第89話 人造人間戦(9)
「大丈夫ですか!?」
俺は金髪の女性に駆け寄った。
「あはは、マジウケる~。なんかヤバい感じ?」
笑っていやがる。なんて呑気なんだ!
「怪我は……なさそうですね。ここは危険なので隠れましょう。」
「なになに~、守ってくれる感じ?」
屋内よりは屋外の方がいいのかな。視界は確保しておいた方がいいはずだし。市民の避難なんて学校の授業じゃやらないから分かんないぜ。
「ひとまず、人造人間から見えない場所……路地裏に行きます。」
金髪ギャルの手を引っ張り、路地裏に押し込んだ。路地裏の先には安藤さんが出した半球の壁がある。少なくとも奥の方から襲撃される心配はない。
「俺はここから安藤さんの支援をします。あなたはじっとしていてください。」
「ウケる~、写真撮ろ。」
スマホを取り出してパシャパシャし始めた。この人今の状況分かってるのか?
「SNSにあげちゃお。」
ひとまず、人造人間の動きは安藤さんのスキルで止まっている。俺はここで女性を保護していないといけないから、安藤さんの方へ行くことはできない。じゃあ今の俺にできることは……。
「〈ドゥーン・リロード〉」
それは高速でドゥーンを生産する俺の考えた必殺技だ。〈リーサル・ドゥーン〉は一気にドゥーンを消費してしまうため、1発しか使えないという弱点がある。それを補うのがこの〈ドゥーン・リロード〉だ。ドゥーンの生産に集中することで6秒かけて1万ドゥーンを補充できる。戦闘中では隙が多くて使えないが、こういった場合にはドゥーンを素早く補充する唯一の方法として役に立つ。この前の特訓で編み出したのだ。
「つか、お兄さんってギラの人~? アタシ見てたよ中継~。」
緊張感がない! あの人造人間の攻撃って一般人が喰らえば間違いなく即死する威力だぞ!? なんでこの人こんなに呑気なの!?
「静かにしててください。人造人間に気づかれたらまずいですよ。俺はやたらと頑丈なだけで他の人を守れるほど強くは――。」
「そっち行ったぞ!」
鋭い声。俺が会話に夢中になって目を離していた隙に、人造人間は安藤さんの攻撃を振り切ってこっちにやってきていた。なんで一般人にヘイトが向いているのかは分からないけど、とにかくここは守らなくては。
「〈リーサル・ドゥーン〉」
1万ドゥーンを右手に集めて握りこむ。〈広域動体視力強化〉のおかげで人造人間の動きは見える。飛翔してきた人造人間の腹部に、思いっきり拳を叩きつけ、〈リーサル・ドゥーン〉を発動した。1万しか使っていないため、さっきより威力は落ちるが、それでも人造人間を壁に叩きつけるくらいの威力は出た。
「よくやった!」
壁に叩きつけられた人造人間はすぐさま立ち上がろうとする。その間約0.5秒。しかし安藤さんはその僅かな隙を逃さなかった。人造人間の足元に向けて七色の魔法を放ったのだ。それは爆発を伴って人造人間にダメージを与える。
「くっ!」
俺は金髪ギャルを庇った。爆風だけでHPがゴリゴリ削られているのが分かる。かなりの高威力。そもそもあれだけ多種多様な魔法を使えること自体がとんでもない。
「これで終わらせる!」
安藤さんは空に飛び上がっていた。そして重力を利用し、そのままカバンを人造人間に叩きつけたのだ。するとそこから青白い光が溢れ出る。それをもろに喰らった人造人間は目に見えて動きを鈍くした。
「今の一撃で私の持つ217連勤分の疲労をぶち込んだ。ダメージも相当蓄積していたはずだ。もう動けまい。」
人造人間は立ち上がろうと足を踏ん張る。が、体を僅かに浮かしただけ。足から生えているパイプからは水蒸気が絶え間なく噴出しているが、勢いは弱々しい。完全に無力化されている。そんな人造人間の背中に安藤さんは足を置いて、カバンからトランシーバーを取り出した。
「こちら安藤。対象の確保に成功した。」
すげぇ、これが公安かぁ。強いしカッコいい!
「それにしても、スキル持ち人造人間か。私もそんなに見たことがない。おかげでコレを使う羽目になった。」
安藤さんはカバンの中からトゲトゲしたボールのような物を取り出した。
「もしかして、武装ですか?」
「そうだよ。でも使い捨てだ。そのわりにコストが高いから使いたくないんだよね。ちなみにこれはスキルの力を金属に練り込むことで、刺した対象にスキルを発動させるタイプの武装アイテムね。」
なるほど。じゃあおそらく、あのトゲトゲボールには、スキルの発動を阻害するスキルみたいなのが練り込まれてるってことか。そういうのもあるんだなぁ。
「今仲間の公安に連絡したから、すぐに応援が来る。」
いつの間にか周りの半球状の膜はなくなっていた。人造人間を制圧したから解除したのか。
「ここからは公安のお仕事だ。定気くんに事情聴取したいことは色々とたくさんあるんだけど……とりあえず今日のところは私がなんとかしておくから。心配しなくていいよ。」
「じ、事情聴取っすか?」
「うん。ギラの学生さんと言っても、普通は人造人間なんて存在知らないはずだからね。そりゃあ私もギラの方でなにが起きてどういう教育してるのかは知らないけど、人造人間の存在はそれこそAランク級の人間にしか教えられないことになっている。それを君が知っているのはおかしいよねって話。」
うぐ……、そこを突っ込まれると痛いな。学園で起きた出来事は世間には知らされていない。逆に言えば学園で起きた魔王やら人造人間やらは世間に知られちゃまずいことなんだ。
「君とはまた会えるだろうし、その時またゆっくり話を聞くことにするよ。その女の子は君が安全な場所まで連れていってあげて。」
でも安藤さんは見逃してくれるらしい。安藤さんの口ぶりから察するに、学園と冒険者ギルド、そして公安は常に互いの情報を全て共有しているわけではないらしい。安藤さんは俺が魔王と遭遇したことも他の人造人間と遭遇したことも知らない。だけどこの戦闘で俺を信用して見逃してくれようとしているんだ。
「分かりました。では、またどこかで。」
俺は安藤さんに軽く挨拶をしてから、金髪ギャルをその辺まで送り届けた。その後、リーリエさんにDMして、今日のデートは中止することにした。人造人間に服をボロボロにされた挙げ句、財布までどっかに行ってしまったのだ。デートなんてできない。というか、スマホが無事だっただけ奇跡である。なんで画面が割れるだけで済んでるんだよ。すごいな、最新のスマホの耐久性。
「はぁ……なんかドッと疲れが……。」
結局財布は見つからず、夕暮れ時になって俺は寮へと戻った。市街地戦は慣れてなかったからか、異様に疲れている。こうして俺の2回目の人造人間戦は幕を閉じた。
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