第69話 六角のヴァリアブル戦(2)
不定ちゃんの服のポケットから、練り消しのような灰色の塊が飛び出してきた。それは分裂し形を変え、六角形の板になった。それが6つ、不定ちゃんの周囲を周回している。
「また武装かよ。強い奴が強い武装使うなんて反則だろ!」
俺は地面に手をつき、〈切除〉を発動した。不定ちゃんの足元の地面が隆起し、その衝撃で彼女は弾かれる。そして浮いた彼女は付与された〈右〉の効果で、そのまま右方向へ引っ張られる。
そのまま場外で勝利……とはならなかった。引っ張られていた不定ちゃんが空中で停止したのだ。その場で少しよろけながらも、彼女はいたって冷静に空中浮遊を続ける。
「……そういうスキルか。」
「そ。ボクの〈サイコキネシス〉だよ。任意のものを浮かせたり引っ張ったりできる。衛星もこれで操っているんだ。」
任意のものを浮かせたり引っ張ったりできる!? 俺の〈上下左右〉の上位互換じゃねぇか。嫌になるぜまったくよー!
「君のスキルによって掛かる力と逆の方向に引っ張ることで、空中に留まっているんだよ。まぁつまり、そのスキルはボクには効かないんだ。」
いや、それは違う。多分。俺の予想が正しいのなら、まだ〈上下左右〉には使い道がある。むしろ常に浮いてくれるのなら、浮かせる分の〈切除〉を使わなくていいからMPの節約になるぜ。
「ボクに場外勝ちは狙えない。そして君にボクは殺せない。」
「やってみねぇと分かんねぇだろ。」
「分かるさ。ボクは白市の攻撃でもダメージを一切受けないほどの防御力を持つ。」
白市の攻撃でもダメージを受けない!? じゃあ無理じゃん!
「ま、そういうことだから。」
彼女が手を振り上げると、六角形の衛星が俺に襲いかかってくる。剣で弾こうかとも思ったが、それより避けた方が楽だと思い、回避に専念することにした。
衛星のスピードは大したことない。武装とはいえ所詮この程度か。
「〈光線の照射〉」
と油断していたら、衛星の中心から光線が放たれた。しかも6つ同時に。俺はその攻撃に対応できず、体に6つの穴が開いた。
「いってぇ、クソ、なんだこれ。」
スキルか? いやスキルだな。武装の能力の可能性もあるか? いや、とにかく今はダメージの確認を……6000近く削れてやがる。1発1000ダメとかふざけてない?
「まだまだ行くよ。」
衛星は形を変え、槍のように鋭利になった。それが先ほどよりも速く突撃してくる。1本、2本と避けたが、その後に続く4本の槍に串刺しにされてしまった。
「〈光線の照射〉」
串刺しになった槍は、俺の体を抉るように回転しながら、光線を放ち内臓を焼いた。地獄のような苦痛が俺を襲う。そのまま槍は再び六角形の衛星に戻り、べっとりとした俺の血を地面に垂らしながら不定ちゃんの下に戻った。
「うん。前の試合を見てても思ったけど、やっぱり硬いね。HPが多いタイプなのかな?」
「だったらどうした!」
痛みに耐えながら地面を〈切除〉で切り離し、それに〈上下左右・上〉を付与。浮かぶ足場を作った。それに乗り、空中で余裕をかましている不定ちゃんに近づく。
「近接戦は得意じゃなくてね。悪いけど逃げさせてもらうよ。」
「そうは行くか!」
俺は不定ちゃんに付与していた〈右〉を解除し、新たに〈上下左右・左〉を付与した。それにより掛かる力の方向が変わり、逃走しようとしていた不定ちゃんはコントロールを一瞬失う。
だが、俺はさらに追撃を加えた。〈上下左右・左〉を解除し、今度は〈上下左右・上〉を付与。そして次は〈下〉、次は〈右〉と、〈上下左右〉を連続で使用した。これで〈サイコキネシス〉を使って動こうにも、引っ張られる方向がどんどん変わるから結果として動けない。
「今だ!」
その隙を狙って、俺は跳んで剣を振るった。ギリギリ不定ちゃんの首筋に剣の切っ先が届く。
〈サイコキネシス〉を〈上下左右〉の連続使用で完封し、武装の強力な攻撃を高いHPで耐えた。そして俺の体重が乗ったジャンプ斬り。〈リーサル・ドゥーン〉が使えない今の最大火力の攻撃だ。
「くたばりやがれぇーッ!」
俺はこの前の恨みも込め、全身全霊で剣を振るった。そして不定ちゃんの首を斬り飛ばした。
斬り飛ばしたはずだったのだ。俺の手には、にゅるりとした感触があった。なんと振るった剣が不定ちゃんの首を貫通、通り抜けたのだ。彼女の首は黒光りするヌメリのある液体に変わっていた。剣で液体が斬れるはずがない。
「〈液体化〉。ボクに物理攻撃は効かないよ。」
「それは反則だろ……。」
物理攻撃無効なら、〈リーサル・ドゥーン〉がない俺には、いや〈リーサル・ドゥーン〉があったとしても倒すことはできない。あれもれっきとした物理攻撃だからだ。つまり、魔法が使えない俺に不定ちゃんを倒すことはできないのだ。
〈サイコキネシス〉を使える相手に場外勝ちは狙えない。物理攻撃しか攻撃手段がない俺はダメージを与えることもできない。つまりこれは――。
「詰み……か。」
「そゆこと〜。」
俺は落下する。彼女の眩しい笑顔を見ながら。そして衛星から放たれる無数のレーザーに焼かれながら。そして地面に激突すると、一際大きなレーザーに押し潰され、HPを全損した。
「定気くんの蘇生リングが発動がしました。よって、勝者ヴァリアブルさん。」
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