第53話 経験値飯

 翌日。俺はいつも通りに授業を受けていた。


「でさ~、結局家庭科室に出る幽霊の仕業ってタクだったんだぜ。」


「タク? あの八英の?」


「そそ。6組の食事会に使う飯を用意してたらしい。」


「マジかよ。楽しそうだな6組。」


「うおっほん。定気くん、佐山くん。随分と話に花が咲いているようだが、肝心の授業内容はちゃんと理解しているのかね。」


 当然だ。なんたって俺は中学までノー勉でも問題なく授業に着いていけてたもんね。


「ではこの式、解いてみたまえ。」


「簡単すよ。解の公式を使うんですよ。」


「……今は魔力基礎の授業をやっているのだが。」


 しまった。式は式でも方程式じゃなくて魔力式だ。


「どうやら、君達には廊下がお似合いのようだね。」


「なんで俺まで!?」


 こうして俺達は前時代的な教師の横暴によって廊下に立たされてしまった。トホホ~。


 そんなこんなで放課後、俺がいつものように帰ろうと廊下を歩いていると、見覚えのある男子生徒が前から歩いてきた。


「タクじゃん。」


「定気よ。昨日は世話になったな。貴様がいなければ俺は料理を作ることができなかった。感謝する。」


「いいよいいよ。結局、経験値を売ったのは俺じゃなくてエックスだし。」


「謙遜をするな。奴とコネクションができたのもお前のおかげだ。代わりと言ってはなんだが、家庭科室に来い。料理の恩は料理で返そう。」


 どうやら飯を食わせてくれるみたいだ。いいねぇ、そうこなくっちゃ。


「なにを食わせてくれるんだ?」


「迷ったが、俺の得意料理を食わせることにした。コルドンブルーだ。」


 コルドンブルー?


「フランスの騎士団を名前の由来とする肉料理だな。ある程度の仕込みは終わっている。時間は取らせない。」


 俺とタクは家庭科室に入った。そこでは既にある程度調理を行った跡が残っている。


「イスにでも座って待ってろ。」


「ワクワク。」


 大人しく言われた通りにイスに座って待っていると、すぐに熱々の揚げ物が乗ったお皿が出てきた。


「コルドンブルーだ。本来は豚肉にハムとチーズを挟んで揚げ、ソースをかけて食う料理だが……今回は特別にドラゴンの肉を使っている。もちろん、下味つけには経験値を使用しているから体にもいいぞ。」


 な、なんということだ。ダンジョンの中でも特定のタイプのダンジョンにしか出ないため希少とされているドラゴンの肉を使っているだと……? それにハムとチーズを挟んで揚げ物に……?


「いただきまーす。」


 サクサクの衣を頬張る。熱さと美味さが口いっぱいに広がる。そして噛めば中からチーズが溢れて出てくる。ドラゴンの肉、ハム、そしてチーズの味が複雑に絡み合う。そしてその中にある、未知の旨味。初めて味わう、されど確かに旨い味。そうか。これが、これこそが、経験値の味!


「味覚は元々食べ物が毒かどうかを判別するために身についたと言われている。それ故に、人に有益な物は美味しいと感じるのだ。ならば経験値が美味いのは当然というわけだな。」


 美味い。美味すぎる。こんな美味いものを食べたのは初めてや。これに比べたら俺の手料理はカスや。


「最高の食材があれば、誰だって最高の料理が作れる。俺はいつか、経験値に頼らずこの味を実現してみたい。そもそも経験値は高価だから一般市民はそう口にできな――おい定気、お前なんかおかしいぞ。」


 タクに言われて初めて気づいた。俺の鼻から黄金の光が出てきているのだ。いや、鼻からだけではない。口や目、体中の穴という穴から、光が溢れ出ている!


「な、なにが起きているんだァーッ!?」


 全身をまばゆい光に包まれながら、俺は意識を……失うことなくコルドンブルーを食べ続けた。


「うおおおお!」


「バカ野郎ッ! なにをやっているッ!?」


 コルドンブルーを平らげた頃には光は止まっていた。


「い、いったいあれはなんだったんだ……? まさかあれが経験値の力?」


「いや、あんなの俺も初めて見たぞ。経験値の力ではない。というか貴様、体は大丈夫なのか。」


 体をペタペタと触ってみるが、特に違和感はない。ステータスを開いても特に変化は見られなかった。


「なんだったんだ……?」


「さぁ……?」


 俺達は2人で首をかしげることしかできなかった。

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