第67話 勇者vs黄金
しばらくすると、俺は体が動くようになってきた。
「目が覚めたか。」
ずっと覚めてましたが。
「覚えているか? 試合終了直後に倒れたのだ。回復酔いが原因だろう。しばらく安静にしていればすぐに治る。」
回復酔い……回復酔いか。本来は幼少期に克服しているようなものなんだよな。でも俺、回復酔いなんて名前自体、さっき初めて聞いたぞ。俺の村ではそんな話一切聞かなかった。どういうことだ?
「ていうか、どうして回復酔いが起きたんだ? 試合が終わってから俺、回復魔法なんて受けてないのに。」
「多分、症状が遅れて出たのだろう。一般的に回復酔いは30分から最大1日ほどかけて発症する。試合中でなくてよかったな。」
本当だよ。試合中になってたら負けてたじゃねぇか俺。
「呼吸は安定。会話も可能だ。回復魔法をかけてやるから、それが終わったらもう行って大丈夫だぞ。」
「回復魔法、俺に使っていいんですか?」
「回復酔いのことを気にしているのか。心配するな、大丈夫だ。回復酔いは一度発症すれば克服する。」
「免疫みたいなものができるんですか?」
「体が魔法やスキルによる回復に慣れるんだ。ステータスやレベルといった概念に適応するとも言える。まぁだからといってなにかが大きく劇的に変わるわけではないが。」
ほへぇ、そうなのか。てことは今まで俺ってステータスやレベルに適応できてなかったの? レベルが一切上がらないのも、もしかしてそのせいじゃね?
「よし、今の話の合間にHPを全快しておいた。引き続き励めよ。」
「あ、はい。頑張ります。」
メアリー婦人に感謝を伝え、医療班のテントから出る。その時、上空のドローンモニターが映し出す映像に、釘付けとなった。
「凄まじい攻防だァーッ! 八英ランキング4位、黄金の金屋敷さん! 持ち前のスキルで目にも止まらぬラッシュラッシュラッシュゥーッ!」
めちゃくちゃ金ピカな衣装に身を包んだ、縦ロールの女生徒が、これまた金ピカな剣をものすごい速さで振るっている。
「が! それら全てを弾く、弾く、弾く! まったく通しません! どういうことだ! これが勇者の力なのかーッ!?」
その金屋敷と呼ばれた彼女と対しているのは、見慣れたクリーム色の髪を持つ生徒。彼女は煌びやかな聖剣を、これまたものすごい速さで振るっていた。
「オーッホッホッホッホ! ワタクシの剣撃を上回るなんて、普通にチートですわ~!」
スッゴい高貴な口調からスッゴい俗っぽい単語が飛び出した!
「とはいえ、ワタクシも引くつもりはございませんことよ!」
金屋敷さんは手に持っていた黄金の剣を投げた。するとそれは一瞬で金塊になり、かと思うと意思を持っているかのように動いて人形になった。
「〈黄金の従者〉ですわ~。お行きなさい!」
〈黄金の従者〉と呼ばれたその人形は、約2メートルほどの大きさ。そいつは俊敏に奏明に近づくと、その顔面に向けて右ストレートを放った。
「〈かいしんのいちげき〉」
が、奏明が僅かに腕を動かすと、その〈黄金の従者〉の体は真っ二つになった。遅れて小気味いい音が聞こえる。
「ならばこうですわ!」
金屋敷さんはすぐに反撃に出た。切断された〈黄金の従者〉が再び金塊に戻ると、今度は槍のようになって奏明を襲う。と見せかけて、軌道を変えて金屋敷さんの手元へ戻ってきた。
「小細工は無駄。〈ゆうしゃのいちげき〉」
「〈黄金の鏡盾〉」
槍が巨大な盾となり、金屋敷さんを包む。そこに聖剣から放たれた光が突き刺さった。
防いだかのように見えた。しかし、直後に黄金の盾がポロポロと崩れ、中から瀕死の金屋敷さんが現れた。
「対象指定攻撃ですって……!?」
「そ。だから無駄なんだよ。」
対象指定攻撃。授業で聞いたことがある。対象を指定してから放つタイプの攻撃で、対象以外には一切ダメージを与えず貫通するのだとか。人間の体を傷つけず、内部の悪性腫瘍を破壊するのにも使われているらしい。
「ですが、これほどの威力のものは初見ですわ。」
対象指定攻撃は防御貫通の一面を持っているため、対象指定攻撃の威力は必然的に低くなる。だが、奏明の〈ゆうしゃのいちげき〉はとんでもない威力のスキルだ。普通に規格外なのだ。
「で、もう終わり?」
「まだまだですわ〜! お死にになって〜!」
崩れた黄金が再び金塊に戻り、今度は巨大な波になって奏明を襲う。
「いやぁ素晴らしい戦いですね。金屋敷さんのスキルは〈黄金操作〉と〈黄金強化〉。名家ならではの財力で取り揃えた黄金の防具と純金の延べ棒で戦うスタイルが特徴的です。」
「対する安倍選手は勇者の称号を持っているらしいよね。勇者というと歴代全員がSランク冒険者に匹敵する強さを持っているとされているよね。魔王を打ち倒したことでも有名だよね。」
やっぱり勇者って全員強いんだなぁ。
「金屋敷さんも決して弱くはないのですが……この試合、あまりにも一方的ですね。」
黄金の波は一瞬で奏明に切り刻まれ、塵になった。しかしすぐに金塊に戻ると金屋敷さんの下に帰った。
「金屋敷選手の戦闘力は9970。対して安倍選手の戦闘力は30000。数値にして約3倍だよね。まぁ普通に考えて勝てるわけがないよね。」
「実況解説がうるさいですわ〜! お黙りになって〜!」
金塊は薄く広がると壁のようになり、奏明と金屋敷さんの間にそびえ立った。視界を塞いでお互いがお互いを視認できないようにしたのか。
「対象指定攻撃は、対象が見えていないと使えないのですわ〜!」
「だからなに?」
奏明は足を踏み出し、黄金の壁に向かって剣を振るおうとした。が、それより早く、金屋敷さんは動いた。
「〈黄金の従者〉ですわ!」
壁の後ろから、黄金の従者が3体現れた。さっきより幾分かサイズが小さめだ。質を落として数に注力したのか。
「〈ゆうしゃのいちげき〉」
奏明は手前の従者を光の剣で葬る。しかし残った2体が彼女に接近した。
「〈ゆうしゃのいちげき〉」
再び剣を振るい、従者の1体がほとばしる光に包まれる。その従者の体はボロボロと崩れ、なんと中から金屋敷さんが現れた。
「対象指定攻撃は対象以外にはダメージを与えないスキルですわ。あなたはワタクシを覆う黄金を対象にしてスキルを放った。つまり中のワタクシはノーダメですことよ!」
そのまま金屋敷さんはお嬢様とは思えない腰の入ったフォームで、奏明の腹に拳を振るった。
「〈黄金の一閃〉ですわ〜!」
ただのパンチからは想像もできない風圧が発生した。スキルの乗った高威力の一撃。だがそれを喰らった奏明は、2,3歩後退しただけに留まる。
「やっぱり普通にチーターですわ〜!」
「〈ゆうしゃのいちげき〉」
そのまま金屋敷さんは光の柱を浴び、吹き飛んで気絶した。
「準々決勝第4試合、勝者安倍 奏明。」
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