悪いことをして成り上がろう！ ～邪悪ミッション片手に学園で青春謳歌～

第49話 狂気のギャンブル

　下沢の口から這い出てきた虫は、ボトリと地面に落ちる。そしてグツグツと泡立ち、その体を変貌させる。

「見るがいい。恐怖を。絶望を。私が風紀委員会から逃れ続けていられる最大の理由を！」

　ソレは大きくなっていく。天井に頭がついたところでソレの変化は止まった。

　ソレは、道化のような顔をした木の化身に見えた。黒く光沢のある樹木のような体がねじ曲がり、人の体を形成している。見覚えのあるマントのような物を羽織っており、枯れた老人のような指を大量に覗かせている。

「どうだ？　これが私の最強兵器、魔王だ。」

　魔王……？

「我が名は魔王ミナオシツブス。矮小なる人間よ。選ぶがよい。破滅か隷属か。」

「魔王ミナオシツブスは厄災の1つに数えられる最強のモンスター！　もはや風紀委員会……いや、教師すらも私を止めることはできないのだ！」

　魔王……？　本物なのか……？

「法外なギャンブルで負債を押しつけ、逃げ出す者には魔王をぶつける。これが私のやり方だ。端からこれはまさに、狂気のギャンブルだったのだ！　誰も魔王には勝てない！　誰も借金を踏み倒せない！」

　まさか、まさか本物の魔王だなんて……そんなの……そんなの……。

「どうした？　助けでも呼んでみるか？　呼んだところでここは地下。声なんて届きはしない。それに来たところで魔王に勝てる奴などいない！」

　俺は声を張り上げて叫んだ。ただし、そこに先ほどまでの恐怖はない。アイツなら来てくれる。勝ってくれると信じているからだ。

「助けてぇぇぇぇぇ！　奏明！」

「うん、もちろん。」

　一陣の風が吹き荒れ、衝撃が遅れてやってくる。クリーム色の髪をはためかせ、そいつは現れた。

「ッ！？　ここ地下だぞ！？　どこから入った！？」

「入り口から。」

　奏明は右手に剣を顕現させると大きく振りかぶる。

「だが甘いな！　やってしまえ、魔王！　……魔王？」

「バ……バ……バカな……！？」

　魔王は震えていた。目を大きく見開き、その顔は絶望に染まっていた。

「ゆ、ゆ、勇者が……な、なぜここに……？　情報と違うではないか！」

「魔王？　おい魔王。なにを怯えている！　さっさとこの女を始末し――。」

　命の危険を感じ取った魔王はその身を翻し、逃亡を図った。

「〈ゆうしゃのいちげき〉」

　が、あえなく光の柱に呑まれて爆☆殺！

「ギィヤァァァァァ！！！」

「魔王ーッ！？　バカなァーッ！？」

　目の前で魔王が殺害された下沢はワナワナと震えながらこちらを見る。

「最期になにか言い残すことはある？」

「ひっ……。」

　奏明はいつにも増して冷たい声で言った。機嫌が悪いのかもしれない。お腹減ってたのかな？

「こ、ここ、これは違うんだ！　ちょっとした誤解があったというか……！」

「誤解？　誤解ってなに？」

「実はかくかくしかじかで。」

「なるほど。定気は知らない女に騙されて莫大な借金を背負わされそうになってたんだね。その過程で魔王が召喚されたから私を呼んだんだ。いい判断だね。」

　すごいな。かくかくしかじかしか言ってないのにここまで正確に状況を理解するだなんて。

「じゃあこいつは悪人なんだね。」

「そうそう。悪人。」

「ち、ち、違うんだよ。これはほんの出来心というか……。助けて不定ちゃん！」

　しかしいつの間にかボブカットの少女は忽然と姿を消していた。逃げ足が早い。

「じゃ、殺るね。」

「やめて、許して、殺さないで……！　許してください……！　せめて、せめて命だけは……。イヤァァァァァァァァーッ！」

　こうして、地下施設には悲痛な叫びが響いた。下沢をいじめる奏明に顔はどこか楽しげであった。