第78話 波乱の安倍家
俺は見つかってしまった。奏明を愛する3人のシスコン共に。
「えっと、奏明の同級生の定気 小優です。」
ここは第一印象が大事だ。なるべく機嫌を損なわないように……。
「な、名前呼びだと……!?」
あ。やべ。
「そぉぉぉぉぉうめぇぇぇぇぇぇい! これは、これはどういうことぬぁんだぁぁぁぁぁぁ!?」
「そ、そそ、奏明が、か、かか、彼氏を連れてきた!?」
「あ、あり得ぬ。あり得ぬ。あり得てはならぬ! 俺の愛する奏明を、どこの馬の骨とも知らぬ童ごときに……!」
殺意。それは人間が感じ取ることのできる、数少ない感情の1つ。聖書では、原初の殺人者は石で人を殺したらしい。人を殺すのに、道具や環境は関係ない。ただ意志があればいいのだ。意志さえあれば、人は人を殺せる。
「許さん。」
「許されぬ。」
「許されざることよ。」
シスコンブラザーズは俺ににじりよってくる。俺は命の危機を感じた。ここにいてはいけないと、肉体が全身全霊で警鐘を鳴らしている。このままでは殺される……!
「お兄ちゃん、やめて。定気は私の大切な人なの。」
その言葉でシスコン共は動きを止めた。
「定気……?」
「そうか、奏明は名字呼びか。」
「つまり奏明にはその気がない……?」
そういえば、確かに奏明は俺のことを名前で呼んでくれない。まぁ俺だって白市とか、佐山とかは普段から名字呼びだし。そういうのは雰囲気というか、流れみたいなもんなんだろうけどさ。まぁ気にはしちゃうよね。
「いやー、はっは。早とちりしてしまったよ。そうかそうか。君は妹のご友人なんだね。いやぁ失敬した。」
胡散臭いシスコンはタキシードの襟を直しながら、俺に胡散臭い笑顔を向けた。
「僕の名前は
胡散臭い男は白い手袋を外すと、握手を求めてくる。仕方ないので応じてやる。
「いや、すまない。普段はこう冷静さを欠いたりしないのだが。私は次男の
片目隠れも握手を求めてくる。仕方ないので応じてやる。彼の手は同性のはずの俺の手よりずっと小さく細かった。頭脳タイプか?
「俺も思わずカッとなっちまったぜ。まあ許してくれや。
筋肉ダルマも握手してくる。しかし他の2人より強く手を握り込んできた。どうやらまだ信用されていないようだ。
「そしてこれが我らの愛する妹、安倍 奏明。いやぁ、なんと素晴らしい名だ。なんとこの名前は俺達兄弟が考えてつけた名前なんだぞ。」
と自慢げに言う胡散臭いシスコンもとい安倍 快晴。普通こういうのって親が考えるものでは?
「いやー、はっは。それにしても奏明が久しぶりに実家に帰ってきてくれた。今日は宴だな。」
「ああ。今日という日を私達は楽しみにしていた。」
「奏明、今日はお兄ちゃん達と寝よう。」
気持ち悪さが止まるところを知らない。青天井。天元突破だ。
「定気、とりあえずこの人達は無視して父さんと母さんのところに行こう。」
「おいおい奏明。無視とは酷い。酷いじゃあないか。お兄ちゃんは悲しいぞぉ?」
「我々は世界でも数少ない血縁。無下に扱うことはできないはずだ。」
「というか、電話をすればいいではないか。父上も母上もすっ飛んでくるに違いないぞ。」
そうか、電話だ。普通に帰ってきたよーって言えば来てくれるだろう。盲点だった。
「それはダメ。父さんも母さんもお兄ちゃん達より厄介なんだから、初動を間違えたら終わる。」
こ、この変態シスコンブラザーズよりも厄介!? い、いったいどんな親なんだ……!?
「だから電話を使ったら即逆探知からの即飛んでくる。それで定気とエンカウントしたら……。」
「エンカウントしたら……?」
「血祭りパーティーになっちゃう。」
血祭りパーティー!? ま、まさかそんなことが……!
「し、仕方ない。血祭りパーティーは嫌だからな。お兄さん方は両親がどこにいるかとか知らないんですか?」
「貴様にお義兄ちゃんと呼ばれる筋合いはない!」
「話が通じない……!」
奏明はこの家庭でどうやって育ってきたんだ……?
「じゃあよ、執事さんに協力してもらってどっかの部屋に呼びつければいいんじゃないか?」
筋肉ダルマこと安倍 雷騒は鼻をほじりながら言った。確かにそうだ。さっきから1番バカそうなこいつが唯一アイデアを出している。人は見かけによらないなぁ。
「それもそうだね。さっそく執事さんに連絡を――。」
その時だった。突然爆発したかのように屋敷の壁が吹き飛び、破壊された。
「愛娘の匂いがするわァーッ!」
現れたのは40歳くらいのオバチャン。しかしその顔は狂気に染まっている。
「帰ってきていたのねェーッ!? おかえり、奏明ィーッ!」
ほとばしる黄金の気。見えないはずのパワーが可視化されるほど溢れている。見ただけで分かる。この人、めちゃくちゃ強い。
「ただいま母さん。今ちょうど探してて――。」
「奏……明……? その横の男の人は……どなた……?」
ま、またこの流れ。今度は失敗しないぞ……。
「初めまして。俺は――。」
「おいおい母さん。妹が男を連れ帰ってきたんだぜ? 見れば分かるだろ?」
俺の言葉に被せるように、胡散臭いシスコン、安倍 快晴がとんでもない発言をかました。それを聞いた奏明の母親の顔は悪辣邪鬼のように膨れ上がる。
「みんな……今夜は……人肉鍋よォーッ!!!!!」
溢れでる黄金の気が一点に集束し、オバチャンの体は爆発するように俺に向かって飛んできた。
「やめるんだ母上!」
そこに筋肉ダルマが割って入る。が、張り手1発で押し退けられてしまった。外見からは想像できないほどのフィジカル。俺は死を覚悟した。しかし――。
「ママ、そこまでだよ。」
列車の如く暴走するオバチャンを止めたのは、老年の男性だった。彼は理性的な瞳で俺達を見回した。
「みんな落ち着きなさい。一旦話し合おう。血祭りパーティーはそれからでも遅くはないはずだ。」
父親だろうか。優しそうな人だと思ったけど、どうやらこの人も俺のことを血祭りパーティーにする気らしい。
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