第93話 山

 翌日。俺は山に来ていた。スーパー校舎から大型転移装置を使い、件の学園が保有する地にやってきたのだ。転移された場所は山小屋のような場所であり、パッと探索してみたところ電気も水道も通っている。さらに冷蔵庫にはたくさんの食べ物が入っていた。


「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ。」


 外ではセミが鳴いている。山小屋から出てみると、そこには圧倒されるほど大きな山があった。森のように木々が生い茂り、それでいて確かに傾斜がある。山だ。山以外のなにものでもない。


「しかもくっそ暑い。」


 山だからだろうか。ギラにいた時より暑い。なんかムシムシする。草木の青臭さが充満している。なんか、夏って感じだ。


「で、この山の中を調査すればいいんだっけ?」


 バンキング学長は山で修行するとなぜか強くなれるらしい。だが原因は不明。その理由を解明しなくてはならないようだ。とりあえず俺は山の中に入ることにした。


「うへぇ、整備されてない獣道があるよー。」


 なにか大きな生き物が通ったと思われる獣道があった。まぁ今の俺ならヒグマが出てきても勝てるが。でも怖いものは怖いよね。


「ところで大魔王いる?」


「いるぞ。どうした。」


「いやいや、どうしたじゃなくてさ。邪悪ミッションの報酬、まだもらってないんだけど。」


「おっとそうであったな。すぐに渡そう。」


 直後に腹が痛くなってきた。これももうすっかり慣れてしまった。さぁて、今回はどんなスキルが生えるかなー?


「よし、できたぞ。」


「どれどれ。ステータスオープン。」


 ■□■□


 定気 小優

 レベル1


 HP 100000/100000

 MP 1000/1000


 攻撃 108

 防御 114

 技術 79

 敏捷 56

 魔法 52

 精神 88


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除

 ・魔王化

 ・ドゥーン

 ・ゆうしゃのいちげき


 戦闘力 8933


 ■□■□


「あれ……スキル増えてない。だけどMPがめちゃくちゃ増えてる。」


「さよう。これでMP切れを気にせず戦えるぞ。」


 うーん、いやぁ、それは嬉しいんだけどなぁ。できれば新しいスキル欲しかったなぁ。


「ま、いっか。次の邪悪ミッションはよ出して。」


「そんなにポンポン出せるものじゃない。しばらく待て。」


 やっぱりそっかー。まぁ仕方ない。夏休みは長いし、ちょっとくらいなら待ってやるか。


「それにしてもこの山……矮小なる人間よ。気をつけた方がいい。」


「気をつけた方がいいって……なにに?」


「気配がする。モンスターの気配だ。」


 えっ、モンスターがいるのこの山?


「多分、近くにダンジョンがあるのだろう。そこからモンスターが溢れ出たのかもしれん。人里離れた地ゆえ大事にはいたっていないが、早めに対処した方がいいだろうな。」


「マジか。じゃあ当面の目標はダンジョンの攻略かな?」


「ダンジョン最深部にある核を破壊すればダンジョンは消える。それを目指すのだ。管理されていないダンジョンほど危険なものはない。それにこれはチャンスでもある。」


 確かに。普段モンスターと戦う機会なんてないしな。羽山もモンスターと戦って強くなったのかな。


「つうか俺、正直ある程度〈リーサル・ドゥーン〉が連発できるようになったからもう剣とかいらないんじゃね?」


「そうはいかん。剣は持っておけ。役に立つ。」


 大魔王はやたらと剣や筋トレを薦めてくる。なんでだろうね。


「おっと、矮小なる人間よ。さっそくモンスターが出てきたぞ。」


 目の前の木々の陰から、わりと大きめの狼が出てきた。高さだけで俺と同じくらいはある。


「〈リーサル・ドゥーン〉」


 とりあえず5万ドゥーンくらいをぶつけてみた。狼は音爆弾によって弾け飛び、赤い染みになってしまった。


「弱っ。」


「油断するでない。早く失ったドゥーンを回復しておくのだ。いつモンスターが襲ってくるか分からぬ。」


 神経質だなぁと思いながら、俺は〈ドゥーン・リロード〉でドゥーンを補給して先に進んだ。


 しばらくするとまた同じようなモンスター達が出てきたので〈リーサル・ドゥーン〉で突破していく。一応、どんなモンスターも1万ドゥーンくらいで死ぬと分かった。それくらいならすぐに補給できるため、サクサク前へ進める。こうして1時間ほど山を登っていると、少し開けた場所に出た。そこには大口を開けた洞窟がある。


「ダンジョンだ。」


「ダンジョンだな。教科書で見たことある。」


 こういう洞窟は大抵ダンジョンだ。全てのダンジョンが洞窟であるというわけではないが、洞窟はほとんどダンジョンなのだ。


「矮小なる人間よ。アドバイスをしておこう。ダンジョンの中ではできるだけ〈リーサル・ドゥーン〉を使わずに進むのだ。」


「えっ、なんで?」


「ダンジョン攻略は消耗戦だ。おそらく、〈ドゥーン・リロード〉を使う暇もないだろう。」


「さすがに大袈裟だって。前に潜った時はそんなにモンスターいなかったぞ。」


「あれは学園が管理していたからであって……。」


「大丈夫、大丈夫だって。俺強いもん。心配しなくてもいいよ。」


 俺はなぜか不安げな大魔王を宥め、洞窟の中へと潜った。

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