第97話 哲郎ブートキャンプ

「さぁ始まりだ! まずは貴様らのその染みったれた肉体を虐めぬいてやる!」


 運動しやすい格好に着替えた俺達は、国寺の家の地下に案内された。


「まずは俺と同じ動きを繰り返してみろ! イッチニッ、サンッシッ!」


「イッチニッ、サンッシッ!」


 国寺の筋トレは、奏明の家でやった筋トレとはかなり違った。アレは器具を用いた筋トレだったが、こちらは体ひとつで行う筋トレなのだ。ジャンプ、スクワット、腕立て伏せ。そういった動きを連続して行い、全身を動かしている。文字通りの全身運動なのだ。


「さすがに八英というだけあって、この程度ではへばらぬようだな。ならばさらに強度を高めていくぞ! イッチニッ、サンッシッ!」


「イッチニッですわ、サンッシッですわ~!」


 そう。これは筋トレというより運動と呼んだ方が適切だ。体を動かし息を切らしながら、ひたすら汗を流す。こういうのを有酸素運動って言うんだっけ?


「さぁ、ここで10秒間のインターバルを挟む! 今のうちにせいぜい深呼吸でもしておくことだな!」


 運動開始から約30分、普段使わないような筋肉を酷使したせいか、とんでもなく疲労する。なにより、時折挟まるこのインターバルがキツイのなんの。唯一の救いは、地下室のエアコンが常にいい感じのそよ風を送ってくれることだけである。


「キッツイですわ~! キッツイですわ~!」


「おっと、喋る暇があるなら体を動かせ! 最初と比べて動きのキレが落ちてきているぞ! そんなんで強くなれると思うな!」


 やはりステータスでは覆せない筋肉の差なのか、俺と金屋敷さんがへばってきても国寺はピンピンしている。たまに発破をかけてやる気を引き出さんとするだけの体力も残しているようだ。


「よし、そこまで!」


「お、終わりましたの……?」


「1分間のインターバルを挟む!」


「おデーモンですわ~!」


 以前、こんな話を聞いたことがある。筋トレ中のインターバルは休憩時間ではない。筋トレは加速し、インターバル中も筋肉の中では筋トレが行われている。インターバルはあくまで筋トレの重複を避けるものであり、決して楽をしようとしているわけではない。


「水は飲んだな! 俺の動きについてこい!」


 それが真実かどうか定かではないが、ひとつ分かることがあるとすればそれは、インターバルは普通にない方がマシとすら思えるくらいキツイ。当たり前だが10秒やそこらで息を整えることなどできるわけがない。必然的に、疲れは1ミリたりとも回復しない。


「いいぞ! やはり八英なだけある。まさか音を上げずに1発でクリアするとはな! 今の一連の動きが俺の普段やっているトレーニングだ。」


 時間にして約数十分でトレーニングは終了した。これが1セットで、国寺はそれを日々行っているらしい。


「い、い、息が……死にますわ〜!」


 トレーニングは辛い。とても苦しい。だが、奏明の家でやった特訓と比べるとまだマシだ。あるいはあのトレーニングで筋肉がついたのだろうか。


「ふむ。定気はまだまだ行けそうだな。普段からトレーニングしているようだ。」


「いやぁ、実はそうなんだよな。でも十分キツイよ。」


「俺もこのトレーニングを始めた頃は、すぐに倒れていた。ようやく最後まで完遂できたその日、〈身体強化〉を得たのだ。もしかするとこのトレーニングを完遂できた今のお前なら……。」


「生えてるかもしれない……ってことか。」


 俺はさっそくステータスを開いてみた。


 カクヨム






 前のエピソード――第92話 死の胎動

 第93話 山


 翌日。俺は山に来ていた。スーパー校舎から大型転移装置を使い、件の学園が保有する地にやってきたのだ。転移された場所は山小屋のような場所であり、パッと探索してみたところ電気も水道も通っている。さらに冷蔵庫にはたくさんの食べ物が入っていた。




「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ。」




 外ではセミが鳴いている。山小屋から出てみると、そこには圧倒されるほど大きな山があった。森のように木々が生い茂り、それでいて確かに傾斜がある。山だ。山以外のなにものでもない。




「しかもくっそ暑い。」




 山だからだろうか。ギラにいた時より暑い。なんかムシムシする。草木の青臭さが充満している。なんか、夏って感じだ。




「で、この山の中を調査すればいいんだっけ?」




 バンキング学長は山で修行するとなぜか強くなれるらしい。だが原因は不明。その理由を解明しなくてはならないようだ。とりあえず俺は山の中に入ることにした。




「うへぇ、整備されてない獣道があるよー。」




 なにか大きな生き物が通ったと思われる獣道があった。まぁ今の俺ならヒグマが出てきても勝てるが。でも怖いものは怖いよね。




「ところで大魔王いる?」




「いるぞ。どうした。」




「いやいや、どうしたじゃなくてさ。邪悪ミッションの報酬、まだもらってないんだけど。」




「おっとそうであったな。すぐに渡そう。」




 直後に腹が痛くなってきた。これももうすっかり慣れてしまった。さぁて、今回はどんなスキルが生えるかなー?




「よし、できたぞ。」




「どれどれ。ステータスオープン。」




 ■□■□


 定気 小優


 レベル1


 HP 100000/100000

 MP 1000/1000


 攻撃 108

 防御 114

 技術 79

 敏捷 56

 魔法 52

 精神 88


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除

 ・魔王化

 ・ドゥーン

 ・ゆうしゃのいちげき

 ・身体強化


 戦闘力 9110


 ■□■□


「ほ、本当に生えてる……。」


 スキルは特定の条件を満たすと生えることがあるってのは知っていたけど、まさかこんな簡単なことで生えるなんて。このトレーニング、全世界に公開した方がいいんじゃないか?


「ず、ずるいですわ〜! 私まだゲットしていませんのに〜!」


 へばっていた金屋敷さんは飛び起きると俺のステータス板を覗き込んできた。当然だが他人のステータス板は許可なしに見ることができないので、金屋敷さんは頬を膨らませた。


「金屋敷はまだまだ体力不足だからな。後でトレーニングメニューを渡しておこう。家でもやるといい。」


 それから俺と金屋敷さんは国寺からトレーニングメニューを渡された後、少し地下室で待っていてほしいと言い残し、どこかへ去っていった。

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