第47話 罠
「まずは君が親だ。賭け金はいくらにするね?」
賭け金か。今の俺の手持ちは10万。これをどうするか、だな。正直ギャンブルなんて分かんないし、言うて俺は不定ちゃんの前座みたいなところあるしな。
「頑張って陰キャくーん。応援してるよー。」
応援されたらここはとことん張るしかない。
「10万で。」
「いいだろう。さぁ、サイコロを振れ!」
下沢から渡されたサイコロを茶碗の中に振るい入れる!
「チンチロリン!」
「な、なんだと!?」
出た目は1と1と1! つまりこれって……。
「ピンゾロ!」
「いきなり5倍付けだと!?」
下沢は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、10万円の束を5つ投げてくる。
「こ、これがギャンブル……! 一瞬でこんな大金を稼げるなんて!」
俺もうギャンブルで食べていこうかな。
「次だ! 私は50万円を賭けるぞ!」
下沢はそう言って茶碗の中のサイコロを掴み取った。
「チンチロリン!」
出た目は5と5と6。強い通常役だ。
「これ以上を出さないといけないのか。だが行けるぜ! チンチロリン!」
俺がサイコロを振るう。
「あ、あ、あり得ない……!」
下沢絶句。それもそのはず、出た目は1のゾロ目。つまりピンゾロ。5倍付け!
「さぁ払え! 250万円をよォーッ!」
「ぐっ、き、貴様……!」
先ほどまで余裕綽々だった下沢の顔は醜く歪んでいる。
「貴様、どんなイカサマを……!」
「イカ……サマ? なんのことかさっぱり分かんねぇーなぁーッ!」
「おのれおのれおのれ!」
しかし実際なんのことかさっぱり分からない。俺普通にサイコロ振ってるだけだしな。もしかしてめちゃくちゃ運がいいとか?
「サイコロになにか細工をしたのかッ!?」
下沢はサイコロを掴むと穴が開くほどに観察を始める。その時、俺は後ろから肩をポンポンと叩かれた。振り返ると不定ちゃんが意味ありげにウインクをする。もしかして、彼女がスキルとかでなにかしているのか?
「クソ……細工はないのか? ならばスキルか?」
「おいおい、もういいか? 次は俺が親だよな。俺は310万円を賭けるぜ。」
「全額だと!?」
不定ちゃんがなにかしてくれているなら、次も勝てるはずだ。最初の10万+最初に勝った50万+さっき勝った250万を足して310万円をベットしてやる。
「くっ……! サイコロを振れ!」
「言われなくともチンチロリン!」
サイコロは茶碗の中でコマのように回る。そして摩擦によりその回転力を失い、止まる。そうして出た目は……!
「ピンゾロ!」
「ああ、ああああ、あり得ないいいいい! 罠だ! これは罠だ!」
310万の5倍付け。1550万円!
「イカサマだ! スキルを使ったイカサマだ! こんなの認めないぞ!」
「おいおい、言いがかりはよしてくれ。いつ俺がイカサマをしたって?」
「そうそう。ボク達がイカサマをしたって言うなら証拠を見せなよ。ま、そんなものがあれば、だけどね。」
「ドゥワーハハハハハハハハハ!」
「ブゥワーハハハハハハハハハ!」
2人で下沢を囲んで大笑いする。とても気分がいい。他人を騙し、搾取し、陥れることがこんなに楽しいとは思わなかった。
「許さん。絶対に許さんぞ貴様ら。1860万円を賭けてやる! 先ほどのように上手くいくとは思わないことだな!」
下沢がそう言うと、ドゥーンという重い音が響き、俺の体は地面にめり込んだ。
「うぐぁ!」
「貴様がスキルを使うというのなら、私もスキルを使うまでよ。それではサイコロを振れまい。」
まるで自分にかかる重力が1000倍になったようだ。指先すら動かすことができず、体は重力で潰れそうだ。だが口だけは動かすことができる。
「くっ……サイコロを振るのはお前からだぜ……。」
「ああ分かっているさ。」
下沢は俺の手からサイコロを奪い取ろうとする。その時、俺はサイコロに〈上下左右・右〉を付与しておいた。
「どうせサイコロなど振らなくても貴様は指先ひとつ動かせないのだから勝負は決まっているようなものなのだがな。形式上振ってやる。チンチロリ――な、なにィーッ!?」
下沢はサイコロを茶碗に投げ入れようとした瞬間、サイコロは重力に反して右の方向に飛んでいった。
「ははは、ションベンだな。払ってもらうぜ。1860万円を。」
「まさか、それほどまでのスキルを持っていたとは……。」
下沢の意識が逸れたからか、俺の体は軽くなる。どうやら下沢のスキルは強力だがかなり集中力のいるスキルのようだ。
「俺の……ターンだ。賭けるぜ。3720万円を!」
「ま、待て!」
「待たない! チンチロリン! ピンゾロ!」
当たり前のようにピンゾロ! 1億8600万円払い!
「クソ……クソがァァァァ!」
楽しい。なんて楽しいんだ。これがギャンブル……! これが犯罪……! こんなに楽しいことはない。ああ、素晴らしい。バラ色の人生……。
「1億8600万円賭ける。チンチロリン!」
はっ、無駄だってのに。
「――ピンゾロ。」
「えっ?」
「9億3000万円払いだ。定気。」
「……は?」
あ、あり得ない。あり得てはならない。こっちには不定ちゃんがついているんだぞ。
「たまたま相手の運が上振れただけだよ。陰キャくん、取り戻そう。」
「あぁ……。9億3000万賭けで……。」
「おいおい、いいのか? それは負ければ借金をするということだぜ? 今でも7億4400万円の借金があるというのに。」
い、いや、今さらそんなことを言われても……。借金があることには変わりないし、不定ちゃんもいるんだから負けるはずがない。大丈夫だ。またピンゾロを出せば……、またピンゾロを出せばいいだけだ。サイコロの出目は不定ちゃんが操作してくれる。大丈夫だ。
「行くぜ……。9億3000万賭けだ! チンチロリン!」
ニヤリと口角を釣り上げる下沢に若干の不安を覚えながらも、俺はサイコロを振るった。3つのサイコロのうち、1つはすぐに止まって1の目を出した。残りの2つはクルクルと回り続ける。
行ける。そう思った俺の意思に答えるように、サイコロはゆっくりと回転力を失い、静止した。
出た目は、ヒフミだった。
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