第46話 サイコロ賭博

「確かにここは賭博部の部室だが……なんの用だ?」


 俺達は賭博部の部室に来ていた。不定ちゃんは部員の人になにかカードのような物を見せる。


「なるほど。入れ。」


 どうやら中に入れてくれるようだ。


「今の、なに見せたんだ?」


「会員証。さ、入って入って。」


 促されるまま入ると、そこではむさ苦しい男共がトランプをしていた。


「こっちだ。」


 最初に対応してくれた男は部室の端にある床扉を開いた。まさか地下室か?


「まぁ違法だからね。」


 違法だからか。まぁ確かに違法なら地下でやるよなぁ。


 床扉から続く階段を降りると、そこには先ほどの何倍も大きな空間があった。


「ポーカー、チンチロ、ルーレット、バカラ。ここでは様々なルールでギャンブルが行われている。」


 トランプの切られる音やサイコロの音が、怒号の合間に響いていた。


「クソっ! また負けた!」


「なんだこれ! 絶対おかしいって!」


 そこはまるで治安の悪いスラム街。台パン、発狂は当たり前。中にはディーラーに掴みかかる男もいた。


「おぉっと、それはダメだよ。」


 その瞬間、ドゥーンという重い音が響いた。ディーラーに掴みかかっていた男は突然地面に叩きつけられ、もがき苦しむ。


「ギャンブルは負けた側がお金を支払うからギャンブルなんだ。負けは負け。敗者は大人しくお金を払いなさいな。」


 カツンカツンと音を鳴らして、痩せた背の高い男が現れた。そいつは地面に伏せて苦しむ男の懐を弄り、お金を取り出す。


「まったく……。わざわざスキルを使わせないでくれ。従業員。このお客様を入口まで送って差し上げなさい。」


「イエス、サー。」


 奥から幾人もの男が現れ、うつ伏せの男を連れ去っていく。可哀想に。あの人はコンクリート詰めだな。


「さて……どうやら新参さんがいるようだね。不定ちゃんの紹介かな?」


「そだよー。この子は定気くんね。」


「定気くんか。聞いたことのない名前だが、こんなところに来るなんて相当なワルだね。」


 痩せた男はクックックと笑う。なんだか怪しい。怪しい雰囲気だ。


「私は賭博部部長にしてこの地下ギャンブル施設のオーナー、下沢しもざわだ。聞かせておくれ。君はどんなゲームが好きなんだい? ルーレットでもバカラでも、なんでもいいよ。今日は私はおもてなしをしてあげよう。」


 うむ。正直ギャンブルなんてミジンコほども知らない。どのゲームが勝ちやすいとかあるのだろうか。いかんせん知識がないからなぁ。


「とりあえず、1番勝ちやすいヤツで。」


「実に正直だね。気に入った。来るといい。」


 下沢についていく。会場の隅の小さなスペースに来ると、彼はそこで賭け事に勤しむ人々に目をやった。彼らは茶碗のような物に、四角いなにかを叩きつけている。


「これはチンチロ。サイコロ賭博だ。」


「サイコロ賭博?」


「茶碗の中にサイコロを転がして出た目で勝ち負けを判定する。トランプやルーレットよりイカサマは難しいし、知識による差も出にくい。初心者にはオススメさ。ルールは知っているかい?」


「いや、知らない。」


「教えてあげよう。」


 下沢はチンチロのルールを教えてくれた。チンチロは3つのサイコロを茶碗の中に振り入れて勝敗を決定する。最初に賭け金を決定し、サイコロを転がす。親と子がそれぞれ3回ずつサイコロを振るって、1番いい役が出た方が役に応じた金額を手に入れるらしい。しかしいくつかルールがあるようだ。


「役は7つある。ピンゾロ、ゾロ目、シゴロ、通常役、目ナシ、ションベン、そしてヒフミ。このうち、ピンゾロ、ゾロ目、シゴロ、ションベン、ヒフミが出たならすぐに勝負が決まる。」


 ピンゾロ。1のゾロ目のこと。出たら即勝ち。賭け金の5倍の金がもらえる。

 ゾロ目。3つ同じ目が出ること。これも即勝ち。賭け金の3倍の金がもらえる。

 シゴロ。456の目が出ること。即勝ち。賭け金の2倍の金がもらえる。

 通常役。同じ目が2つ出ること。1と1と2とか、4と6と6とか。同じ通常役の場合、数字の大きい方が勝つ。賭け金と同じ額の金がもらえる。

 目ナシ。役がないこと。賭け金を支払う。

 ションベン。サイコロが茶碗から出たらこの役になる。即負け。賭け金を支払う。

 ヒフミ。123の目が出ること。即負け。賭け金の2倍の金を支払う。


「以上が役だ。なにか分からないことがあれば適宜聞いてくれ。」


「ほへぇ。なんかよく分からんけど分かった。」


「ではさっそくゲームを始めようか。すまないが、そこのお前達、場所を開けてくれるか。」


 下沢の一言でチンチロをやっていた人達がサーッと引いていった。もしかしてこの人すごい人なの?


「では始めようか。欲望と破滅のサイコロ賭博を。」

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