第56話 紅 ノブ戦

 定気 小優、1回戦勝利!


 特に危なげなく勝つことができた。具体的には即〈切除〉で浮かせて〈上下左右・右〉で場外。楽勝すぎてもはや相手の顔すら覚えていない。なんかポニテの女の子だったような気がする。


「2回戦は午後からだぜ。飯でも食いにいかね?」 


「おっ、いいねぇ。」


 俺は1回戦でタワーリシチと当たって負けた佐山と共に、食堂に向かった。最初は弁当を持って来ようと思っていたのだが、作るのが面倒だったのでやめたのだ。


「次の相手、誰だっけ?」


「さぁな。まぁ誰であろうと気は抜くなよ。」


「あったりまえだぜ。お、このステーキ美味いな。」


 正午になる頃には飯を食い終わり、俺達はグラウンドのテントに戻った。


「先輩から聞いたんだけどさ、八英戦って夜までやるらしいぜ。」


「マジかよ。寮の門限無視していいの?」


 寮の門限は20時だ。それ以降は寮長の許可がないと寮には入れない。それを無視して夜までどんちゃん騒ぎしてもいいとなれば、お祭り具合にも拍車がかかる。しかも明日は休みだ。いくらでも夜更かししていい。


「それでは、第2回戦を始めます。呼ばれた生徒は準備をしてください。」


 アナウンスが流れる。八英の名前が挙がった時には一際大きなどよめきが上がった。


「第2回戦第8試合、1年1組定気 小優対1年1組紅 ノブ。第8リングで試合を行います。」


 紅 ノブ!? 1組の知り合いと当たるとは、幸運というべきか不運というべきか。


「とりあえず行ってくるぜ。」


 俺は佐山に別れを告げ、第8リングに向かった。


 俺がそこに着くと、既にノブはリングの中に入っていた。


「こちらの指輪をご着用ください。」


 リングの外で蘇生魔法が付与された指輪をはめ、俺はリングに登った。


「紅 ノブか。お前と戦うのは初めてだな。」


「定気 小優。ワイは嬉しく思うで。今日ここで、ワイの好敵手と戦えることを!」


「第2回戦第8試合、準備が整いました。これより試合を開始してください。」


 プワァーというファンファーレが鳴る。これが開戦の合図だ。


「〈上下左右・右〉」


 まずはノブに〈右〉を付与しておく。そして地面に手をつき、〈切除〉で体を浮かせて場外に……。


「遅いで! 〈執念深エターナル獄炎ブレイズ〉!」


 ノブの伸ばした腕から、禍々しい色の炎が飛んでくる。喰らえばひとたまりもないだろう。俺には高いHPがある。これくらいどうってことはない。だが、飛んでくる炎なんて普通に怖い。俺は反射的に動いていた。


「〈切除〉!」


 俺は自身の足元の地面を〈切除〉し、忍者がよくやる畳返しのように地面を切り出した。ノブの炎は壁となった地面に阻まれ、散り散りになって辺りに落ちる。


「ワイ将は知っとるで。お前の〈切除〉は遠い場所を切る時、若干時間がかかる。自分に近い場所なら素早く切れるが、遠い場所は切るのが難しい!」


 どうやら見抜かれていたようだ。1回戦で〈切除〉を見せたのは失敗だったか?


「そしてお前の〈サイコキネシス〉は条件つき。その条件はおそらく相手を浮かすことや。つまりワイはこのまま地に足つけてれば負けることはないやで!」


 俺の〈上下左右〉は結構な頻度で〈サイコキネシス〉というスキルに間違えられる。というか〈サイコキネシス〉なんて普通に〈上下左右〉の上位互換じゃねぇか。ウラヤマ。


「このままワイの炎で燃やし尽くしたる! 〈執拗フォロー陽炎ブレイズ〉!」


 立て続けに発射されたのは3つの火炎球。それらは不規則に動きながら、俺の方に飛んでくる。


 俺は最小限の動きでそれを回避しながら、ノブに近づこうとした。


「甘いで!」


 しかし、俺の背中に先ほど避けたはずの火炎球がぶつかる。背中がとんでもないくらい燃える。


「ワイの魔法は最強や! これを喰らって立っとる者は……。」


 だが、HPが10万ある俺には、この程度致命傷にはならない。焼け燃えて、熱くはあれど、死にはせず。痛みを無視することには昔から慣れている。喰らってみれば大したことはない!


「バ、バカな!? 燃えながら近づいてくるだと!?」


 ノブはさらに火炎球を3つ、俺に発射した。が、今度は避けることすらしない。大したダメージにはならないと分かったからだ。


「燃焼によるダメージが1秒につき10ダメージ。火炎球直撃のダメージが50ダメージってとこか。その程度の火力じゃ、俺はいつまで経っても倒せないぜ。」


「なら火力を増やせばいいだけや! 〈炎操作〉!」


 ノブが怪しげに腕を振り回すと、地面に移って燃えていた先ほどの獄炎が、俺の方に飛んできた。回避が間に合わず直撃する。


「うぐッ!」


「ワイには〈炎魔法〉があるから〈炎操作〉は死にスキルやと思ってた。やけど、この学園で勉強していくうちにそれは違うって分かったんや! 〈炎魔法〉で生み出した炎に〈炎操作〉で指向性を持たせる。それで生み出されたのがワイの必殺技達や!」


「なるほど確かに強力な必殺技だ。」


 だが無意味だ。ダメージが毎秒10から毎秒20になろうと、所詮焼け石に水。俺のHPを揺るがすことはできない。


「うおお! これでトドメや!」


「遅いッ!」


 圧倒的なHPによる脳筋ゴリ押し戦法で距離をつめた俺は、地面に手をついた。


「この距離なら対応できないだろ。」


「ッ!? 〈執念深エターナルき――〉」


「〈切除〉!」


 近距離から放たれる〈切除〉は、素早くノブの足元を切り出し、一瞬浮かせる。


「バカなァァァァァ!」


 浮いたノブは付与されていた〈右〉により、俺なら見て右の方向に吹っ飛んでいった。そしてそのまま場外。


「第2回戦第8リング、勝者、定気 小優。」


 俺は勝利の実感を噛み締めながら、リングを降りた。

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