第59話 国寺 哲郎戦(2)

「国寺くんは同じスキルを3つも持っているという特異体質。それを上手く活かした彼ならではの戦い方ですね。」


「速さ、攻撃力、そして鎖鎌による手数。どれをとっても非常に優秀。さすがは時期ハ英候補。」


「対する定気くんはなんとか耐えましたが、ここから先、逆転はできるのでしょうか。」


 実況解説は好き勝手言ってやがる。とはいえ、このままでは勝ち目がないのも事実。まだ使っていないアレを使うしかないのか?


「俺を前にどんな障害物も無意味ッ!」


 目の前の壁に亀裂が入り、粉々になってしまう。国寺が目を光らせて俺を睨んだ。


「ちょこまかと逃げやがって。これで終いだ。」


 鎖鎌が再び音を鳴らしながら飛んでくる。剣で応戦するのは得策じゃない。


「クソが! 〈切除〉!」


 今度は俺の足元を隆起させた。鎖鎌は隆起した地面に激突し、亀裂を生む。しかし俺はこれで高所を取ったことになる。


「さらに〈切除〉!」


 再び切除で隆起させた地面を切り離す。ただし、今度は俺の目の前の地面を切り離した。切り離した地面は岩くらいの大きさで、それが一瞬宙に浮く。


「〈上下左右・左〉」


 切り出した岩に〈左〉を付与しながら俺は右を向いた。そうすると岩は俺の視点から左に向かっていく。


「飛び道具か。」


 岩は国寺に飛んでいった。しかし国寺は虫を払うような仕草で岩を跳ね返してしまった。


「無駄だッ! そんな貧弱な攻撃では俺の筋肉は傷つけられん!」


 国寺は地面を割りながら俺の方に近づいてくる。


 正直、俺は若干諦めていた。〈上下左右〉による地面を切り出して飛ばす攻撃は、まさに懐刀。誰にも見せずひっそり練習していた技だ。それを初見で対処されてしまった。近接戦で勝つことはできないだろうし、搦め手も使いきった。もう俺の必殺技を使うしかない。そう思っていた。


「これでトドメだ!」


 その時、予想外のことが起きた。国寺が、跳んだ。


「ッ! 〈上下左右〉解除!」


 国寺が跳んで地から足を離したところで、最初にかけた〈上下左右・右〉が発動しようとする。しかし、俺は考えた。そのまま右に飛ばされたところで、国寺は鎖鎌を使って地面にしがみつくだろう。そうなれば場外にはならないし、俺は〈上下左右〉の初見殺しアドバンテージも失う。


 だから俺は解除した。そして再びかける。


「〈上下左右・上〉!」


 跳んだ国寺に〈上〉を付与。そのまま国寺は重力に逆らい高く高く飛んでいく。だが……。


「ヌゥン!」


 国寺はあろうことか、即座に状況を理解して鎖鎌を地面に突き立てた。これで〈上下左右〉の発動条件が解除され、国寺は重力に従って落ち始める。


「だがな! 突き刺さった鎖鎌にこれは回避できないだろう! 〈切除〉!」


 鎖鎌の突き刺さっている地面を切り離す。そうすることで国寺は再び地面と接続されていない自由落下状態となり、浮上を始めた。


「なんだとォォォォォッ!?」


 俺はその様子を眺めながら、完全に上空に放り出された国寺に再度〈上下左右・右〉を付与する。すると国寺はそのまま上空遥か彼方で右方向に飛んでいき、そのまま普通校舎の方に飛んでいった。その辺で〈上下左右〉を解除してやる。


「あ、そういやリングの中じゃないと指輪の効果ってないんだっけ?」


 やらかしたかもしれない。ま、まぁ筋肉には自信あったみたいだし大丈夫だよ……ね?


「こ、これはまさかまさか波乱の展開! 国寺くん場外! よって勝者、定気 小優くん! 第4回戦第4リング、勝利したのは定気 小優くんです!」


「これはすごい展開ですね。まさか国寺選手が4回戦敗退とは……。」


 実況解説が絶句してやがる。しめしめ。


「指輪の返却をお願いします。」


 リングから降りると、運営のお姉さんに指輪の返却を求められた。


「あのー、国寺の奴どっか飛んでいったんですけど大丈夫ですかね?」


「運営の管轄外です。」


 指輪を返しながら聞いてみたけど、もし国寺が無事じゃなかったら俺ヤバい感じ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る