第50話 犯罪は悪いこと

「結論から言おう。君の借金は帳消しとなった。」


 風紀委員会の会室で、俺は風紀委員長の話を聞いていた。下沢を捕まえた後、奏明と俺は風紀委員会に連絡して賭博部の闇を暴いた。つまり、違法ギャンブルを通報したのだ。


「正直、我々としては君も違法ギャンブルの疑いで罰したいところだが……今回は主犯の逮捕にも繋がったわけだし不問とする。」


 あっ、あの人逮捕されたんすね。通報から30分くらいしか経ってないのにトントン拍子に話が進むなぁ。


「下沢を尋問してみたところ、賭博部の違法ギャンブルは主に放課後に行われていたようだ。放課後は風紀委員の大半が帰宅する。その時間帯を狙って犯行に及んだのだろう。小賢しい奴らだ。」


「魔王については知らなかったの?」


「まぁ、そうだな。しかし誰だって学園に厄災の1つが潜んでいるとは思わないだろう。」


 確かにそうだよなぁ。なんかこの学園厄ネタ多くない?


「しかし、魔王の騒動は以前にも1年生の授業で起こったと記憶している。今回の事件はその時の魔王が執念深く復讐しにやってきたということか?」


「いや、それは違います。以前の魔王と今回の魔王は名前が違いました。」


「どういうことだ? 魔王は1体だけではないということか?」


 それについては多分奏明の方が詳しいだろう。説明してやってくれ。


「分からない。私も今まで魔王は1体だけだと思ってた。」


 ……マジ?


「であればこれはとんでもないことなのではないか? これまで1体しかいないとされていた魔王が、本当は2体いたのだと分かったのだから。いや、正確には君が1体倒したから総数は変わらないのだろうが。」


「いや、実はさっきの魔王、殺れてない。巧妙に逃げられた。まだまだ実力不足。」


 あっ、なんかしょんぼりしてる。なんか声かけた方がいいかな?


「ま、まぁいいんじゃないっすか? 結果奏明が来てくれたおかげで誰も死んでないですしみんなハッピーじゃないっすか。あとのことは冒険者ギルドのエージェントがなんとかしてくれますよ。」


「ふむ、確かに。我々学生がこれ以上足を踏み入れることは許されないだろう。厄災に関する事項は冒険者ギルドも隠したいだろうしな。」


 風紀委員長は鋭い刃物のような眼光で俺を射貫いた。その視線は俺の全てを見通しているようでもあり、品定めをしているようでもあった。


「とにかく、今回の事件はここで終わりだ。借金は全て無効だし、下沢は捕まった。まぁ強いて言うなら、まだ捕まってない奴が1人いるけど。」


 下沢は魔王に心を操られていたから仕方ないにしても、あの不定ちゃんとかいうふざけた奴は普通にクズだ。だってあいつ別に魔王に操られてたわけじゃないじゃん! 元々邪悪だよあいつ!


「不定ちゃん……だったか。彼女の正体についてはおおよそ察しがついている。後は風紀委員会に任せてもらえれば、全て解決するだろう。」


「マジっすか。じゃあよろしくお願いします。メタメタにしてやってください。」


 俺がそう言うと、なぜか風紀委員長から生暖かい目で見られた。なんでそんな目で俺を見るんだよ。


「……承った。時間を取らせてしまったな。君達はもう帰ってもいいぞ。疲れただろう。先生への報告もなにもかも済ませてある。帰って休むといい。」


 俺はお言葉に甘えて寮の部屋に帰ることにした。


「お疲れ様でぇ~す。」


 会室を後にし、スーパー校舎から出て寮まで向かう。


 思えば、今日はなんだか濃い1日だった。不審な闇商人と出会ったり、ギャンブルで大量の借金を背負わされそうになった。しかし得たものもある。


「邪悪ミッション達成したろこれ!」


 自室で俺は叫んだ。俺は法に触れた。触れたんだ。初めて犯罪をしてしまった。しかしこれも強くなるためだし、仕方ないよね。


「矮小なる人間よ。邪悪ミッションの達成、お疲れ様である。」


「あ、大魔王デスミナゴロス。久しぶりじゃん。最近なにやってたの?」


「話はよい。少し出かける。」


 直後、激しい吐き気を催す。思わずオエッとなると、口から大魔王デスミナゴロスがボトリと落ちてきた。


「出かけるってどこに?」


「……食事だ。」


 食事か。なら仕方ないね。腹が減っては戦ができぬって言うし。


「門限までには帰ってこいよ~。」


 俺は窓を開け放ち、サソリみたいな気持ち悪い虫を外へと放った。


「さ~て、邪悪ミッションも達成したことだし、なにを強化しようかなぁ~。やっぱりステータス? いやいや、スキルが欲しいなぁ。攻撃系スキルがあれば戦闘の幅がぐっと広がるし、俺も魔法みたいなの覚えたいなぁ。」


 俺は邪悪ポイントを消費して魔法を覚えようとする。しかしそもそも邪悪ポイントってどうやって使うのか、俺は知らない。勝手に腹に貯められるものだと思ってたけどもしかして違うのかな。違うっぽいな。邪悪ポイントってどうやって使うんだ?


「戻ったぞ……ウプ……。」


「お、もう帰ってきたのか。……なんか膨らんでない?」


「ちょっと食い過ぎた。」


 そう言いながら大魔王は俺の口に入ってくる。俺は中世の拷問みたいな苦痛を味わうこととなった。


「ところで大魔王、邪悪ポイントってどうやって使うの?」


「邪悪ポイントは基本的に我がおらねば使えん。」


 あ、そうなんだ。


「どうした? なにか欲しいスキルでもあるのか?」


「あ、いや、俺もそろそろ攻撃系スキル欲しいなぁーって思ってさ。魔法とかってゲットできたりしない。」


「無理だ。」


 無理かぁ。なら仕方ない。


「というより、矮小なる人間の肉体は得られるスキルの分野に偏りが出る。貴様は基本的にサポート向けのスキルしか生えないぞ。」


 えっ、マジ? じゃあ剣術地道に極めていくしかないの?


「ステータスを上げるよりはスキルがあった方がいいだろう。というわけで新たなスキルを解放してやったぞ。」


「ヤッター新しいスキルだーって痛えええええ!」


 邪悪ポイント使用の副作用が俺の腹を襲う!


「よし、これで完了だ。さぁ、ステータスを見てみろ。」


「はぁ、はぁ、クソ痛ぇよ。」


 痛みに耐えながら俺はステータスを開いた。


 ■□■□

 定気 小優

 レベル1

 HP 100000/100000

 MP 40/40


 攻撃 44

 防御 68

 技術 36

 敏捷 12

 魔法 39

 精神 48


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除

 ・魔王化

 ・ドゥーン



 戦闘力 6004


 ■□■□


 本当だ。なんか見慣れないスキルがある。確認してみよう。


 ■□■□


 スキル

 ・ドゥーン

 『ドゥーン』という効果音を出す。

 消費MP0


 ■□■□


「は?」


 俺は思わずスキルを使ってしまった。すると辺りに重苦しい、ドゥーンという重低音が響く。


「これだけ……?」


 そう、まさかのそれだけ。スキル説明欄にもある通り、効果音を出すだけのスキル!


「おいこら大魔王! これはいったいどういうことだ!」


 しかし大魔王からの返事はない。あれ? もしかしてまた俺騙された? 今度は役に立たないスキル押し付けられちゃったよ。


 うへーん、もう誰も信じられなくなっちゃうよ~。

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