第54話 八英戦ってなに〜
「なあ、タクはどうして人に料理を食べてもらってるんだ?」
「気になるか?」
コルドンブルーを平らげた俺は、タクの後片付けを眺めていた。しかしなにもしないのも暇なので、昨日から気になっていたことを聞いてみることにした。
「俺はな、料理人として生まれてきたんだ。」
「料理人として生まれてきた?」
「そういう家系でな。だから人に料理を作って食ってもらうことが俺の在り方なんだ。というより、俺にはそれしか才能がない。」
「そんなことはないだろ。タクって八英なんだし、強いんだろ?」
タクは皿洗いの手をピタリと止めると、少し悲しげな声で言った。
「ここに入るまでは、そういう道もあるんだと思っていた。だけど現実はそうじゃない。事実、俺は八英の中でも最弱だ。次の八英戦では八英から外れるだろう。」
八英戦……?
「なんだ? まさか八英戦のことを知らないわけじゃないよな。」
「いや知らんけど。」
「歴史の授業で八英のことを学んだ時に教えてもらったはずだろ。というか学園のパンフレットにも書いてあっただろ!」
えぇ〜、そうだっけ? つうか歴史で八英なんて出てきてたっけ? 正直なにをした人なのか全然知らないんだけど。
「八英戦は6月の末にある大きなイベントだ。1年生全員がトーナメント形式で戦って、最強の1年生を決める戦い。それが八英戦だ。」
え〜、1年生最強って普通に奏明じゃね?
「その戦いで上位8人に入った人物は新たな八英になれる。今年は7人しか八英がいないから、新しい八英が最低でも1人は誕生することになるな。」
「上位8人ってことは何回戦まで進めばいいんだ?」
「1年生が180人いるから6回戦までだな。5回戦に勝てばその時点で八英だ。」
えーと、1回戦で90人、2回戦で45人まで減って……3回戦で22.5人? 4回戦で11.25人。5回戦で……5回戦で〜、えーと、まぁ5人くらいになるわけか。多分実際はシードとかあるんだろうからこんな複雑にはならないんだろう。
「当たり前だが八英は全員シードだし、トーナメントでも後半まで当たらないような配置になる。盛り上げるためという意図もあるだろうが、やはり八英同士が潰し合って実力のある者が八英になれないという事態を避けるためだろうな。」
なるほど。確かに1回戦で奏明と白市が当たったら白市普通に可哀想だもんな。
「あれ? でもそれって途中で八英と当たる人もいるってこと?」
「八英と当たらずに5回戦まで行ける奴の方が少ない。今回だと、1人だけ運のいい奴が八英と当たらずに6回戦まで行けるようだが……まぁそこら辺のバランスは運営も考えているだろう。実際、八英ではないにしても八英クラスに強い人物はいるわけだしな。」
そうなんだ。まだ見ぬ強敵ってヤツか。
「候補だと1組の江津、2組の国寺が次の八英になるんじゃないかと言われている。実際奴らは強い。俺も負けるかもしれん。」
江津ってあの江津? マジ? アイツ強かったの?
「八英になれば当然進学にも有利になるし、なにより生徒からの支持を得られる。歴代の生徒会長は全員八英から選出されているらしいぞ。八英になるというのはそれだけすごいことなのだ。」
じゃあ白市とかタワーリシチとかってすごい人だったんだ。ほへぇ〜。
「なぁ、俺も八英になれるかな?」
「さぁな。だが、鍛錬を怠らなければ結果は自ずとついてくる。なにより、八英になれるチャンスは毎年ある。焦る必要はないさ。」
うーむ、そうか。八英戦は毎年あるんだ。まぁそりゃあ学園生活で強くなる人もいるわけだし、八英が入れ替わるのも当然か。
「でもなぁ、俺もっと人にチヤホヤされてぇよ。なりてぇよ八英。」
「ならば今すぐに訓練場に行くがいい。タンパク質で腹を満たしているうちに……な。」
「そっか。そうだな。俺行ってくるよ。」
俺はタクに感謝と別れを告げ、家庭科室を後にした。向かった先は訓練場。まずはいつものように筋トレをして体を温め、それから擬似戦闘場で戦闘をすることにした。
「敵の強さは……最低クラスより上げてみようかな。多分行けるだろ。」
俺はHPこそ高くなったが、攻撃力はそんなに高くないため、最低クラスの擬似モンスターでも倒しきれないことがある。だがそんな泣き言は言っていられない。少し負荷を上げた訓練をしなくては。
「矮小なる人間よ。」
「うおビックリした。なんだよ大魔王デスミナゴロス。部屋以外で声をかけてくるなんて珍しいな。」
「いや、それがだな……お主、スキルが変容しているぞ?」
は? スキルが変容?
「〈上下左右〉のスキル説明欄を開いてみよ。」
言われた通り、俺は〈上下左右〉のスキル説明欄を開いた。
■□■□
スキル
・上下左右
見た物体に上下左右の力を与える。
消費MP1
■□■□
「いやなにも変わってな――ええええええ!?」
今まで触れた物体って書いてあったのに、見た物体に変わってる!?
「こ、これ、なにが起きて……?」
「我も知らぬ。貴様心当たりはないのか。」
「そんなもんあるわけ――あったわ。」
さっき経験値入りの飯食ったら体から光が溢れ出てたじゃん。絶対それじゃんね。
「あれはスキルを強化する飯だったってこと!?」
「そんなわけが……邪悪ポイントに匹敵するエネルギー……まさか、経験値か。」
やっぱり経験値だったか。あれなんなんだろうね。一向にレベルアップはしないくせにさ。でもスキルが強化されたのはいいな。
「〈上下左右〉の使い勝手が格段によくなった。これ、もう完全に今までの上位互換じゃん。」
見ただけで付与できるなら、もはや何人も俺の前で空を飛ぶことはできない。対空最強スキルの完成だ。
「これで勝つる!」
「はしゃぐのはよいが、鍛錬は忘れるな。我としては戦闘よりももっと筋トレをやってほしいのだが……。」
大魔王筋トレ大好きじゃん。でもなぁ、スキルが強化されたってんなら、それを試さずにいられねぇよなぁ!
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