第86話 出会い系アプリ

 スマホで適当な出会い系アプリに登録した。なんか顔写真とか貼らなきゃいけないらしい。とりあえずインカメでパシャリした。


「つうか名前も顔も世間に知られてるから普通に高校生ってバレるじゃん。」


 詳細な情報をポチポチと入力。そうしていると、すぐに2件もダイレクトメッセージが届いた。八英戦で全国放送されてるから知名度バフがえぐい。


「なんか明日にでも会いませんかって来たよ。」


「善は急げだ。会え。」


 とりあえず早かった方に明日会うことになった。出会い系アプリって使ったことなかったけどこんなポンポン行くもんなんだなぁ。とりあえず明日会う人のプロフィールだけ確認して寝るかぁ。


 ■□■□


 翌日。午前9時頃、俺は学園近くのカフェに来ていた。俺の前には髪の長い女性が座っている。推定20代。


「えぇっと、今日はよろしくお願いします。」


 プロフィールを見た感じ、結構多趣味な人みたいだ。


「休日はカフェ巡りをしてるんですか?」


「下腹部抉りィィィィィィ!!! キェェェェェイイイイ!!!」


「え、えっと……後は音楽鑑賞……。」


「女苦鑑賞ォォォォォォォォ!!! キェェェェェイイイイ!!!」


「あ、あとそれ以外だと読書……。」


「毒手よォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」


 最初の人はこんな感じだった。どうも馬が合わなかったため午前で解散とさせていただいた。時間が空いたので次にメッセージをくれた人に、今から会えないかアプローチをかけた。すぐに返事が来て、午後から会うことになった。とりあえずカフェで軽食を爆食いして時間を潰す。


「次の人のプロフィールは……。」


 趣味は書いていない。職業も書いてない。顔写真は貼ってあるが、かなりボカしてある。かなり謎な感じだ。まぁ自分をさらけ出すのが怖いって人もいるよね。


「すみません。定気さん、ですか?」


 時刻にして13時過ぎ。俺は女性に声をかけられた。薄水色の可愛らしいワンピースを着た女性だ。とても若そう。下手したら俺と同い年くらいに見える。


「はい。もしかして……。」


「はい。リーリエです。今日はよろしくお願いします。」


 彼女はリーリエという名前で、ロシア出身らしい。タワーリシチさんと同郷だ。珍しいこともあるもんだなぁ。


「リーリエさんは趣味とかってありますか?」


「趣味は動画投稿サイトに沸くバカガキとレスバをすることです。」


「とても素敵な趣味ですね。」


 かわいい。なんというか、聖女のような笑みだ。きっと気高くて立派な心の持ち主に違いない。


「あと、最近はそこら辺の虫を凍らせて遊ぶのにもハマってます。」


 そう言って彼女は人差し指を立てた。するとその先にパキパキと氷が発生する。


「おぉ、スキルですか。すごいですね。」


「いえいえ。私のスキルなんてそんなにすごいものではないですよ。ただ、スキルのコントロールにはちょっと自信があります。」


 そのまま指先から出した氷を自在に操り、猫ちゃんの彫像を作ってみせた。伸びをする猫ちゃんだ。表情や毛並みまできっちり再現されている。


「いやいや、めちゃくちゃすごいですよ。俺でもこんな繊細なことできませんし。」


「でもでも、定気さんのスキルはどれも強力なものばかりじゃないですか。私、八英戦見てましたよ。すっごくカッコよかったです。」


 うへぇ、照れる。心が浄化される。これが出会い系アプリなのか……。


「そ、それほどでもぉ……。」


「いつか会いたいなって思ってたので、アプリで見つけた時にはビックリしてすぐにDM送っちゃいました。」


 知名度。やはり知名度バフ。俺みたいな平凡以下の人間が女の子からチヤホヤされるには知名度しかないんだよなぁ。八英って最高だなぁ。


「あ、そうだ。もしよければこの後ショッピングとかどうですか? 実はこの辺りにオススメのブティックがあって。」


「おぉ、いいですね。ぜひ行きましょう。」


 ブティック? ブティックってなんだ? まぁリーリエさんかわいいし、いっか。楽しみだなぁ。


「じゃあさっそく行きましょう。」


 お会計を済ませ、カフェから出てリーリエさんに着いていくこと約10分。俺は活気ある繁華街を歩いていた。道中、リーリエさんと色んな話をした。


「ところでリーリエさんっておいくつなんですか?」


「ふふ、内緒ですよ。」


 うーん、やっぱりダメか。かなり若く見えるんだけどなぁ。


「あ、着きましたよ。ここです。」


 リーリエさんがそう言って足を止めたその時だった。


「キャアアアアアア!」


 悲鳴。咄嗟に聞こえた方を見る。そこには頭から血を流して倒れている男性と、異形の姿があった。そしてその異形に、俺は見覚えがあった。


「人造……人間……?」


 あの皮膚と筋肉を無理矢理結合し、縫い合わせたような姿はまさしく人造人間だ。しかし前回戦った奴とはフォルムが違う。今目の前にいるのは前の奴より痩せていてスマートな感じがする。


「ッ! まずい!」


 人造人間は倒れている男性の頭を鷲掴みにし、車ひしめく道路に放り投げた。突然飛んできた男性を回避しようとした自家用車が、対向車線の方に曲がる。すると今度はその車に対向車線側の車が激突。再び大きな悲鳴が上がる。後続の車は停止し、一瞬で渋滞が完成した。


「逃げてくださいリーリエさん!」


 俺は瞬時に、人造人間のヘイトを買うという判断を下した。人造人間のパワーを考えれば、一般人なんて簡単に殺せる。だがあの人造人間は男性を殺さず道路に放り投げた。その目的はおそらくこの渋滞を作り出すこと。そして目的が達成された人造人間は次の行動に移るだろう。


 作り出した渋滞に向けての範囲攻撃。人間を効率よく殺すための作戦行動。憎たらしい。


「そうはさせるかよ!」


 俺は人造人間に〈上下左右・上〉を付与し、地面に手をついて〈切除〉を発動した。

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