第64話 羽山 風舞戦(6)

 羽山の手に現れた光の剣。〈聖魔法〉の応用だ。まさか……!


「アタシは中学剣道部よ!」


 振り下ろした剣が弾かれた。それだけじゃない。目にも止まらぬ速さで切り返された。


「グッ……!」


「空を飛ぶ、距離を取る、魔法で遠くから攻撃する。アタシの戦闘スタイルを見れば、近接戦闘に切り替えるのが普通。だけど、残念だったわね。」


 羽山は俺の瞳を覗き込みながら、イタズラな笑みを浮かべた。


「アタシは近距離の方が強い!」


 見えない剣撃! 速い! 防ぐ暇もなく体を切り刻まれる!


「さらに! この距離なら〈聖魔法〉も避けられないでしょう?」


 羽山の左手から光弾が飛んできて、俺の顔にぶつかる。視界を一瞬奪われた俺の首を、ガシッとか細い手が掴んだ。


「捕まえたわ。」


 左手で掴まれ、右手の光剣はいつの間にか光弾に変わっている。それが俺に襲いかかってきた。


「場外もいいけど、やっぱりHP削りきって勝つ方が気持ちいい。あんたもそう思うでしょ?」


 首根っこを掴まれた状態での光弾連打。一撃の威力がまあまあ高い。これはマズい。過去一マズい!


「なかなか死なないわね。あんた、耐久力だけは一丁前に――。」


「〈切除〉ォ!」


 俺は叫びながら、首を掴む羽山の手首に手を伸ばした。羽山は、俺の〈切除〉が生物には使えないことを知らない。名前だけ聞けば、なんでも切れるように思うはずだ。だから……。


「ッ!?」


 手を離した。離すよな。そりゃあ離すさ。誰だって〈切除〉って叫びながら手が迫ってきたら、手首を切られると思うに決まってる!


「〈ドゥーン〉!」


 鳴り響く重低音。こけおどしの二段構え。怯んだ隙を狙って体勢を整え、再び斬りかかる!


「うおおおおおお!」


 俺の袈裟斬りが羽山にクリーンヒットした。深く、大きな一撃が入る。


「まだまだァ!」


 痛みに顔を歪める羽山。隙を逃さず、再び斬る。羽山は近接戦闘の方が強いと言っていたが、それには嘘がある。だってそうだろう。近接戦闘の方が本当に強いのであれば、わざわざ距離を取る必要なんてない。翼で急接近して戦えばいいんだ。そうはしない理由。それはもう、見抜いている。


「お前にはないんだろう!? 耐久力が!」


 近距離で強いのは攻撃力が高いから強いってだけで、耐久力は高くないんだ! だからわざわざ距離を取り、被弾を抑える。それだけじゃない。魔王に取り憑かれていた時も、回避主体の戦い方だった。一撃喰らえば動けなくなるくらい紙耐久なんだ。


「うおおおおおおお!」


 斬る。斬る。斬りまくる! 羽山が怯み、ノックバックし、隙を晒している間に! HPを削りきる!


「ぐっ……うう! はぁ!」


 突風が吹き荒れる。踏ん張るしかない。


「〈天使の権能・断罪の剣〉!」


 再び光剣を出した。まだ近接戦闘をするつもりか!


「甘い! 〈切除〉!」


 光剣を掴み、〈切除〉を使う。〈切除〉は生物以外のものを切り離すスキル。そして魔法は、生物じゃない!


「魔法にも干渉できるというの!?」


「ウェポンブレイカーと呼んでくれ。」


 光剣に亀裂が入り、ボロボロに切り刻まれる。いくら剣術に優れていても、剣がなければ木偶の坊!


「なら〈風魔法〉で……。」


「させない!」


 首筋を狙って、なぎ払うように一閃。またいい一撃が入った。粘性のある赤い血が、リングの地面を染めている。


「勝てる!」


 右足を前に。重心を後ろから、剣に乗せて、前へ飛ばすように。そのまま腕の力と慣性で、胴体を叩っ切るように!


「これで俺の……勝ちだァァァァァ!」


 鋭い斬撃が羽山の体に入った。華奢な体躯に深く突き刺さる。かろうじて切断こそされていないものの、体の半分くらいまで入っている。出血のダメージも合わせれば、HP全損は確実――。


「〈風魔法〉!」


 さっきより激しい風が襲いかかる。もはや暴風。押される。後退させられる。踏ん張れない! 剣の柄から手が離れて、放り出されてしまう。


「クソ! まだ死なないのか!」


 違和感。羽山は紙耐久のはず。これだけの攻撃を喰らえば、いくらスキルが乗っていないからといっても無事では済まない。だが、ではなぜまだ動ける?


「あんた……強いわね。まさか近接戦闘でアタシが圧倒されるなんて。」


「そりゃどうも。降参ならいつでも受け付けるぜ。」


 軽口を叩きながらも、俺は焦っていた。先ほどの暴風でいくらか距離を取られた。また剣を振るうには、3歩くらい距離を詰めないといけない。だがそれを容易にさせてくれるような相手ではない。


「あんたは本当に強いわよ。アタシは痛いの嫌だから、降参していたかもしれない。あんたの攻撃力が、あともうほんのちょっと高かったらの話だけど。」


 話ながら、羽山は自らに刺さった剣を抜いた。すると、羽山の体から蒸気のようなものが出てきて、徐々に傷が塞がっていくではないか。よく見ると、先ほどあれだけの斬撃を浴びせたにも関わらず、羽山には傷らしい傷は最後の斬り傷しか残っていなかった。


「〈聖魔法〉の自己再生……いわゆるリジェネってヤツね。」


 冷や汗が垂れる。最悪の事態だ。まさか、こいつ……自分の耐久力の低さをとっくに克服していやがったのか!

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