第70話 休憩

「ぐわぁ〜ッ! ま、負けたァ〜ッ!」


 1組待機テント。そこで俺は泣いていた。もうすぐ決勝だったにもかかわらず、なにもできずに敗北した。こんな情けない負け方があってたまるか。


「小優、お前は頑張ってたよ。実際八英にはなれたじゃねぇか。」


 慰めてくれる白市。そういや白市も不定ちゃんに負けてたんだっけ。白市の仇を取りたかったぜ……クソ……。


「そ、そうやで。そんな落ち込むことないんやで。」


「ベスト4じゃないか。すごいことだよ。」


 うう、みんなの優しさが心に沁みる……。


「いやぁ、しかし1組から八英が4人も出るとは思わなかったよな。男女比もちょうどいいし。」


「ひょっとすると、1組は他の組より優秀なんと違うか!?」


 元々、7人いた八英を6つのクラスに分けたわけだから、八英が2人いるクラスは生まれる。それが1組で、その1組にたまたま俺と羽山がいた。ただの偶然だろう。しかしラノベやアニメでも、1組が他の組より優れているという描写がある。多分お約束ってヤツなのだろう。


「それにしても、定気はいいよなぁ。八英になって、カッコいい二つ名ももらって。さぞかしモテるんだろうなぁ! おい!」


「モテるって……八英ってモテるの?」


「当たり前だろ! 白市なんて告られた回数2桁はあるぞ!」


 それは白市の顔がいいからでは?


「それにほら、羽山だってもう女子グループに馴染んでんじゃん。あれが八英の力だよ。」


 確かに、少し離れたところで羽山が女子達とキャッキャウフフしている。久しぶりの登校だってのに、もう溶け込んでいやがるのか。


「じゃあ、やっぱり他の八英もモテるのか?」


「そりゃあそうだろう。安倍だって、別のクラスの男子に告られてるの何度も見たぜ。」


 えぇ、それはなんか嫌だな。


「ちなみに結果は?」


「言わなくても分かるだろ。アイツが誰かと付き合うようなタマに見えるか?」


 それもそうだな。


「おいおい、話してる間に件の勇者さん、勝っちまってるぜ。」


 ワッと大きな歓声。リングには膝をついて両手を挙げるヒカリちゃんと、それを涼し気な顔で見下す奏明の姿があった。


「いやぁ強い。やはり強いですねぇ、安倍さん。さすが現・勇者といったところでしょうか。」


「先ほどの試合もそうでしたが、彼女と戦う選手は皆、戦闘力10000以下。つまり3倍以上の戦闘力差があるのです。これでは勝てないのも当然ですよねぇ。」


 おぉ、煽りよる。しかし実際俺も、俺の2倍の戦闘力を持つ不定ちゃんに手も足も出ずに敗北したわけだし、それも仕方ないことなのかなぁ。


「ここまで準決勝を行ってきました。次が、いよいよ、最後の決勝戦です!」


「決勝戦は20時からスタートだよね。それまで休憩の時間とするよね。」


 おお、休憩か。実はちょうどお腹減ってたんだよな。


「よし、誰かなんか食べに行こうぜ。」


「いいぜ。行ってやろう。」


 白市!


「ワイ将を置いていくのは勘弁やで!」


 ノブ!


「俺も忘れてくれるなよ。」


 佐山!


「やはり学食か。いつ出発する? 俺も同行しよう。」


 江津!


「目指すは食堂。すぐにも出発だ。行くぞ!」


 こうして俺達は5人で学校の食堂に向かった。この学校での飲食は食堂が主だ。外出届けを出せば学外にも行けるが、面倒なので大抵の学生は食堂でご飯を済ませる。とはいえ、普段の夕飯は自炊がほとんど。夜に食堂を使う機会なんて、これまでなかった。


「なんだかテンション上がるなぁ~。」


 外はかなり暗くなってきている。いつもとは違う雰囲気を楽しみながら、俺はチンジャオロース定食をいただく。


「やっぱりみんな食堂で食うんだな。」


「そりゃな。安いし。美味いし。」


 確かに学生価格だから自炊するより安いし、ちゃんとコックさんが作っているので自分で作るより美味しい。


「あ、でもほどほどにしとけよ。決勝戦終わったら1組で打ち上げあるから。」


「マジ? 聞いてないけど。」


「今言った。」


 白市ィ、報連相は大事なんだぞ。


「ちなみに打ち上げは焼肉屋だから。」


「焼肉かぁ。ワイはタンが好きやな。」


「俺はロース。定気は?」


「食えるとこ全部。」


「ちょっと前から思ってたけどお前結構量食うよな。」


 そりゃあ、男子高校生だもん。


「あ、打ち上げでは新八英になった小優にスピーチしてもらうから、準備しとけよ。」


「ハァ!? 聞いてないが!?」


「今言った。」


 白市ィェアアア!!!


「そう怖い顔すんなって。あーあ、本来ならスピーチするのは俺だったかもしれねぇのになー。」


「トラお前、次からはちゃんと対空技用意しとけよ。」


 江津、対空技持ってなかったのか。じゃあ羽山には勝てないよなぁ。


「クッソ~、ダンジョンの中でなら絶対俺が勝ってたぜ。地上は俺のテリトリーなんだ。」


 ほへぇ、近距離強いタイプか?


「ところでワイ将気になってたんやけど、定気と江津ってどっちが強いんや?」


「「普通に俺だが???」」


「おっ、シンクロした。」


「「は?」」


「おいおい、睨み合うのはいいが、そろそろ20時になるぜ。とっとと食って試合見に行こうぜ。」


 む、それもそうだな。大事な決勝戦だ。見ないわけにはいかない。


「ちょっと待ってろ。すぐに食う。」


 俺は白米とチンジャオロースを胃に流し込む。もちろん、きちんと味わってから。


「よし、食った!」


「早いなぁ。俺もとっとと食わねば。」


 こうして俺達はささやかな食事を終えた。この後に控えるのは、もちろん決勝戦。不定ちゃんと奏明の戦いだ。ワクワクするなぁ。

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