第81話 勇者式トレーニング

 こうして地獄の特訓が始まった。


「さぁ出せ! 毎秒〈ドゥーン〉を出し続けるのだ!」


 トレーニングルームでは常にドゥーンという重苦しい音が鳴っている。めちゃくちゃうるさい。が、奏明兄達の声はそれよりもっとうるさい。


「スキルは使えば使うほどに強くなる。〈ドゥーン〉を常に吐き出し続ければ、〈ドゥーン〉の生産速度も上がるだろう。また、〈ドゥーン〉の熟練度が上がればさらに溜め込むこともできるようになるはずだ。」


〈ドゥーン〉を出し続けるというのはなかなか奇妙な感覚だった。普段はこんなことできない。〈ドゥーン〉はわりとうるさいのだ。寮ではもちろん、訓練場の個室でも使うのは躊躇われる。そのため〈ドゥーン〉の使用回数は他のスキルと比べるとかなり少ない。そのため、熟練度も他のスキルよりは低い。熟練度とかいうシステムがあるのかは知らないが。


「そして! そもそも貴様はステータスが貧弱! よって鍛えろ! 筋トレだ! 筋肉がないとなにも始まらないぞ! さあバーベル500キロ!」


 無理だ! という抗議の声は押さえつけられ、俺は〈ドゥーン〉を出しながら500キロの鉄の塊と格闘していた。〈ドゥーン〉を使うだけでもわりと神経使うのに!


「いいか。冒険者というのは持久戦だ。基本的にモンスターとの戦いでスキルは使わない。MPを消費するからな。迫り来る多くのモンスター共相手に、いちいちスキルを使っていたらすぐに枯渇する!」


「だからこそ〈ドゥーン〉を攻撃に使えるのは強みになる。〈ドゥーン〉はMP消費がないからな。しかし今の君は〈ドゥーン〉の放出を意識的に行っている。それでは戦闘中の隙になる。無意識で常に〈ドゥーン〉を使えるようになるんだ。」


 む、無意識でって……さすがに無理じゃないか? スキルって、使うぞ! って思わなきゃ使えないじゃん。


「体に覚えさせるということだ。一朝一夕で身につくものではない。」


「とにかく今はその状態を維持しながら筋トレだ! 何キロまでなら持てるんだ貴様。限界を超えろ。それが筋トレだ!」


 そんな感じで筋トレをした後、次はトレーニングルームの一角にある謎の装置に押し込まれた。


「これは疑似戦闘装置だ。」


「学園にある疑似戦闘場みたいなもんすか?」


「あんな片落ちと一緒にするな。これは脳内で擬似的な戦闘を反復させ、体に動きを染みつかせる装置なんだ。1時間で60回はモンスターとの戦闘を反復できる。」


「俺達としてはダンジョンに潜った方が鍛練になるが、ダンジョンを使えない日はこれを使っている。」


「とはいえ、モンスターの強さをいきなり最大にしては鍛練にならない。まずは戦闘力10000のモンスターとの戦闘を100回、やってみようか。」


 なんだか恐ろしい言葉が聞こえた。俺は急いで装置から脱出しようとしたが、素早く装置の扉が閉まる。そして微かな電流と、目の前に映し出されるVR映像。俺の頭に電極のようなものが刺さり、体が勝手に動き出す。


 目の前の映像には悪魔のような外見の見たことないモンスターが映っている。そいつが俺に攻撃してくる。俺の体は痙攣し、俺の意思に沿ってVR映像は攻撃を回避した。どうやら俺の思考が目の前のVR映像に反映されるらしい。だが、俺はこの間頭に刺さった電極からとんでもない苦痛を流し込まれている。


「た、助けて! 死ぬ! 殺される!」


 まさに拷問。うかうかしていると悪魔の攻撃によりVR映像はプッツリ途切れる。かと思いきや再び映る。そしてまた戦闘開始。既に俺の意思でVR映像が動くというより、VR映像の動きにより俺の意思が変えられるような感覚だった。


 そうこうしているうちに解放される。息が詰まるような思いだった。ちなみに悪魔にはほとんど勝てなかった。


「まだ素のステータスが低いな。」


「筋トレだ。筋トレしかない。」


「ひ、ひぇぇ~。」


 そして筋トレ。今度はランニングマシンを走らされる。


「筋肉! 筋肉! どうした、〈ドゥーン〉が止まっているぞ!」


 ランニングマシンの後は筋肉痛になるまでスクワットをさせられ、かと思うと腕がちぎれるくらい腕立て伏せをさせられた。正直泣きそう。だが誰かに強制させられることで普段より強度な筋トレができたのは事実だった。


「では再び疑似戦闘装置だ。」


 筋トレ、疑似戦闘装置、そして筋トレ。この流れを何回か繰り返し、俺の体はボロボロになった。体だけではない。疑似戦闘装置により、普段ではあり得ない数の戦闘をこなしているため、精神も限界だった。


「ふむ。そろそろ昼食にするか。終わったらまたこの流れを繰り返す。」


「あの……もう体も精神もボロボロで……これ以上やると本気で死にます……。」


「大丈夫だ。この屋敷には蘇生魔法があるからな。死ぬことはない。」


 じ、人権がない! エグすぎる筋トレだ。体は死ななくても心が死ぬわ!


「さぁ、まずはともあれ飯だ飯! 1番近いレストランに行くぞ。」


 こうして俺は長いようで短いトレーニングを休憩し、昼ご飯を食べた。ちなみに屋敷の中にレストランがあってビックリした。飯は泣くほど美味かった。

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