントを片付けた。力仕事は白市の得意分野だ。重たいはずの骨組みを、発泡スチロールでも扱うようにテキパキと折りたたんでいく。
「余った食材と売り上げ金はそこに置いといてくれ。テントと骨組みは、そうだな。江津、お前ちょっとこれ学園に返してきてくれ。」
白市は食材の入ったクーラーボックスを脇に抱え、売り上げ金を財布にしまった。そして折りたたみ式のイスも持つ。
「じゃ、今日はこれで解散だ。手伝ってくれてありがとな。」
「あの……売り上げ金ってワイ将らで折半なんじゃ……?」
暴君白市は哀れなるノブの叫びを無視し、そのまま片手をヒラヒラさせて砂原さんと一緒に去ってしまった。
「あ、悪魔や……。ワイらタダ働きなんか……? 労基行ったら勝てるでこれ……。」
「ま、別にいいじゃねぇか。屋台やるって経験ができただけでもさ。」
江津と他の男子達でノブを励ましながら、俺達は各々帰路についた。実家の者は実家へ、寮の者は寮へと。
「じゃ、残りの夏休み、お互いに楽しもうぜー。」
最後にそう言って俺も寮の自室へと戻った。真っ暗な部屋に電気をつけて、それから冷蔵庫を漁る。
「さて、明日からまたダンジョン攻略だな。」
「その様子だと、楽しめたようだな。なによりだ。」
「おう大魔王。あ、そうだ。大魔王はどう思う?」
「どう思うとは?」
「奏明って俺に気があると思う?」
大魔王は数秒ほど沈黙した。
「我には……人の心は分からぬ。」
大魔王には酷な話題だっただろうか。なんたって奏明は大魔王の天敵だもんなぁ。大魔王からすれば、俺と奏明が接触するだけでドキドキハラハラだろう。
「だけどさぁ、最近思ってたけどお前ってあんまり大魔王感ないよな。悪者って感じしないもん。」
「な、な、なんだと!? この大魔王デスミナゴロスを捕まえてなんということを言うのだ。」
大魔王はそう言って俺を胃の中から攻撃してくる。痛い。
「くだらないことを言っていないで、早く寝て明日に備えるのだ。夏休み明けまでにダンジョンを攻略せねばならぬのだからな。」
大魔王にしては言うことがいちいち真面目だ。まぁ、薄々感じてたけど、実はこいつ大魔王じゃない可能性とかも全然あるもんなぁ。自称大魔王とか。ま、正直こいつの正体なんてわりとどうでもいい。
「そうだな。早めに寝るか。」
こうして俺の夏祭りは終わりを告げた。そしてその夏休みすら、時期に終わりに近づいてきている。若干の名残惜しさを感じながら、俺は意識を夢の世界へと飛ばした。
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