第65話 羽山 風舞戦(7)

「アタシのバトルヒーリングスキルにより、1秒につきHPが……結構……わりと……たくさん回復する。あんたの攻撃力じゃ、何時間やってもアタシを倒すことはできないよ。」


「嘘だね。さっきお前、自分で〈聖魔法〉って言ってただろ。つまりHPの回復にもMPが必要なんだろう? じゃあ斬り続けてればいつかは勝てる。」


 とは言ったものの、多分羽山MP多そうなんだよなぁ。消耗させてるとは思うんだけど、総量が未知数だから勝ち目があるかどうかすら分からない。


「じゃ、試してみようか。アタシのMPとあんたのHP。どっちが先になくなるか。」


 羽山は再び光剣を手にする。しかし俺の剣は羽山の足元にある。


「まずは剣を取り返す!」


 1歩踏み出す。そして突進……に見せかけて〈切除〉で地面を畳み返し&サイコロステーキ。


「〈上下左右・左〉」


 サイコロステーキにした地面に〈左〉を付与。そして俺は右を向く。そうすることで地面は羽山の方へ流弾となって飛んでいく。


「手数が豊富だこと!」


 羽山は対抗して〈聖魔法〉の乱れ撃ち。


「そういやお前にはこれ見せてなかったよな。〈上下左右・左〉」


〈聖魔法〉の光弾に〈左〉を付与。そして俺は右を向いているので、光弾はそのまま羽山の方へ帰っていく。


「くっ……!」


 自分の魔法を浴びる気持ちをあとでインタビューしてやろうと決めた俺は、羽山が怯んだ隙に距離を詰める。


「素手で近接勝てるとでも!?」


「まずは〈切除〉で武器を壊す!」


 羽山の振りかざしてきた光剣に、俺は手を伸ばした。そしてそれに触れて――。


「〈切除〉!」


「したいならしていいよ。」


 羽山の光剣は崩れる。だが、羽山は自分の背中を使って巧妙に隠していた、もう1つの剣を俺に突き立てた。


「これは……俺の……!」


「あんたがウェポンブレイカーなら、自分の武器も破壊してみなさいよ。」


 そうか、そうだった。羽山は武器を自在に作れる。だが俺はそうじゃない。だから俺の剣を破壊してしまえば、羽山は圧倒的に有利になる。いや違う。そもそも俺の剣が奪われていること事態、羽山の有利なんだ。奪い返すのは至難の技だぞ。


「クソが!」


 再び剣が来る。今度は的確に目を狙ってきた。腕で防御はできた。だが痛い。下手をすれば骨ごと折れるぞ。


「クソが!」


 そもそも。そもそも、ここで剣を取り戻してどうする? 俺の攻撃力じゃあ致命傷を与えられない。MP切れを悠長に待つ? 無理だろ。俺のHP、多分あと3割くらいしかないぞ。被弾しすぎた。本来なら、一撃一撃が人を簡単に殺められる威力のある攻撃なんだ。先に限界を迎えるのは、羽山のMPではなく俺のHP!


「クソがぁぁぁぁぁ!」


 斬られる。斬られるだけ。打開策がない。攻撃は無意味。ダメージレースは圧倒的に差をつけられた。もう無理だ。


「もう……無理か……。」


 絶望的だ。勝ち目がない。〈上下左右〉も〈切除〉も、もうMP的にあと数回しか使えない。場外勝ちは狙えない。HP削るのはもっと無理だ。いくらHPがあっても、他が足りない。決定打が。


「勝てない……。負けてはないんだ。でも勝てない。状況を覆せない。」


 当たり前だけど〈魔王化〉なんて厄ネタは使えない。というか、あれはMPがマックスでも発動できない。使えたとしても多分制御はできない。だから使えないし、使わない。


 そして、現状俺が考えて作った技の中に、羽山のリジェネを上回るダメージを与えることのできる技はない。


「分かったよ。俺の負けだ。参ったよ。」


 俺は両手を挙げた。羽山の攻撃が止まる。


「……降参ということかしら。」


 そうだ。降参だ。無理だ。意外な伏兵だった。まさか、羽山がこんなにも強くなっているなんて。


「言ったろ。俺の負けだって。」


「そう。じゃあ――。」


を使わされた時点で俺の負けみたいなもんだ。」


 挙げた手に集中させる。俺の必殺技を。この技を、まさか羽山戦で使う羽目になるとは思わなかった。奏明戦まで取っておきたかったぜこのヤロウ!


「ま、試合には勝たせてもらうけどな。」


「なにを――。」


 俺のスキルは4つ。〈上下左右〉〈切除〉〈ドゥーン〉〈魔王化〉。うち使えるのは3つ。それは嘘でも偽りでもない。だが俺はずっと思っていた。このスキル構成では、火力が足りないと。火力を補わなくてはならないと。


「お前だけじゃないんだ。自分の弱みを理解して、克服した奴は。」


 手から、指先に。溜めて、溜めて、溜めたこの塊を。


「初お披露目だ。味わえ。」


 数字にして約10万回重ね掛けした〈ドゥーン〉。そもそも音は振動。それを重ねて重ねて、重ねまくった。その結果生み出された音爆弾は、もはや音爆弾の域を超えている。


 振動で肉体を破壊する、悪魔のような必殺技。それをこの近距離で爆発させる。その名も――。


「〈リーサル・ドゥーン〉」


 右手を差し出し、その指先を羽山に押し当てた。


「やめっ――。」


 その瞬間、音が爆ぜた。

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