第74話 閉幕八英戦

「す、ステータス……。」


 恐る恐るステータス画面を開いてみた。


 ■□■□


 定気 小優

 レベル1

 HP 100000/100000

 MP 40/40


 攻撃 44

 防御 68

 技術 36

 敏捷 12

 魔法 39

 精神 48


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除

 ・魔王化

 ・ドゥーン

 ・ゆうしゃのいちげき



 戦闘力 7023


 ■□■□


 スキル一覧の中に、そのスキルはあった。


「は、生えてる……。習得してる……。」


「まさか〈ゆうしゃのいちげき〉を習得するとは思わなかった。多分、勇者の家系以外では初めての使い手だね。おめでとう。」


 り、理解が追いつかない。スキルってこんなに簡単に習得できていいものなの? つうか戦闘力1000くらい上がってない? スキル1つ得ただけで? マジ?


「普通、スキルってこんなポンポン手に入りませんよね。」


「うん。そうだね。」


「じゃあなんでこんな簡単に生えてきたんですか……?」


「さぁ?」


 クソッ、もう原因不明だよ。こうなったら生えちまったもんは仕方ない。自分の力にしていくしかない。


「〈ゆうしゃのいちげき〉って、これどうやって使うんだ? 普通に振り下ろそうとしてもかなり固かったぞ。」


「力不足だね。」


 力不足。


「ステータスが足りてないんだよ。鍛錬すれば使えるようになる。」


 マジかよ。やっぱり何事も鍛錬かぁー。


「すぐに使えるようになるわけではないんだな。まぁ、仕方ないよな。どうせ今使えてもMP足りないだろうし。」


「〈ゆうしゃのいちげき〉はMP消費しないよ。」


「じゃあなにをコストにして使ってるんだよ。」


「元気、とか?」


 元気……っすか。


「だから使いすぎには注意ね。あ、でもたくさん使わないと威力があんまり出ないかも。」


 どっちだよ。


「本当は〈かいしんのいちげき〉か〈つうこんのいちげき〉を教えたかったんだけど、それを覚えたならもう大丈夫だよね。」


「他の2つは教えてもらえない感じですか?」


「うん。私だって負けたくない。」


 なるほど。これ以上敵に塩は送らないと。

 

「本当ならここで最後の八英戦をしたかった。だけど、定気が嫌なら仕方ない。」


 嫌っていうか、勝ち目がないんすよ。分かってくださいよ。俺今剣も持ってないんすよ。


「じゃあ、まぁ、帰るか。」


「うん。そうだね。」


「送るよ。家どっち?」


「こっち。着いてきて。」


 こうして、俺達の八英戦は終わった。俺はベスト4、奏明は優勝といった結果だった。


「そういやまだ言ってなかったっけ。優勝おめでとう。」


「ありがとう。私にとっては路傍の石だよ。」


 新八英となった俺は、きっとこれからもっと色んなことを体験するだろう。八英はその学年を代表する人物。気を引き締めなくてはならない。


「でも奏明、さすがに優勝者インタビューのアレは引いたぞ。お前もっと言葉選べよ。」


「私おかしなこと言ってた?」


 奏明はこんな奴だが、わりと根はいい奴だ。呼んだら駆けつけてくれるし。それに1組の雰囲気も前よりずっといい。みんな奏明のキャラを掴めてきた証拠だ。


「まぁ、いっか。で、奏明の家って、もしかして目の前に見えるあの超巨大な豪邸だったりする?」


「うん。あれは私だけの別荘。」


 この数ヶ月、なんやかんやあったがわりと楽しく過ごせている。命の危機とかもありはしたけど、結果生きてるわけだしモーマンタイだよね。


「私の実家はこれより広いよ。」


「マジかよ。既に俺の寮の10倍以上は絶対にあるぞ。」


 突如として村を失い、バンキング学長に拾われてこの学園に入学したわけだけど、かなり充実している。そりゃあ、今でも家族を失ったことは信じられない。正直、まだどこかで生きてるんじゃないかとすら思っている。


「じゃ、私はここだから。送ってくれてありがとね。」


「おう。じゃあな。」


 しかし、失ったものだけではない。環境が変わって、友達を得た。いじめられることもなくなった。なにより力を手に入れた。プラマイで言えばわりとプラス。もちろん、父さんや母さんのことを考えると悲しい。だけどその気持ちは既に整理をつけてある。


「定気。」


「ん、どうした?」


「定気は、私の味方だよね。」


「当たり前だろ。寝ぼけてんのか? もう行くぞ。」


 だが。この整理されて咀嚼されきった過去に、今日、亀裂が入った。バンキング学長の言っていた、俺の知らない俺。普通に考えて、そんなものは存在しないはずだ。俺は物心ついてからの過去を全て覚えている。当然だ。だから俺の知らない俺なんて存在しないはずだ。だが、バンキング学長はどうやら俺の知らない俺を知っている。回復酔いについてもそうだ。俺は回復酔いなんて概念、今日初めて聞いた。村では一切、聞かなかった。


 俺の頭の中に、仮説がよぎる。俺は暗示か催眠術かにかけられていて、過去の記憶を奪われているのではないか? その記憶が戻った時、俺の真の力が解放されるのではないか? 端から見れば思春期男子の妄想。だが、今の俺には、そういった陰謀めいた思案が、わりと現実を見抜いているような気がしてならないのだ。


「大魔王は、俺のこと知ってんのかな。」


 返事はない。大魔王もよく考えれば訳の分からない存在だ。なんで俺に取り憑いたのだろうか。なんでこうもよくしてくれるのだろうか。頭の中で答えのない疑問がグルグル回る。


 俺はそのまま寮に戻った。こうして、俺は自分自身に不信感を抱いたまま、眠りに就いたのだった。

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