第58話 国寺 哲郎戦(1)

「すげぇじゃねぇか小優。スナに勝てるようになったんだな。」


 俺の肩をバシバシ叩くのは白市だ。彼は一足先に3回戦を終え、俺達の試合を観戦していた。


「すっかり見違えたぜ。今なら小優ともいい勝負ができるんじゃないか?」


 当然だ。いや、俺は既に白市を超越している可能性だってある。俺の戦闘力は爆上がりしたし、スキルも増えた。あの頃とはまるで違う。きっと今なら白市にもワンチャンある。


「第4回戦はすぐだな。もう勝ち残ってる奴も少なくなってきたから、進行が早くなってる。」


 1回戦で90人、2回戦で45人、3回戦で22.5人まで減ってるわけだから、そりゃあ進行は早くなるよなぁ。まぁ実際にはシードとかあるらしいからもうちょっと人は多いみたいだけど。


「俺の次の相手は……国寺……って奴みたいだ。知ってる?」


「国寺か……。」


 白市は途端に難しそうな顔をした。


「国寺は2組の奴だな。次の八英候補だって言われてる。」


 マジか。あぁ、そういえばタクがそんなこと言ってたような。


「トラと同じくらいの強さはある。」


 残念ながら俺は江津の強さを知らない。だからなんとも言えない。


「とはいえ、今の小優でもやりようは十分あるはずだ。気張っていけ。」


 白市の激励を受けて、俺はいっそう気を引き締めた。八英候補とかいう強者。絶対勝ってやるぜ。


「それでは、第4回戦を始めます。呼ばれた生徒は準備をしてください。」


 おっ、もう始まるのか。早いなぁ。


「第4回戦第4試合、1年1組 定気 小優対1年2組 国寺くにでら 哲郎てつろう。第4リングで試合を行います。」


 背中で白市の声援を受けとめ、俺は第4リングに向かった。先ほどと同様、指輪を受け取って装着し、リングに登った。


 俺とほぼ同時に、向かい側から背の高い男がリングに入ってきた。しかしその男、なぜか上半身裸だ。自身の筋肉を惜しげもなく見せつけている。


「貴様が今回の相手か。4回戦までやってくるとは相当な実力者だな。名前を聞いてやろう。」


「さっきアナウンスあっただろ。定気 小優だよ。」


「貴様のような弱者の名など、端から覚える気はないわッ!」


 お前から名前聞いてきたんじゃん!


「俺はこのまま勝ち進めば、八英となり、あの江津 虎穴との因縁に決着をつけることができる。」


「江津がそこまで上がってこれないかもよ。」


「つまらん冗談だ。江津が負ける? まさか。アイツは既に八英と同等クラスの力を持っているうえに、アイツは第6回戦まで他の八英と当たらない。アイツが負けることなど、あり得ぬ。」


 本人の知らないところでフラグが積まれていく江津。RIP。


「まぁ、仮にその話が正しかったとして、お前が江津と戦うことはないよ。」


「ほう? なぜだ?」


「ここでお前は負けるからだよ。」


「面白い。その面、ミンチにしてやる。」


 どうやらこの国寺という男、相当注目されているようだ。モニターに第4リングの光景が映し出されている。


「さぁ始まりました。私立学園ギラ八英戦第4回戦第4試合、注目はこの男、時期八英候補と名高い国寺 哲郎くん。いやぁ、凄まじい筋肉ですね。それでいてスリムで、機能的にすら感じますよ。」


 どうやら実況解説もつくらしい。あれ、もしかしてこの戦い、全国放送されてたりする?


「しかし国寺くんの対戦相手の名前は聞いたことがありませんね。」


「ま、そうですね。見た感じ無名の生徒ですね。4回戦からは運だけで勝ち進むのが難しくなってきますからね。とはいえ、5分くらいは持つんじゃないでしょうか。」


 解説担当めっちゃ失礼だな。


「さて、両者準備は整ったようです。試合開始のファンファーレを鳴らしましょう!」


 アナウンスではなく実況の宣言により、気の抜けたファンファーレが鳴った。バトル開始だ。


「〈上下左右・右〉」


 国寺は2組。俺の戦法は知らない。このまま初見殺しで勝ってやる。


「〈身体強化〉」


 なにか呟く国寺を無視し、俺は地面に手をついた。


「〈身体強化〉」


 そのまま〈切除〉で地面を切り離そうとする。


「〈切――〉」


「〈身体強化〉ァ!!!」


 その瞬間、国寺の足元が爆発した。かと思うと地面を砕きながら恐ろしい速さでこちらに突進してくる。


「ッ!? 〈切除〉!」


 俺は砂原さん戦でやった即席高台で国寺から距離を取ろうとした。だが……。


「破ァ!」


 国寺が足で踏み込むと、地面はひび割れ、地割れが起きる。即席高台はバランスを崩して崩壊してしまう。


「ちょこざいわ!」


 即席高台から落下する俺に向かって、国寺は肉薄してくる。そのまま俺の顔面に、強烈な一撃を入れた。


 俺はあまりの衝撃に、そのまま吹き飛ばされる。だが、リング端のところで剣を地面に突き立て、なんとか耐えた。


「ほう。存外耐えるな。」


 まずい。俺はそう思った。HPやMPは1試合ごとの休憩時間で全回復できるとはいえ、あまりにも一撃が重すぎる。顔に入ったから視界が霞むし、多分これ折れちゃいけない骨が折れてる。口の中がジャリジャリする。血の味が不快だ。そしてあまりにも痛い。


「武装:異狩り鎌。」


 国寺の手元に突如として鎖鎌が出現する。武装アイテムだ。なんでそんなもん持ってんだよ。


「〈身体強化〉を3回重ねがけした俺の戦闘力は7000弱。貴様のような雑魚では敵わんよ。次で最後にしてやろう。」


 国寺は鎖鎌を振り回し、こちらに飛ばしてくる。鎖による広範囲攻撃。躱すのは難しい。


「〈切除〉!」


 俺は地面を隆起させ、鎖を真上に押し上げた。あれは多分回避も防御も無理なヤツ。攻撃を逸らすのが精一杯か。


「だけどこれ、どうするんだよ。」


 これまでとは違う圧倒的な強さを持つ国寺を前に、俺は頭を悩ませていた。

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