第55話 開幕八英戦

 俺はそれから毎日にように訓練場に通った。筋トレをし、擬似戦闘場でモンスターと戦い、剣術も磨いた。


「定気、最近なんだかやる気に満ち溢れてるね。」


 奏明にもそんなことを言われてしまった。


「八英戦でお前に勝ちたいからな!」


「無理だと……いや、頑張って。」


 無理だと思うって言いかけなかった?


 奏明に罵倒され、授業中にスキルを使っては怒られ、筋トレしてたらやたら上級生に絡まれ、わりと散々な2週間を過ごした。だが、俺は確実に成長した。


「くたばりやがれ!」


 俺の剣が擬似モンスターの肩に深々と刺さり、そいつは粒子となって消えた。今のモンスターは4層クラスのモンスターだ。そいつに勝つことができた。しかも相性差とかではなく、真っ向勝負で。


「勝てる。勝てるぞ。今の俺なら新しい八英になれる。新しい八英になれるぞ!」


 邪悪ミッションが更新されたらそれをやりたかったのだが、残念ながらこの期間に邪悪ミッションが更新されることはなかった。しかし俺は度重なる鍛錬により自信をつけていた。


 そして、八英戦当日。


 朝、5時。


 俺は目覚める。今日という日のために鍛錬をしてきた。寝坊なんてした暁にはお笑い者だ。しっかり朝飯を食べ、しっかり体を動かす。


 そして朝の7時30分には教室に向かうのだ。その日は2年生と3年生は休みなのだが、なぜかいつもより人が多い。その理由は休みの日なのに1年生の八英戦を観戦に来る上級生と、親御さん達。そして私立学園ギラに目をつけているテレビ局の連中がわんさか来ているからだ。


 事前にそういうのが来るとは聞いていたが、俺が思っていたより多い。というか規模がデカい。なんか全国放送らしい。


「私立学園ギラは日本でもトップクラスの冒険者養成学校だからね。」


「スポーツで言う強豪校みたいな感じか。」


「そう。そして私がその強豪校の最強なんだよ。」


 薄い胸を張って偉そうにする奏明。こいつもいつもより早めに来ていたようだ。


「八英戦ってグラウンドでやるんだっけ?」


「そうだよ。5回戦まではグラウンドを分割して、そこに小さなリングを作るの。とは言っても普通に広いんだけどね。」


「5回戦以降はグラウンド全体を使うのか?」


「ううん。使うスペースはあくまで同じ広さで、リングの場所がグラウンドの中心になるだけだよ。つまり、全国放送のテレビに自分の戦いが大々的に載るんだ。」


 なるほど。八英の戦いはグラウンドの中心を使ってやるのか。ただしリングの広さは変わらないと。


「それから、リングの中では殺すつもりで戦ってもいいみたいだよ。」


「えっ? なんで?」


「なんかね、蘇生魔法を付与した人工アイテムを参加者に配布するんだって。限られた範囲でしか効果は発動しないんだけど、その代わりに大量生産ができるやつ。」


 なるほど。ということはあれか。これリングから出たら負けになるやつか。俺のスキルは場外を狙いやすいスキルだから相性がいいな。


「定気は八英、なりたいの?」


 奏明が今さらそんなことを聞いてくる。


「当たり前だぜ。」


「どうして?」


「みんなにチヤホヤされたいから。」


 相変わらずの無表情で俺を見つめてくる。俺は正直こいつが普段からなにを考えているのかさっぱり分からない。分からないが、なんとなく最近はトゲがなくなったように感じる。


「でも定気弱いじゃん。」


 前言撤回。


「うるせい! 俺だって努力したんだ!」


「努力では超えられない壁を見せてあげるよ。」


 どこの悪役のセリフだよ。そんでもってそういう発言する奴大体負けるぞ。


「ねぇ定気。」


「どうした?」


「決勝で会おうね。」


「まだトーナメント表出てないから決勝で当たるとは限らないぞ。」


「ふふ、そうだね。」


 こんな他愛もないお喋りをしていると、段々とクラスメイトが登校してきた。


 しかし、しかしなんだかいつもより、みんな雰囲気が違う。いや、それはなにも今日に限った話じゃない。数日前からなんだかみんな張り切っているような気がするのだ。


「八英戦……。」


「絶対勝つ……。」


「アイツにだけは……。」


 いたるところからそんな呟きが聞こえてくる。どうやらみんなこの日に向けて鍛錬してきたようだ。


 俺は武者震いをしながら、ホームルームが始まるのを待った。


「やぁおはよう! 今日は絶好快晴八英戦日和だね!


 センコウ先生がやってきて、いつものようにホームルームが終わる。


「ではさっそく、みんなグラウンドに行こうか。」


 グラウンドに向かうと、もはやそこはお祭りのような状態だった。バカみたいな広さのグラウンドに、バカみたいな数の人が溢れている。


「1年1組の待機場所はこっちだよ。」


 センコウ先生に着いていき、指定されたテントに座る。1年生は比較的リングに近い場所に座れるらしい。


「見たい試合があれば場所を移動しても構わないし、スマホで放送を見てもいい。上位の戦いになるとドローンモニターに試合の様子が流されるから、そっちを見てもいいかもね。」


 ハイテクだ。俺の村にはそんな技術なかったぞ。


「ではもう少ししたら学長の挨拶があるから。少し待ってて。」


 言われた通り大人しくしていると、数分後、上空のドローンモニターにバンキング学長が映し出された。


「諸君、聞こえるかね。」


 荘厳な声は騒ぐ生徒や報道陣を一瞬にして静める。皆さんが静かになるまで1秒もかかりませんでした、というヤツだ。


「おはよう。私はバンキング。この学園の学長だ。生徒の中には、入学式以来という人も多いかもしれない。さて、長々と話をするのも好きではないから簡潔に済まそう。」


 学長は、八英戦を行うにあたっての注意事項、そしてスポーツマンシップについて語った。


「とはいえ、今日は祭りのようなものだ。皆存分に楽しんでくれ。」


 2分ほどで学長の挨拶は終わり、会場の拍手と共にドローンモニターの映像は消えた。


「ちなみにあれ録画らしいぞ。」


 と隣にいる佐山が教えてくれる。録画なのかよ。


「では、これよりトーナメント表を発表します。ドローンモニター、及び中継映像をご覧ください。」


 ドローンモニターにトーナメント表が映し出される。覚えるのが大変だなぁと思っていたが、どうやらみんなスマホで中継映像を見てそれをスクショしているようだ。その手があったか。


 俺は比較的すぐに出番があった。というかグラウンドを分割しているとはいえ、結構時間がかかりそうだ。


「それでは第1回戦を始めます。名前を呼ばれた方は準備をしてください。」

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