第79話 勇者の血族
「そうか。つまり君は奏明のお友達、ということだね。」
父親の提案の下、俺と奏明の家族は広い応接間に集まることになった。そして俺達は家族に説明をした。
「あらやだ、そうだったのね。オバチャン、てっきり家族の敵かと思っちゃったわ。」
奏明の母親も説明に納得し、すっかり塩らしくなっている。
「私達家族は少し、ほんの少ーしだけ、奏明のこととなると周りが見えなくなってしまうタチでね。非常に申し訳なく思うよ。」
少しってレベルじゃないが。危うく食卓に並ぶところだったよ、俺。
「しかし、わざわざただの友達である彼を連れてきたのにはなにか理由があるのだろう? 訳を話してくれないか、奏明。」
確かに。どうして俺は連れてこられたんだ?
「実は、定気が〈ゆうしゃのいちげき〉を習得したの。」
「!? 今、なんと……?」
「〈ゆうしゃのいちげき〉を習得しただと!? あり得ない。あれは勇者の血族にしか使えないスキルのはずだ!」
あ、そうなんだ。だから俺が習得した時、奏明あんなに驚いてたんだね。
「やり方を簡単に教えただけですぐに習得した。父さんと母さんなら、どうして習得できたのかを知ってるかもと思って連れてきたの。」
そういうことだったのか。
「……まずは、使ってみせなさい。ただ似ているだけのスキルという可能性もある。」
安倍の父親は立ち上がると、右手で聖剣を出して俺に寄越した。そのスキル、父親も使えるんだね。
「じゃ、じゃあ……。」
俺は近くにあった壺を対象に設定。聖剣を掲げ、その先に光を集める。
「〈ゆうしゃのいちげき〉」
聖剣は光の剣へと変化した。応接間を明るく照らしている。
「こ、これは……。」
「間違いないわ。勇者の家系に代々伝わる必殺技よ! だけど、まだ奏明と同じで未成熟ね。」
「奏明に習ったのならそれもそうだろう。しかし、これはあり得ない話だ。勇者の家系以外の者がこのスキルを宿すなど。」
「いや、考えられる可能性が2つあるよ。」
ここまで目立った活躍のない片目隠れこと安倍 静来。彼はメガネをスチャッとしながら立ち上がった。
「1つ。彼に勇者の血が混じっている可能性。」
「それはあり得ぬ。勇者の家系の者は全て名前を把握している。遠い親戚でもな。しかし彼の名字は聞いたこともない。」
「いや、輸血とかで物理的に混じった可能性もあるよ。ほら、母さん献血マニアだったでしょ。」
「それはそうだけど……。それで使えるようになるもんかしら……。」
「ちょっと待ってください。俺、今まで1回も輸血なんてしたことないっすよ。両親からそういう話も聞いていない。」
「なら2つ目の可能性だ。勇者の遺伝子を取り込んでいる可能性。」
あれ? それさっき否定されたじゃん。
「具体的には、勇者の血族の身体の一部、皮膚や髪の毛を食したなどだ。通常そういった手段で遺伝子を取り込むことはできないらしいが、ステータスやスキルという概念が日常にあるこの世界だ。なにが起きても不思議ではない。」
た、確かに。しかしそれじゃあまるで……。
「なるほど。確かにお父さんも学生時代は好きな女の子の抜け毛を拾って食べていた。その可能性なら十分にあるな。」
気持ち悪い! こいつら一家揃って気持ち悪い!
「定気、私の髪の毛食べたの?」
「食べるわけないだろ!? こんな変態と一緒にするな!」
クソッ、危うく俺が変態にされるところだった。
「まぁ……、人の趣味に口を出す気はないが。あまり人の気分を害すような行為はやめた方がいい。」
「お前それ自分の父親に言ってみろよ!」
「ま、私の場合その時髪の毛食べてた女の子が今のママなんだけどね!」
「あらやだ、パパったら。」
もう嫌! 俺この家族嫌だ!
「しかしそうでもなければ説明がつかない。」
「なぁ兄貴。ステータスやスキルって概念があるんだ。なにが起きても不思議じゃない。だったら全く血筋から外れた人間がスキルを使えても、それは不思議なことではないんじゃないか?」
よく言った筋肉ダルマ! そうだそうだ! 人の悪評を振り撒くのはやめろ!
「ふぅーはっは! 確かにそうだね。雷騒は賢い子だ。とりあえず今はそういうことにしておいてやろう。」
しておいてやろう、じゃなくてね。
「ふむ。しかし、いつまでそのまま剣を振り上げているのだね? 早く下ろしたまえへ。」
「いや、あの、それがですね。」
「定気はステータスが低すぎて剣が振り下ろせないの。」
奏明はそう言って俺の手に手を重ねてくる。あ、ダメです。今ここでそれをやったら俺が死ぬ。
「大丈夫だよ。力、抜いて?」
抜けるかァーッ! あーっ、殺意! 殺意がビンビン伝わってきます!
「剣を振り下ろせない? だったら、オバチャン直々にその両腕へし折ってくれるわァーッ!」
「ギャーッ! た、助けてェーッ!」
こうして一悶着ありながらも、俺は波乱の顔合わせを乗り越えたのだった!
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