第84話 異界の勇者
朝食を終えた俺は屋敷の中をブラブラしていた。どうやら今日は地獄のようなトレーニングをしなくてもいいらしい。オフというヤツだろう。
暇だったので広大な屋敷を探索することにしたのだ。プール、温泉、カラオケ、サッカースタジアム。屋敷の中にはなんでもある。ありすぎだろってくらいある。なんで家の中にサッカースタジアムがあるんだよ。
そんなこんなで時刻はあっという間に12時。そろそろ昼ご飯にしようかと思い、近くにあったレストランに足を運んだ。どうして屋敷の中にレストランが複数あるのかは定かではない。
「おや、昼食かね。」
レストランの扉を開けると、ちょうど奏明のお父さんが出てきた。
「はい。えっと、お父さんはもう食べられたんですか?」
「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないよ。」
だって名前知らないんだもん!
「私の名前は
「あ、はい。それで天海さんはもう昼食済んだんですか?」
「あぁ。ちょうどさっき終わってね。君と話をしたいのも山々だが、この後冒険者ギルド本部とのリモート会議が控えていてね。済まないが失礼させてもらうよ。」
彼は立派な口髭をピョコンと跳ねらせて言った。忙しそうだったので引き留めるのは躊躇われたが、俺はどうしても聞きたかったことを聞くことにした。
「異界の勇者って知りませんか?」
異界の勇者。初出は大魔王との会話だ。大魔王デスミナゴロスを打ち倒したとされる者の名前。そのままの意味で捉えるならば、異世界から来た勇者ということだろう。勇者の一族であれば異界の勇者についても知っているかもしれないと思い、俺は聞くことにした。ちなみにあのネットニュースのことはさすがに聞く勇気はなかった。
「ほう、異界の勇者を知っているのかね。」
天海さんのダンディな顔に驚嘆が浮かんだ。
「それは私の父だ。」
は?
「懐かしいな。かつて魔王を打ち倒した者の1人とされている。一族にとっても非常に誇らしい御方だ。もう亡くなってしまわれたがね。」
ちょいちょいちょい。
「あの……異界の勇者って異世界から来た勇者のことじゃないんですか?」
「違うよ。異界という二つ名を持っていた勇者だから異界の勇者だ。戦場を自分の有利な地形に変える戦法を好んでいたから、その様子を異界になぞらえてこう呼ばれるようになったんだ。」
ちょいちょいちょいちょい大魔王さん? 聞いてます? あんためちゃくちゃ騙してますやん俺のこと。
「今やその名を知っている者は少なくなってしまったからね。久しぶりに聞いたよ。ひょっとしてファンなのかい?」
「え、えぇ……まぁそんなところで……。」
「そうかい。天国の父も喜ぶよ。」
そう言って彼は去ってしまった。
「マジかよ。」
大魔王に問いただしたいことはたくさんある。だがここで呼び出せば多分即殺魔王の鍋パーティーだ。それに呼び出した俺の命も危ない。大魔王との会話は帰ってからにしよう。
しかし、なんだ。まさか異界の勇者が奏明の祖父だったなんて。しかも天海さん、魔王を打ち倒した者の1人って言ってたよな。それってどういうことだ? 情報に齟齬がある。異界の勇者は1人で大魔王デスミナゴロスを倒したわけではない? というよりは、魔王が複数いて、異界の勇者はその1体を倒しただけってこと? いや、それは違うだろ。だって奏明は魔王が複数いることを知らなかったんだし。それに、これまで魔王という言葉を出れど、大魔王とはひと言も聞いていない。そもそも魔王と大魔王の違いってなんだよ。
なにが本当でなにが嘘なのか分からない気持ちのまま、俺は昼食を摂った。ステーキを焼いてくれたので8枚くらい食べた。まだ筋肉痛で体を動かすのも億劫だ。あんまり食べられない。口内炎がある時もこんな感じだ。
そして昼食を終えた昼過ぎ、俺は奏明とバッタリ合流。彼女は屋敷にある映画館から出てきたところだった。なんで屋敷に映画館があるんだよ。
「よっ。なに観てきたの?」
「恋愛映画。」
なんでまたそんなものを。恋愛とか興味なさげな顔してるくせに。
「最後には主人公とヒロインが戦って主人公が死ぬの。」
すっげぇネタバレされたけど逆に興味が湧いてきた。それ本当に恋愛映画か?
「定気はなにしてたの?」
「屋敷の中を見て回ってた。ここなんでもあるんだな。」
「うん。私の家だもん。」
すごいよ。多分この屋敷に閉じ込められても1年は退屈しないよ。なんならデスゲームを開催しても全然快適に過ごせるよ。
「夕方頃には帰りの車を手配してる。それまで一緒にいよ?」
「あぁ。1人だと味気ないしいいぜ。」
「じゃあ図書館に行こう。着いてきて。」
この屋敷、図書館もあるの……? もう町じゃん。
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