第94話 ダンジョンの洗礼

「はぁっ……はぁっ……、死ぬ……! 死ぬかと思った……!」


 ダンジョン侵入からものの10分。俺はダンジョンに分からされていた。


「やはり、まずは筋トレでステータスを増強するのが先のようだな。」


 ダンジョンの中は、オープンワールドゲーのような草原であった。なぜか空には太陽があって不思議な感じだった。あれはいわゆる迷宮型ダンジョンとは別のタイプのダンジョン、異世界型ダンジョンだ。


「ダ、ダンジョンってあんなにモンスターいるの?」


 草原の中には、そこには数えきれないほどの狼がいた。森の中で出会った、1万ドゥーンで倒せるあの狼だ。それが群れをなして草原を埋め尽くしていた。数は1000か1万か。あるいはもっといたかもしれない。


「さよう。でもあれまだ1層だから、もっと深い層になるともっとたくさんモンスターが出てくるぞ。」


 嘘だろ。アレより……?


「さっきはなんとか最大火力の〈リーサル・ドゥーン〉を群れにぶちこんで、混乱してるうちに帰ってこれたけど、もしかしてアレ全部どかさないとダメなの?」


「もちろんだ。」


「あの量に襲われたらさすがに死ぬが?」


「しばらくは〈リーサル・ドゥーン〉で地道に数を減らすしかない。しかし、剣だけで狼を倒せるようになれば、攻略は楽になるだろう。頑張れ。」


 1万ドゥーンぶち込まないと死なない狼を剣だけで倒す? 無理だろ。〈ゆうしゃのいちげき〉も使えないのに。


「無理だ……勝てるわけがないよぉ……。」


「ステータスの増強。それからドゥーンの最大保管数増加、ドゥーンの生産効率上昇。なにより〈魔王化〉を十全に使えるようになれば勝ち目はある。」


「〈魔王化〉……そういやあったなそんなスキル。あれなんなの?」


「我の力を引き出すスキルだ。以前はMPが足りなかったために使えなかったが、今であれば使えるだろう。もっとも、最初から力を制御できるわけではない。」


「力に呑まれるってこと?」


「蛇口のようなものだ。勢いよく開ければ溢れて止まらない。少しずつ開ければよいのだ。少しずつ、ゆっくりと。そうやって力を制御下に置く。そうすれば自ずと扱えるようになる。」


 うーん、正直分からない。


「試しに一旦使ってみていい?」


「ふむ、いいだろう。だが間違っても全開で発動しては――。」


「〈魔王化〉」


 ■□■□


 涼しい。心地いい風が肌を優しく撫でる。ずっとこうやって寝ていたい。あと2時間くらい寝ていたい。うーん、でも、あれ? 俺はさっきまで森の中に……。


「ハッ!?」


「目覚めたか。」


 起きたら目の前には気持ち悪い虫がいた。サソリのような形をしている。


「大魔王か……。ここは……?」


「山小屋だ。」


 山小屋か。


「もしかして気を失ってたのか?」


「もしかしなくてもそうだろう。」


「なんで?」


「制御しきれてない〈魔王化〉を使ったからだ。愚か者め。アレは人間が魔王の符丁を借りてその力を行使する、いわば一時的なアップデートなのだ。」


「どういうこと?」


「〈魔王化〉はそれだけ危険なスキルということだ。そもそも、このスキルはわりと普遍的なスキルなのだ。」


「普遍的……? 誰でも使えるってこと?」


「魔王と一切関わりのない人間が、ある日突然このスキルを生やすこともある。訓練で身につけることも可能だ。矮小なる貴様はこのスキルをなにか特別なものだと勘違いしているようだが、ただの一般的な強化スキルの最上位スキルなのだぞ。」


 一般的な強化スキルの最上位スキルなら普通に特別なものじゃん。


「本来、貴様のような脆弱な人間はMP不足で使えない。それを我が可能にしてやっただけだ。肉体も精神も、まだまだ〈魔王化〉を御すに値しない。」


「じゃあ結局使えないんじゃん!」


「だからこそ筋トレだ。〈魔王化〉を使うには、まずは十全な肉体が必要。次に力に呑まれぬ精神。最後にスキルコントロールだ。」


 大魔王はそう言うと、俺の腹の中に戻った。


「後者2つはひたすら〈魔王化〉を使っていけば自ずと身につく。大切なのは肉体だ。この山で、貴様にはとあるスキルを身につけてもらうぞ。」


「とあるスキル?」


「貴様も馴染みがあるだろう。筋トレを重ね、筋トレの極致にたどり着いたその時、人の身に宿るそのスキル。名を〈身体強化〉。」


〈身体強化〉!? それって国寺が使ってたスキルのはずだ。アレ、筋トレしたら生えてくるの!?


「だが、先日の勇者の家で行った筋トレ。あれでも宿らぬとなると、他にも条件があるのやもしれぬ。」


「じゃ、じゃあどうするんだよ。」


「矮小なる人間よ。人という字は支えあって作られている。スキルを得たいのであれば、そのスキルを持つ人間に教えを乞うのが手っ取り早い。」


 それって……国寺に会いに行けってこと!?


「幸い時間ならあるだろう。」


 いや、あるけどさぁ。俺、国寺の連絡先とか知らないよ? あいつ帰省してるんじゃないの? 知らんけどさ。


「ただ闇雲にやっても事態は解決せぬ。ひとまず、今日は休め。MPもカツカツだろう。」


「確かに。まぁ夏休みって長いし、ゆっくりやろうか。」


 とはいえ、本当にどうやって国寺にアクセスすればいいんだよ……。

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