第57話 砂原 須波戦
「2回戦突破おめでとう。」
「ワイ将の屍を越えていけ……ぐふ。」
1年1組待機場テントで、俺は佐山とノブに囲まれていた。
「このまま勝って勝って、八英になってやるぜ。」
「いいやんけ。応援するで。」
時刻はそろそろ15時。俺はおやつとしてバナナとドーナツを買って食べていた。八英戦には屋台も出てるみたい。
「第3試合の相手は誰なんだろうな。」
「さぁ? でもまた同じ1組だったら大変やで。」
「ほう? その心は?」
「定気の戦法と弱点を1組全員にワイが共有してるからや。」
「お前ぶん殴るぞ!?」
なんということだ。ふざけていやがる。
「ま、まぁ、他の1組男子の情報も共有しとるし、お互い様ってことで……。」
「俺それ今知ったんだが?」
不平等だ。不平等極まりない。
「も、もちつけ定気。大丈夫。そう何度も1組連中と当たるわけないじゃないか。ほら、そろそろ第3回戦が始まるぜ。」
佐山の言葉通り、すぐにアナウンスが流れ始めた。
「それでは、第3回戦を始めます。呼ばれた生徒は準備をしてください。」
仕方ない。言いたいことは山ほどあるけど、確かに1組と連続して当たるわけが……。
「第3回戦第6試合、1年1組定気 小優対1年1組砂原 須波。第6リングで試合を行います。」
マジかよ……。
「ちなみに女子の情報はないぞ。プライバシーやからな。」
マジかよ……。
なぜかノブによって情報アドバンテージを取られている俺は、とぼとぼとリングに向かった。
「こちらの指輪をどうぞ。」
さっきとは違う人から指輪を渡されるので着用する。八英戦の運営さんも大変だなぁ。
俺がリングに入って少しすると、砂原さんもやってきた。
「あんたと話すことなんてなにもないから。」
うーん辛辣。辛辣ギャルだ。
「第3回戦第6試合、準備が整いました。これより試合を開始してください。」
プワァーと気の抜けたファンファーレが鳴り響き、バトルが始まった。
「〈上下左右・右〉」
まずは開幕で〈右〉を付与。そして〈切除〉で……。
「ッ!?」
激しい銃声が響き、俺の全身を弾丸が貫く。
「〈切除〉!」
なんとか地面を壁にして遮蔽物を作る。ダメージは大したことないが、痛いし速い。少量のダメージでも蓄積すればまずいことになる。
「〈切除〉!」
俺は壁ごしに砂原さんがいそうな場所を〈切除〉する。だが――。
「甘いね。」
彼女は既に回り込んでいた。手はショットガンになっている。立て続けに2回、発砲。俺は思わず仰け反る。
そしてそこに蹴りが入る。足先から銃弾が飛んでくるタイプの蹴りだ。あまりの痛みに腹を押さえて体を丸める。
「〈切除〉」
俺は自分の足元の地面を隆起させ、高さによる優位を取った。さらに隆起させた地面をもう1度切り離し、四方を壁で囲った。即席高台だ。しかしあくまで時間稼ぎにしかならない。
「無駄だよ。」
耳をつんざく発砲音と共に、目の前の壁に穴が空いた。
「対物ライフル!? そんなものまで……。」
彼女のスキル、〈銃化〉はその名の通り体を銃に代えられる。今まで確認できただけで、スナイパーライフル、ガトリングガン、ショットガンと、種類は豊富だ。しかも、俺は彼女が弾切れをしているところを見たことがない。つまり持久戦になるとマズいのはこちらの方だ。
だが、そんな彼女に弱点があるとしたら、それはおそらく……。
「今だ!」
ドゥーンという音が響く。彼女は予想外の事態に体を硬直させ、なにが来るのかと警戒態勢を取る。
だが、なにも来ない。俺の新スキル〈ドゥーン〉は効果音を出すだけ。だがそれでいい。俺は砂原さんが怯む隙に、即席高台から抜け出す。
「〈切除〉!」
そして〈切除〉を使う。使いまくる。MPも気にしながらだが、辺りの地面を隆起させまくった。これで簡易的な遮蔽物になる。これでお互いの視界を遮る。
「ッ! どこに……。」
すかさずドゥーンを放ちまくる。常に辺りには重苦しい音が響き、うるさくなる。その状態なら、俺がどれだけ走ろうと足音は聞こえない。
さらに、人間には動くものに目がいくという習性がある。それを利用する。
「〈切除〉」
ドゥーンという音の中で、スキルの詠唱すら聞こえない。適当な地面を切り離して隆起させる。
「そこね。」
音の中でも一際重い銃声が響く。だが、それを喰らったのは俺じゃない。隆起した地面だ。視界が遮られたこの状況。動くものはさぞ気になることだろう。
その隙に、俺は遮蔽物から遮蔽物へと動き、彼女は背後に回り込む。視覚を〈切除〉、聴覚を〈ドゥーン〉で制限したこの戦法は、まだ誰にも知られていない。そしてこの戦法が1番効くのはこういう遠距離からチクチクしてくる奴だ。
砂原さんの背後を取った俺は、素早く踏み込むと、剣で彼女を斬りつける。そしてそのままの流れで地面に手をつく。
「〈切除〉!」
目の前でガトリングガンを構えていた砂原さんの足元が切除され、浮かされた。浮いたらあらかじめ付与しておいた〈右〉が発動する。
彼女は吸い込まれるように右方向へ飛んでいき、そのままリングの外へ出た。
「第3回戦第6リング、勝者、定気 小優。」
なんということだ。またしても勝ってしまった。非常に気分がいい。
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