第101話 焼きそば屋

「ここが俺の屋台ね。」


 白市に連れられ、祭りの屋台が立ち並ぶ道の一角にやってきた。そこにはなんの変哲もない焼きそば屋さんの屋台があった。


「ワイら、焼きそば作らされるために呼ばれたんか……?」


 ノブの言葉を無言で肯定した白市は、屋台の裏へと俺達を押し込む。


「これが麺の入ってる箱で、こっちは肉。野菜はカットしてあるのを持ってきてるからそれを使ってくれ。」


「やけに準備が早いな。まさか既にあらかた準備を済ませてやがったか。」


 白市は最初に、俺達に焼きそばの作り方をレクチャーしてくれた。難しいことはなにもない。ちゃちゃっと焼くだけだ。だが、ただそれだけではつまらないと思ったのか、白市は徐々に焼きそばに工夫を凝らしていく。


「いつかメニューは考えてあるんだ。まずこれが普通の焼きそば。」


 透明のパックに焼きそばを入れ、輪ゴムで封して出来上がり。なんてことはない普通の焼きそば。


「で、これは目玉焼き乗せ焼きそば。普通のヤツよりちょっと高い。」


 お次に出てきたのは目玉焼きの乗った焼きそば。美味しそうだ。


「で、こっちがピリ辛焼きそば。唐辛子をふんだんに使ったヤツ。」


 普通の焼きそばより赤みがかっていて発色がいい。香りからも辛さが感じられて食欲がそそられる。


「で、最後にチーズ焼きそばだ。どれもアレンジ自体は簡単だから、覚えることは少ないはずだ。」


 チーズが麺にいい感じに絡まった焼きそばも出てきた。美味しそう。食べちゃダメかな?


「お前ら的にはどれがいいと思う?」


「全部よさげじゃん。全部やろうぜ。」


 作るのも簡単だし、材料も普遍的だ。それにメニューが普通の焼きそば1品じゃ物悲しいし。


「それもそうだな。じゃ、お前ら3人に店番を頼む。俺らは買い出し行ってくるから。」


 こうして屋台を押しつけられた俺達は、夏のクソ暑い中ひいひい言いながら店番をする羽目になった。


「し、白市の奴……扇風機くらい用意しろっての……。」


 30分も経てばもう俺達はボロボロになってしまった。酷暑。圧倒的酷暑。風もないし、屋台のテントは薄くて日差しすら遮れていない。


「あ、いたいた。おーい、探したぜ。」


 死んだように椅子に座って店番をしていると、不意に声がかけられた。現れたのは江津と、他の1組男子生徒達だ。


「いやぁ、白市からいきなり集合場所の変更を言い渡されてよぉ。あれ、でもお前らなにやってるんだ? 屋台?」


 江津は金色のメッシュをピョコンと跳ねさせてそう言った。その様子を見た俺の脳内に電撃が走る。


「いやぁ、実はかくかくしかじかでぇ。」


「えぇ~!? 白市が俺達を呼んだのは店番させるためだったのか!?」


「そうなんだよ。でもよく考えたらこんだけ人数いるんだ。全員で店番する必要ってないんじゃないか?」


「確かに。」


「だからよ、バイトのシフトみたいに店番をする人をローテーションで交代していったらいいと思うんだ。」


「確かに。それもそうだぜ。じゃあここからは俺達が店番やるから、3人は休んでてくれよな!」


 クックック。江津は単純な奴だぜ。このままバックレてやる。


「おっと、そうはいかねぇぜ。」


 江津の許可を得て去ろうとした俺の前に現れたのは、なんと買い出しに行ったはずの白市であった。手にはビニール袋が握られている。


「ま、まさかもう帰ってきたのか!?」


「江津、こいつきっとバックレるつもりだぜ。こういう約束事はちゃんとやんなきゃダメだ。」


 なんの説明もなしに俺達を呼んだ奴のセリフとは思えない。


「ローテーションを決めるなら、2人か3人1組で回していこう。2時間くらいで回していけばちょうどいいはずだ。」


 白市は袋を置いてスマホをポチポチし始めた。


「ローテーションは専用のL○NEグループで管理する。バックレた奴は2学期席ないと思え~。」


 な、なんて恐ろしい。横暴だ! 自分は彼女とイチャイチャするくせによぉ~ッ!


「んで、ローテーションだけど最初は小優、佐山、紅がやれ。つうか他の奴には焼きそばの作り方教えてないんだから店番なんてできないんだし。」


 白市が来てからやいのやいのと状況が進み、結局俺と佐山とノブが最初の店番になってしまった。また、店番交代時には焼きそばの作り方もレクチャーしなくてはならないらしい。


「じゃ、俺はスナと祭り回るわ。」


「俺らも俺らで祭り回ってくるぜ。店番頼むな~。」


 こうして白市一行と江津一行は行ってしまった。


「なぁ、俺達ってなんかいっつもこうじゃないか?」


「白市の誘いに乗ったのが運の尽きやったってことやな……。」


 炎天下が俺達の頭皮を焼く。暑い。クッソ暑い。汗がダンラダンラと出る。


「ワイ将、ちょっと飲み物買ってくる。」


「じゃあ俺はコーラで。」


「俺は麦茶。」


 太っちょのノブは暑さに耐えきれなくなったのか、逃げるようにコンビニへダッシュしていった。正直俺もコンビニで涼みたい。だけどみんながみんな休むと店が回らなくなる。耐えねば。


「あれ、定気じゃん。こんなところでなにやっての?」


 上から聞き覚えのある声が聞こえた。顔をあげると1組の女子達がいる。そしてその中に、一際小さな彼女を見つけた。


「おっ、羽山じゃん。なにしてんのこんなところで。」


「それ、アタシが先に聞いたんだけど……?」

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